不思議な令嬢マリさん
「美味しかったです!」
幸せな時間だった!
「うん、あの追いキャラメルがすごく良かった」
「ナセル様、甘いものはお好きですか?」
「普段は食べない。でも嫌いでもないってところかな」
「へー、知りませんでした」
もしかして昔、勉強が終わったあとにお茶をして、お菓子を食べていたのは私に付き合ってくれていたからなのかな……。美味しそうに食べていたから好きなのだと思っていた。それとも、成長するうちに味覚が変わったとか?
「シャノン、ごめん。ちょっとここで待っててすぐ戻るから!」
「はい」
どうされたのかしら? 忘れ物……っ感じではなさそうですね。久しぶりに街の雰囲気を、ぼぉーっとしながら見ていた。
「あれ、シャノン?」
呼ばれた先を見るとそこには……
「ミカエルと……えっと、花瓶の方?」
可愛らしい方でしたから、私服でもちゃんと分かりました。
「酷いです! まだ根に持っているのね」
ミカエルの腕に絡みつく花瓶の水の人。ミカエルは腕を解こうとしているけれど、気にしなくていいのに。確かランチの時間も一緒にいたから相当仲がいいようだ。
でも名前を存じ上げないからから、つい……
「申し訳ございません。お名前を伺っていなくて……わたくしはシャノン・ド・コレットと申しますの」
「マリ・ロルシーです!」
ロルシー……確か噂になっていた子爵家のご令嬢ですわね。なぜそんなに機嫌が悪そうなのかしら? 私が二人のデートの邪魔をしたから? ミカエルも幼馴染とはいえ、デート中に異性に声を掛けるなんて無粋な真似しなくてもいいのに……
「ロルシー様と、ミカ……、ではなくてロンゴ様はどうされたんですか?」
「デートです。ね! ミカエル」
笑顔のロルシー様となぜか困った顔をするミカエル。
「男女二人で出掛けたらデートでしょう!」
当然でしょう。と言わんばかりのロルシー様。
「仲がよろしいのですね」
休みの日に二人で出かけるくらいだから、仲がいいのは見てわかる。
「いや、単なるクラスメイトとと言うだけで、」
「仲良くさせてもらっています!」
ミカエルの腕をさらに絡ませるロルシー様。
「まぁ、学園で素敵な出会いがあったのですね! よかったですね」
「だから、そんなんじゃないって、シャノン、誤解だから」
またロルシー様の腕を外そうとしていた。照れているのかも。こんなミカエルの姿を見たことがなかったから新鮮だわ。
「シャノン、待たせた……ってなんだ?」
私たち三人の姿を見て、明らかに不信感丸出しのナセル様。
「わあ! ナセル様だ! こんにちは。こんなところで会うなんて、もしかして運命とか!?」
キャッキャとはしゃぐ花瓶の……じゃないロルシー様。
「……シャノン、行くぞ」
「ひど~い! ナセル様ったら。声をかけたのに無視するなんて」
「私の名前を気安く呼んで欲しくない。なぜシャノンは相手にするんだ。この二人は何でここに?」
「デートをしているそうです。とても仲がいいんですよ」
「シャノン、だからデートじゃ──」
「デートではありません!」
「? 先ほど男女二人で出掛けたらデートだと仰いませんでしたか?」
聞き間違いではないですわよね?
「気のせいよ! ね! ミカエル」
「僕は何度も言っている。デートじゃない!」
痴話喧嘩というやつかしら? 仲がいいと喧嘩をするとも言いますし。なんだか微笑ましく思えてしまいます。
「そうか。私たちはデートの最中なんだ。シャノン行くぞ!」
「え、えぇ。そうですね」
どんな方か分かりませんが、ロルシー様は少し変わった方なのかもしれません。
「それならダブルデートしませんか?」
やはりデートだったんですね!
「はあ。話になりません。隣にいるのは確かロンゴ伯爵のご子息でしたよね」
「はい。ミカエル・ロンゴでございます」
そういえばミカエルは、ナセル様と直接話をするのは初めてだったのね。
「すみませんが、見てのとおり私たちはデート真っ最中です。デートの邪魔をされたくないので、そちらの令嬢とどうか二人で楽しんでください。お願いしますね」
笑顔のナセル様だけど、ちょっと怒ってるみたい。言葉の端々が冷たいもの。
「……分かりました」
ミカエルのこんなにしおらしい姿を見たことがなかったから、少し驚いた。私の前ではいつも自信たっぷりだったから。
「よし、行こうシャノン」
「あ、うん。失礼します。ロンゴ様、ロルシー様」
手を取られて早歩きで二人から離れました。不思議な方ですよね。ロルシー様とミカエルはお付き合いをしているのかしら?
