第八話:揺らぐ世界
最初に気づいたのは、“音”だった。
世界が、軋んでいる。
無数の世界線をつなげた影響は、すぐに現れた。
空が二重に見える。
歴史が食い違う。
存在しているはずのない記憶が、流れ込んでくる。
「……安定していないな」
俺の判断は正しかったはずだ。
すべてを残す。
選ばせない。
だが――
「このままだと、全部崩れる」
矛盾が増えすぎている。
世界は、“一つであること”を前提に作られていた。
それを無理やり束ねた代償が、これだ。
「処理不能状態、継続」
背後で、“核”の声がする。
だがもう、あいつは何もできない。
選べない以上、排除もできない。
「……皮肉だな」
俺が止めたはずの“選別”が、
今度は“必要”になっている。
しばらく、考えた。
そして――
結論は、すぐに出た。
「全部は、無理だ」
口にすると、不思議とあっさりしていた。
あれだけ守ろうとしたものを、
自分で否定することになるのに。
「じゃあ、どうする」
問いは、自分に向けたものだ。
答えは、もう決まっている。
「選ぶんじゃない」
“核”と同じことはしない。
「削らない」
なら――
「分ける」
手をかざす。
つながった世界線に、境界を与える。
完全に切り離すのではない。
干渉を最小限に抑えながら、
それぞれが“独立して存在できる形”へ。
「多層構造……」
自分で呟く。
世界を一つにしない。
だが、孤立もさせない。
「共存させる」
ゆっくりと、構造が変わっていく。
軋みが減る。
矛盾が、収まっていく。
ナポレオンの世界は、そのまま。
日本の世界も、そのまま。
機械の世界も、終わった世界も。
すべてが、“別の層”として安定し始める。
「安定化、確認」
“核”が言う。
その声は、どこか静かだった。
「最適解ではない」
「だが、維持は可能」
「それでいい」
俺は答える。
「最適じゃなくていい」
「存在できれば、それでいい」
沈黙。
やがて、“核”が言った。
「新ルール、認識」
「選別処理を停止」
その瞬間。
世界は――静かになった。
しばらくして。
俺は、自分の“重さ”に気づく。
ここにいる意味。
この構造を維持する中心。
「……なるほどな」
苦笑する。
結局、同じだ。
“核”と。
「維持者、か」
だが。
少しだけ違う。
俺は、“選ばない”。
それだけだ。
目を閉じる。
無数の世界が、静かに回り続けている。
それでいい。
それがいい。
――
そして。
誰も知らない場所で。
存在しないはずの男は、
すべての世界を見守り続ける。
選ばないという選択を、
最後まで貫くために。




