不意に褒められて
「あの、この魔法陣、香久耶様の首筋に浮かび上がっていたものです!」
清一とレオは杏那が指さした魔法陣を覗き込む。そして杏那が続ける。
「これは魔王の印であると以前学んでいたので、すぐに魔法陣を無効化する呪文“ボイド”を唱えたところ、香久耶様から魔王の魂が飛び出したのです。これは魔王が乗り移った者に現れる印なのですね。」
「あのとき魔王が飛び出したのはそういうことだったのか。杏那、本当によくやった。これは魔王のシンボルだ。しかし、乗り移った者にこの印が現れるとは、これまでの記録にはなかったな。」
レオに続き、清一も感心している。
「杏那よ、貴重な情報だ。記録に追加するとしよう。」
清一は紙に今回の事象を書き記すと魔王のシンボルが描かれたページに追加する。レオはふと杏那に質問する。
「杏那はここにある書物はもしかして全部読んだの?」
「はい、レオ様。まずは戦う相手を良く知る必要があると神官長様から教わり、幼い頃に何度も繰り返し読んで覚えました。」
あっさりすごいことを言う杏那にレオは改めて感心した。
(やはり当代の乙女は歴代随一かもしれぬ。清乃は別としてだが…。これまでの乙女も皆努力家であったがこれほどとは…。)
「魔法陣の解除は清一殿が教えたのですか?」
レオがファイルに情報を加えている清一に話を振る。
「いえ、杏那は幼い頃から本当に手のかからない子で、ここにある資料も独学でマスターしてしまったのですよ。自分で読んでは実践し、記録の検証までしていましたな。」
「神官長様がこれほど貴重な資料をお見せくださったおかげです。」
杏那はとても礼儀正しい。褒められているのに全く驕ることがない。まだ十六歳だというのにいつも謙虚で冷静だ。レオは杏那の幼少期に想いを馳せた。
(これほどの実力を持っていながらその力を驕らず、幼い頃から熱心に学んだのか。神界から時折様子は見ていたが、我儘も言わずひたむきにいつも頑張っていた。家では辛い思いをしただろうに…。清一殿や豪がうまく守ってくれたのだな。)
「そうか。杏那は本当に偉いな。よく頑張ったね。」
レオは優しい眼差しを向け、杏那の頭をそっと撫でた。
「レオ様…。」
杏那は不意に褒められ驚くと同時に、心臓がドキッと音を立てる。レオの眼差しと手の温かさになぜか泣きたくなるのを感じた。
(私どうしたのかしら。こんなところで泣いては変だわ。)
杏那は涙を堪えると、視線をファイルに戻して話を変える。
「そ、そういえばレオ様、この部屋にある資料はどれくらい昔からあるのですか?神殿に伝わる記録と教わりましたが、歴代の神官長様や乙女様が残された資料なのですか?」
「レオ殿、もしよろしければお話いただけませぬか?伝承には多少曖昧なところもあり、ここにある記録は国の興り以前のものが多いようで私も気になっておったのです。」
神殿は古くからあるが、起源についての伝承は少し曖昧だった。神官長である清一も伝承や先代からの伝聞で知るしかなかったのだ。