「ごめん。まさか少し離れた隙に絡まれるなんて私のミスだ……。あの彼がシャノンのことを保留って言ったんだっけ?」
「そうでした! 色々ありすぎて、すっかりと忘れていました」
「忘れていたのかよ……こっちは気にしてたのに」
「え?」
「嫉妬ではらわたが煮えくりかえっている」
「嫉妬?」
「シャノンが好きな男だろ!」
「あ!」
「次はなに?」
「返事しなきゃ」
「返事? 何の? 誰に?」
眉を顰め少し機嫌が悪そうなナセル様。
「学園でいろんな人と出会って、それでもミカエルがいいならまた告白して欲しいって言われたの。でも告白したことは忘れて。って言わなきゃ。あのとき、ミカエルに保留って言われて考えたの。好きだったってことには変わりがないけれど、確かに視野は狭かったから、ってきゃっ!」
「うん。それは返事をしなきゃ、早急に」
気がつくとナセル様の胸の中にいた。ぎゅっと抱きしめられている。前が見えない
「苦しい……」
ナセル様の腕を叩いた。息ができない。
「あはは。ごめんごめん。嬉しくてつい。で、いつ返事するの?」
パッと離された。
「まだ決めてないけれど、近いうちには」
「私もその場に居てもいい?」
「え! なんで?」
「ダメ?」
「はい」
「ダメなの?」
「いいですよ。って返事をするわけないですよ。デリケートな問題ですからね」
「……それはそうだな。……デリカシーに欠けていた。ごめん」
「そろそろ帰りましょうか? 遅くなったらお父様に心配をかけてしまいます」
「あ、本屋に寄りたいんだ。兄上に頼まれた本を買いたい」
「本屋さんですか! いいですね! 行きましょう」
王都で一番大きな本屋さんに着いた。私が毎回楽しみにしているこの売り場は、ある仕掛けがあって楽しい。例えば、キャンディーにまつわる本が並べられていて、一緒にキャンディーの販売もしている。私はキャンディーを一つ手に取った。カラフルでキラキラしていてプレゼントに丁度いい大きさだった。私は一番小さな袋を一つ買った。
「お待たせ。なにそれ?」
「ナセル様。お願いがあります」
「お願い? シャノンの願いなら何でも聞くけど」
「ふふ。それは大袈裟ですね。これをマックスお兄様に渡して下さい」
「兄上に?」
ナセル様の綺麗な眉間に皺が寄った。
「はい。昔、マックスお兄様にね、よくキャンディーを貰いました。疲れた時は糖分が必要だって。いつもお兄様のポケットに入っていました。今は知らないけれど、すごく懐かしいと思って」
「えー。何だ、それは! 私は兄上からキャンディなんて貰ったことないよ」
ナセル様が驚いた顔をしています。
「先日はお忙しいのにお時間を取ってもらったお礼です。って伝えてください」
「私にはないのに?」
「ナセル様には別のものを用意しています。もう少し時間がかかります」
「ふーん。分かった」
「キャンディーもいりますか?」
「シャノンがくれるものはなんでも嬉しいよ」
「またそんなことを言って」
「本気だよ。でもそろそろ帰らないと侯爵に怒られそうだから、また今度改めて口説くことにする」
そして無事に家に帰ってきた。
お父様とお母様にどこに行ったか、なにをしていたかと矢継ぎ早に聞かれ少し疲れたのは内緒。
「シャノンちゃん、楽しかった?」
「うん、とても!」
「「そう」か」
お母様は嬉しそうで、お父様は寂しそうな顔をしていたのが印象的だった。
「あら? シャノンちゃん、その髪飾りどうしたの? 出かけるときはつけていなかったけれど、可愛いわね。とっても似合っているわ」
髪飾り? 付けてたっけ……侍女が笑いながら鏡を持ってきてくれた。
「本当だ……」
あれ? 一体どこで……私こんなデザインの髪飾り持っていなかったはず。
「お嬢様、殿下に抱きしめられていたときですよ」
こそっと侍女に耳打ちされて、かぁっと顔が赤くなるのがわかった。え、あのとき……?
「待て! 抱きしめられたってなんだ! そんな破廉恥なことをしているのか!」
「あら? 仲がいいのねぇ。シャノンちゃんもやるわね! さすが私の娘」
「ママは黙ってなさい! シャノン! パパはそんな娘に育てた覚えないからなっ! 殿下め! あれほど言ったのに」
お父様は怒りお母様は楽しそうだった。




