第七話:選別するもの
静寂だった。
無数の世界線が広がる“外側”で、
ただ一点だけ――動かない領域がある。
「……あれが“核”か」
光でもない。
闇でもない。
ただ、“意味”だけが凝縮されたような存在。
近づくほどに、思考が削られていく。
理解が、薄れていく。
だが――
止まらない。
俺はもう、観測者じゃない。
一歩、踏み出す。
その瞬間。
世界が止まった。
いや――
止められた。
「それ以上の接近は、非効率」
声が響く。
感情がない。
温度もない。
ただ、“判断”だけがある。
「お前が……選んでるのか」
俺は問う。
「選別は必要」
「世界線は無限に分岐する」
「すべてを維持することは不可能」
「ゆえに、最適解のみを保存」
「他は削除する」
淡々とした宣告。
俺は、息を吐いた。
「……効率、か」
思い出す。
ナポレオンの世界。
覇権国家となった日本。
機械に最適化された文明。
人類が消えた世界。
全てが異世界と呼べる世界だがどれも、確かに“存在していた”。
「全部、本物だった」
「観測済み」
「価値は評価済み」
「不要な分岐は排除する」
その言葉で、確信した。
こいつは“神”じゃない。
「……ただの選別装置か」
一瞬、空間が揺れる。
「定義:肯定」
「私は、世界線の収束と維持を担う」
笑いそうになる。
「なるほどな……」
だから、迷わない。
だから、全部消せる。
「なら――壊せる」
“核”の圧力が強まる。
「異常存在を確認」
「非帰属個体:1」
「排除対象に指定」
空間が収束する。
押し潰される。
存在ごと。
だが――
「遅い」
俺は、手を伸ばした。
“核”ではない。
その周囲にある――
無数の世界線へ。
「俺はもう、“結果”じゃない」
触れる。
一つではない。
すべてに。
ナポレオンの世界。
日本の世界。
機械の世界。
終わった世界。
すべてが、同時に脈打つ。
「なにをしている」
初めて、“核”に揺らぎが生まれる。
「決まってるだろ」
「選ばせない」
世界線同士が、つながる。
独立していたはずの分岐が、
互いに干渉し、支え合う。
「最適化不能」
「選別不能」
“核”の処理が、止まる。
俺は、静かに言った。
「全部、残す」
それは、観測でもない。
干渉でもない。
「保存だ」
無数の世界が、一つの構造になる。
一つを消せば、全体が崩れる。
もう、切り分けられない。
「矛盾発生」
「処理不能」
その瞬間。
俺は理解した。
俺はもう――
“この世界の外側の存在”ですらない。
「ルールの外に出た」
静寂。
“核”は、何もできない。
そして俺は――
その中心に立っていた。
「まだ終わりじゃない」
ここからだ。
世界は、まだ決まっていない。
なら――
決める必要もない。
「全部、そのままでいい」
それが、俺の答えだ。




