祈りの間
魔王を封じた翌朝、杏那は神殿の最上階にある祈りの間にいた。祈りの間は神殿の各種行事で太陽神に祈りを捧げるときに使われるが、太陽の乙女が日々の報告や祈りを捧げるときにも使われる。限られた人物のみが出入りできる特別な場所だ。杏那は報告があるときはいつも朝早くに訪れ、祭壇の前で膝を付き、両手を組んで祈りを捧げている。
(女神様、ご加護とお導きに感謝申し上げます。魔王の封印が解かれましたが、元の水晶に封じ直しました。水晶は奪われてしまいましたが、魔王によってもたらされる災いは私が必ず防ぎます。あと、当代の時の神の力を受け継ぐ剣士様がお力を発現し、術を使えるようになりました。この国の平和が女神様のご加護の元に続きますように…。)
杏那が一通り報告と祈りを捧げると、天井のステンドグラスを通して朝日が降り注ぐ。陽光は銅鏡に反射し、杏那にも部屋全体にも降り注ぐ。キラキラと煌めきとても神秘的な光景が生まれる。杏那は降り注ぐ陽光を身体中で受け止める。
(女神様の温かさで心身ともに満たされるのが分かる。神力もこれで万全です。)
部屋にはレオもいるが、レオも杏那と同じように陽光を身体中で受け止め、気持ち良さそうに深呼吸をしていた。
「杏那、そろそろ行こうか。」
「はい、レオ様。」
二人が部屋を出ると向こうから神官である周一がこちらに向かってきている。二人に気づいた周一が声をかける。
「レオ様、杏那様、おはようございます。朝のお祈りは終わられたようですね。神官長様がお呼びです。」
二人は周一に挨拶を返し、周一の案内で神官長である清一の待つ部屋へと案内された。てっきり清一がいつも使っている応接室に通されるのかと思ったが、着いた先は神殿の食堂だった。食堂はシンプルで質素な造りであるが、掃除が行き届き良く手入れがされていて清潔である。杏那たちが顔を見せると、食堂の奥にいた清一が立ち上がり、こちらに向かってくる。
「レオ殿、杏那、おはよう。ようこそおいでくださった。朝食はまだだろうと思ってね。質素なものばかりだが、昨日のせめてもの労いに良かったら一緒にどうだい?」
レオと杏那は顔を見合わせると、すぐに二人とも笑顔で返事をする。
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えてご馳走になります。」
「神官長様、お気遣い感謝いたします。」
席につくと神官たちが三人に食事を運んできてくれた。神殿の食事は新鮮な野菜や果物を使ったシンプルなものが多く、素材の味が活かされていてどれも美味しい。食べると不思議と力が湧いてくるようだった。
「レオ殿、お口に合いますかな?」
清一がレオを気遣うと、レオは礼儀正しく応じる。
「大変美味しゅうございます。今も変わらず、素材を活かした調理法を続けられているのですね。」
レオと杏那が神殿の食堂で一緒に朝食をいただくのは今回が初めてだったが、レオは先代の時にも、そのまた先代の時にも何度か神殿の食堂を利用したことがあったのだ。
「お気に召したのなら何よりです。神殿の食堂に並ぶ食材は、近隣からのご寄付や神殿の菜園で採れるものですから、できるだけシンプルに素材を活かすことにこだわりをもっているのですよ。裏を返せば、良い食材に恵まれているということですね。」
杏那はそんな風に会話する二人を見て思った。
(レオ様って昔から神城家をお守りくださっているというお話だったけれど、もうどれくらいになるのかしら?)
杏那は抱いた疑問を一旦頭の片隅に置き、他愛もない会話とともに朝食を楽しんだ。三人とも食事を終えると清一が移動を促す。
「さて、そろそろ行きましょうか。」




