気づかないうちに
いろいろあったお茶会の夜、杏那が就寝の準備をしていると扉をノックする音が響いた。
「は~い。」
杏那が扉を開くとそこには誰もいない。代わりに足元の方から声がする。
「杏那、入っていい?」
足元を見ると、白い子猫、いや白くて美しい子虎がいる。美しいサファイアの瞳で杏那を見上げている。その姿には見覚えがあった。
「えっ!もしかしてレオ様!?」
白い子虎は開いた扉から優雅に部屋に入ると、杏那のベッドに飛び乗り、早く来なさいとでも言いたげに布団を二回ポンポンと軽く叩き、こちらをまっすぐ見つめている。
「今日は魔王まで封じて力を使い過ぎだろう。だから今晩は杏那のそばにいるよ。」
杏那はレオの姿に驚き、レオの言葉はほとんど耳に入っていない。
「レオ様、なぜそのお姿に?」
(懐かしい…とても可愛らしいのに高貴さが漂うお姿。レオ様と初めて会った時のことを思い出すわ。あの時は神力を回復するために私から片時も離れなかったっけ。一緒にいると相乗効果で回復が早まるのよね。ん?でもなぜこんなに小さくなってしまったのかしら。もしかしてそういうことなの!?)
「レオ様、もしかしてレオ様も魔王と対峙し、力を使い過ぎてしまったのですか?お身体は大丈夫ですか?人の姿に戻れなくなってしまったのですか?」
杏那はレオが回復のために来たと思い、慌てて駆け寄り尋ねた。
「杏那、驚かせてしまったみたいだね。すまない。私は至って元気だ。ちゃんと人の姿にもなれるよ。ここ最近力を使い過ぎている杏那が心配だったんだ。共にいれば神力もより充足する。でも人の姿で杏那と一緒に眠ったら廉が黙っていないだろう?だから最大限配慮して、この姿にしたんだ。普段の大きな白虎の姿でも良かったんだけど、それだとベッドが小さいし…。」
「レオ様…そんなにお気遣いをいただいたのですね。ありがとうございます。今の小さな虎さんのお姿、とてもお可愛らしいです。本当に癒されます。ではお言葉に甘えて、今日は一緒に寝ましょうね。」
杏那は可愛い子虎の姿になったレオにはいつも以上に甘い。可愛い子虎を抱きしめたい衝動をなんとか抑えベッドに入る。子虎姿のレオは紳士的に杏那にそっと寄り添った。
(レオ様のお姿のことも、初めて出会った時のこともたくさん聞きたいことがあるのに、今日はなんだかとても眠いわ…。)
「レオ様、私、レオ様に聞きたいことがたくさんあるの…で…す…。」
杏那はもう半分眠りの中にいる。
「杏那、分かったよ。でも今日はもう休んで。おやすみ。」
「はい…レオ様も…おやすみ…なさい。」
杏那はなんとかおやすみの挨拶を言い終えると、子虎の小さな手を自身の手で優しく包み眠りについた。杏那の寝顔を見ながらレオは小さく呟く。
「太陽の乙女は本当に毎回、努力家だな。先代といい自己犠牲の化身のようだ。自分の疲れにも気付かず、いつも周りのことを一番に考える。」
レオは気づいていた。杏那自身に自覚がなくても神力を使いすぎ、限界が来ていることに。神力自体がなくなるわけではないが、それを発現し使いこなすには持つ者のエネルギーや心の強さが不可欠だ。
このまま十分に回復させずに無理して使い続ければ、杏那は根本的な生命のエネルギーまで費やし倒れてしまう。レオは自分の神力を杏那に注ぎながら、寄り添って眠りにつくのだった。




