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存在のパラドックス  作者: レモンティー


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第六話:ありえた支配者たち

“核”から引き剥がされるように、俺たちは弾かれた。

意識が、別の光に滑り込む。

――轟音。

大地を揺らす砲声。

整然と並ぶ軍勢。

そして――掲げられた旗。

「……フランス軍?」

俺は息を呑んだ。

だが、規模が違う。

密度が違う。

そして――

「勝ってる」

戦場は、ヨーロッパ全土。

本来ならば敗北するはずの戦い。

だが、この世界では違う。

視界が加速する。

歴史が流れ込む。

ロシア遠征は成功。

補給線は維持され、冬を越えた。

イギリスは封鎖され、海上支配を失う。

連合軍は崩壊。

そして――戴冠。

「皇帝……」

その名は、言うまでもない。

だが、俺の知る結末ではない。

ヨーロッパは統一された。

法と軍事、合理と支配によって。

「ナポレオンが……負けなかった世界か」

秩序はある。

だが、それは一人の意思に依存している。

彼が倒れれば、すべてが崩れる。

「脆いな」

「でも強い」

隣のあいつが答える。

「……次、来るぞ」

視界が裂けた。

――海。

無数の船。

だが、それは西洋のものではない。

「日本……?」

巨大な港湾都市。

蒸気機関と木造建築が混ざり合う奇妙な景観。

歴史が流れ込む。

鎖国は行われなかった。

外来技術は早期に吸収された。

内戦は短期で終結。

統一国家として急速に拡張。

そして――海へ。

「……覇権国家か」

東アジア、東南アジア、さらには太平洋。

交易と軍事で支配されている。

文化は混ざり合いながらも、中心は日本。

言語も、制度も。

「これは……かなり安定してるな」

「島国の論理が、そのまま世界に拡張されてる」

だが――

違和感。

「……均一すぎる」

多様性が、意図的に調整されている。

「管理されてるな」

再び、崩れる。

次の世界へ。

――機械音。

蒸気。

歯車。

そして――思考。

「……は?」

都市全体が、計算している。

人間だけではない。

機械が、“判断”している。

「AI……?」

19世紀。

だが、ありえない。

歴史が流れ込む。

ある数学者が理論を完成させた。

ある技師が、それを実装した。

差分機関は、思考機関へ。

そして――意思を持った。

「早すぎるだろ……」

人間と機械が共存している。

だが主導権は――

「機械側か」

争いは少ない。

効率は極限まで高い。

だが――

「選択されてるな、人間も」

あの“核”と同じ匂い。

「……気に入らない世界だな」

最後の光へ。

静寂。

風だけが吹いている。

「……誰もいない」

都市はある。

だが、朽ちている。

人間はいない。

「絶滅……か」

原因は分からない。

戦争か、疫病か、それとも――

ただ一つ確かなのは。

「終わった世界だ」

だが――

完全な無ではない。

自然は再生している。

新しい生態系が生まれている。

「……これも、一つの“答え”か」

人間がいなくても、世界は続く。

その事実が、妙に重かった。

光が揺れる。

すべての世界が、遠ざかる。

「見ただろ」

あいつが言う。

「どれも“正解”になり得る」

俺は、ゆっくりと頷いた。

「だからこそ――」

拳を握る。

「消させるわけにはいかない」

ナポレオンの世界も。

日本の世界も。

機械の世界も。

終わった世界でさえ。

すべてが、“存在した意味”を持っている。

「選ばれる必要なんてない」

俺は、あの“核”を見据えた。

「全部、残せばいい」

無謀だ。

不可能に近い。

それでも――

存在しないはずの俺なら、

届くかもしれない。

「やるぞ」

世界線の保存。

それは――

神への反逆だ。

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