記憶の修正③~龍也~
龍也がいる賓客用の部屋。杏那たちが中へ入ると驚いたことにそこには品の良いスーツに着替えた龍也の他に国王と清一がいたのだった。
「国王陛下…、神官長様…。」
杏那が思わず呟くと、部屋にいた三人が振り返る。杏那たちはすぐさま最敬礼の姿勢をとった。清一が杏那たちに声をかける。
「王女殿下たちへの施術は無事終わったようだね。」
豪が代表して返事をする。
「はい、お二方とも予定通りに対応を完了いたしましたことご報告申し上げます。」
そういうと再び恭しく頭を下げる。
「ご苦労であった。さて、なぜ私たちがここにいるのか疑問に思っていることだろう。国王陛下、ご説明を。」
「あぁ、そうだな。君たちが来る前に間に合って良かった。あの後、清一殿とも話して考えを変えた。水宮殿は魔法陣の転移によって水宮邸から王宮の地下に飛ばされた。その経験は今後の魔族対策に有益な情報をもたらしてくれるだろう。それに魔法陣に抵抗しながらも大事には至らなかった。その力の強さは魔族の者たちに目をつけられていないとも限らない。もし水宮殿が魔族に狙われるとしたら、今回の記憶がないことは命取りになるだろう。よって、私は水宮殿が今回のことを口外せず、今後も私に忠誠を尽くすと誓うのなら、彼の記憶は変えないと決めた。異論のある者はいるかな?」
国王は説明し、その場にいた全員を見据える。誰も異論のある者はいない。
「よろしい。では水宮殿に聞こう。もし君が今回のことを口外する恐れがあるのなら、ここにいる者が君の記憶を修正することになる。脅すようで不本意ではあるが、それだけ今回のことは国防と王家の名誉にも大きく影響する事態であったのだ。一方で私は君の術者としての実力をかっている。占術院の次期後継者として身元も確かで信頼できる。そこで問いたい。今回のことを口外せず、今後も私に忠誠を尽くし、太陽の乙女たちの仲間になると誓えるか?」
龍也は迷わず国王の前に跪き、礼の姿勢をとる。
「国王陛下、元より私はこの国、そして国王陛下に忠誠を誓った身。今回のことは一切口外いたしません。王女殿下におかれましては魔族に操られていたためのことと理解しております。そして今後も国の安寧と繁栄のため、国王陛下に忠誠を誓います。さらには太陽の乙女の仲間にとおっしゃっていただけたこと大変光栄にございます。力を尽くして貢献させていただく所存です。」
龍也の声には一切の迷いもなかった。聞いていた誰もがそう感じたのだった。
「うむ。期待以上の答えだ。ではよろしく頼む。」
急な展開に驚きつつも、杏那は嬉しく思っていた。
(水宮様の記憶を変えずに済んで良かった。それに仲間になってくださるなんて。)
杏那だけでなく、理世や豪、廉もこの展開に安堵したようだ。皆微笑んでいる。その様子を確認した国王が言う。
「皆、今日は本当によくやってくれた。では私は会議があるので、これで失礼しよう。」
国王はメイドに杏那たちの帰りの馬車の手配を命じ、部屋を後にした。国王の退室を見送ると、清一が龍也に声をかける。
「龍也殿、よくぞ仲間になると決心してくれた。占術院の仕事もあるだろうに本当にありがとう。龍臣殿の孫息子殿と一緒に仕事ができるとは思ってもみなかった。それに、皆、君の記憶を消さずに済んで安堵しているよ。」
「こちらこそ、とても光栄です。祖父も喜んでくれると思います。」
「詳しい話はまた今度にしよう。」
「はい、よろしくお願いいたします。」
こうして杏那たちは王家の来客用の馬車に乗り、ようやく家路に着くのだった。




