香久耶王女の気づきと処遇
国王たちが香久耶たちの処遇について考えている頃、香久耶は一人自室で椅子に座って考えていた。
(どうしてこうなってしまったのかしら…。)
香久耶は右の手の平に残った魔法陣の跡を見つめ、これまでのことを振り返る。
(もともと水宮様のことはお慕いしていたけれど、結婚したいとかそんな強欲なものではなかったわ。節分祭での水宮様の術を見て、とてもすごい方だと思った。美しさと強さを兼ね備えた美貌、風になびく長い黒髪、真意を悟らせないミステリアスな瞳…。水宮様の全てが素敵で私の憧れだった。王女であっても何も特別な力を持たない私なんて相応しくない。とてもじゃないけど釣り合わない。そんなこと良く分かっていたわ。水宮様はすでに占術院院長を継ぐことも決まっている。実力、権力共に兼ね備えたあの方をお慕いする令嬢も多い。水宮様に相応しいのはきっと同じように術を使いお支えすることのできる女性。正に神殿の巫女のような…。)
ここまで考えると香久耶ははっとした。
(そういうことだったのね。やっぱり全部悪いのは私…。王女でありながら醜い嫉妬に駆られ魔族の者に利用されるなんて…。王女失格だわ…。)
香久耶は思い至ったのだ。清一が言っていたあの魔法陣の力は“魔法陣を持つ者の願望を強め、魔王の元へ導くように仕向ける”、つまりはそもそも私利私欲を持たなければあの魔法陣は作用しない。もっとも、願望を全く持たない者などいないだろう。それでも自制する心の強さがあれば防げたことなのだ、と。
(危険人物として処刑されるか、国外追放か、幽閉か…あぁでも表沙汰になっていないから表立って処刑はできないかしらね。何を言い渡されても弁解の余地はないわ。それにもう水宮様に会わせる顔もない…。)
香久耶が一人反省している一方で国王たちの議論は着々と進んでいた。真っ先に決まったのは二人の王女の記憶の修正だった。この点に関しては国王の強い意向でもあったし、太陽の乙女の力を目の当たりにした年頃の王女たちが、そのことを隠し通せるとは考え難く神殿側の意向とも一致した。
太陽の乙女の力を知ることを許されているのは王家においてただ一人、国王のみだ。理由はいろいろあるが、もしこの事実を王家の多くの者が知れば、神殿や太陽の乙女を脅威とみなし害しようと企てる者が出てくるだろう。もしくは彼女たちを担ぎ上げ王権に対抗しよう企てる者が出てくるかもしれない。それらを防ぎ、神城家の望む“神に仕える”という使命を担い続けることができるようにし、良い関係を保つことが一番の目的だ。よって王女たちから太陽の乙女に関する記憶を消去することは決定事項だった。
龍也に関してはすでに太陽の乙女の存在は知っているが、今回のことはこの国の根幹に関わる事態。神城家に恩のある龍也が悪用するとは考え難いが少々知り過ぎてしまっているし、王女の醜態が記憶に残っているのも王家としては望ましくない。龍也は今回のことに関しては完全なる被害者だったが、記憶は少し修正すべきではということになった。
修正の方向性が決まると、清一が豪たちに指示を出す。今回の対象は香久耶、真利耶、龍也の三人。清一の指示に従い、杏那、豪、理世、廉が向かう。杏那たちが部屋出ると、国王の部屋には国王と清一が残された。国王は清一に言う。
「そなたたちがいなければ、国家の安全を脅かす魔王を起こした香久耶は死罪になっていただろう。王家も国民から計り知れない非難を受けただろう。三人の記憶が修正されても香久耶のしたことの事実は消えない。しっかり反省し同じ過ちを繰り返さないようにしなければならない。魔法陣を隠し持っていたことを理由に当分の間、謹慎させるとしよう。そして王女としての教育を一から厳しくやり直そうと思う。そして、水宮殿のことだが、先ほどは修正する方向となったが、本当にこれで良いのだろうか?」
国王は第一王女である香久耶の失態とその大きな影響に責任を感じると共に、龍也の記憶を修正することについて、懸念が残っているようだ。




