最たる使命
三人は清一の案内で食堂を出て次の目的の部屋へと向かう。三人とも言葉に出さずとも行先は分かっていた。秘密の応接室でもなく、豪奢な装飾の神官長の会議室でもなく、祈りの間でもない。三人が向かったのは神殿の地下にある、これまた隠された一室だ。扉は厳重に施錠されている。神官長のみが持つ鍵で扉を開けて中に入る。
室内は頑丈な壁で囲まれ、外部からの侵入を警戒している部屋であることが分かる。部屋の中は四方に隠しの護符と外部からの魔術を退ける結界の護符が貼られ、古い本や置物、アクセサリーのような小物などが保管されている。初めてこの部屋を訪れた人なら、少し異様なその雰囲気に間違いなく驚くであろう。
しかし、室内を見てもレオに驚いた様子はない。それを見て再び杏那は思った。
(レオ様、この場所も知っていたようだったし、室内にもまったく驚いていないようだわ。きっと以前にもこの部屋にいらしたことがあるのね。前回はいつだったのかしら?太陽の女神様から遣わされているということだったけど、レオ様って太陽の乙女の守護をなさってどれくらいになるのかしら?それに何歳でいらっしゃるの?)
以前からレオに聞きたいことがたくさんあるものの、レオと出会ってから大きな任務続きでなかなかゆっくり話せていない。考えれば考えるほど杏那はレオのことが気になってしまう。そして密かに今日こそはレオ様とお話しようと決意するのだった。そんな杏那に清一が声をかける。
「杏那、持ってきているかな?」
杏那ははっとして返事をする。
「はい。こちらです。」
そう言って取り出したのは、茶会の後、香久耶の右手から魔法陣を移し取った懐紙だ。懐紙を受け取った清一は、書棚から一冊の古く分厚いファイルを取り出すと、そこにその懐紙を加えた。ファイルされている他の紙は多くがとても古く年季が入っているものの、上の方には数枚、比較的新しい紙が重なっていた。
「拝見しても良いだろうか?」
レオが清一に尋ねると清一は快く了承しレオにファイルを手渡した。
「えぇ、勿論でございます。レオ殿が御覧になるのは四十年振りくらいでしょうか。代替わりしてからここ数年、似たような魔法陣を何枚か回収しておりました。それほど近年、魔族の動きが活発になっていたということでしょう。」
ファイリングされている魔法陣は神殿関係者、主に幅広いビジネスを展開する神城家の者たちが商談や街中で回収してきたものである。その他には内々に国王から回ってきたものもあった。
王宮では公にはしていないが、宮中のルールがいくつかある。そのうちの一つが“魔族に関するものを見つけた者は王宮の安全管理室に届け出よ”というものだ。実際には安全管理室に届けられた後、占術院で危険性が検証され、現物とともに国王に報告が上がる。そして国王の元に管理されることになっているが、実際には国王から神殿に渡り、この神殿の地下で厳重に管理されるのだ。こうして集められた魔族に関する情報は太陽の乙女の元に集約され、魔族対策に活かされる。
「杏那も例外なく魔族対策を学んでいたのだね。」
レオが杏那を見て微笑んだ。
「はい。魔王の封印を守ることと魔族対策は私の最たる使命と教わり、幼い頃から学んできました。」
太陽の乙女は太陽神から受け継ぐとされるその力の下にあらゆる闇を祓う使命を背負っている。このおよそ千年の間は魔王が封印され魔族との目立った衝突もなかったため、悪霊や妖怪、邪術対策がメインとなっていたが、本来の太陽の乙女の使命は魔王の封印を守り、魔族からこの国を守ることである。故に、太陽の乙女は代々神殿で魔族対策を学ぶことになっているのだ。
「そういえば第一王女の右手に魔法陣があるというのはいつから気づいていた?」
「地下で香久耶様の右手に触れた時、焼けるように熱を帯びていたのです。その時は掌までは見ることができませんでしたが、もしやと思って。」
地下で香久耶の手を握り、正気に戻そうと必死で呼びかけたとき、香久耶の右手の異変に気付いていたのだった。
「杏那は本当に優秀だ。清一殿の教え方が良いのかもしれませんね。」
レオが褒めると清一は“いえいえ”と言いながら謙遜している。レオがファイルを丁寧に捲っていくと、途中で杏那がページを捲る手を遮った。




