王女殿下のお茶会での出来事~はじまり~
王宮での茶会当日、杏那は理世とメイドに振袖を着つけてもらっていた。神城家の呉服店で茶会用に用意されたものだ。白地に赤や桃色の椿や山茶花といった冬の花の柄が入っている。帯も白地だが品よくラメが織り込まれ光沢がある。その上から金色と赤色の帯留めをして、髪は低めの位置でシニョンにまとめ、着物の柄と同じ椿の花飾りを挿している。華やかながらも上品な仕上がりだ。
「杏那様、とてもお綺麗ですわ!まさに王宮でのお茶会に相応しい装いです。」
「ありがとう。」
着付けが終わると扉がノックされる。
「お嬢様、よろしいですか?」
「爺や、どうぞ入って。」
豪が扉を開けると、惜しみない称賛が贈られる。
「お嬢様、なんとお美しいのでしょう。本日のお茶会で注目されること間違いなしですな。」
「ありがとう、爺や。理世さんのおかげね。」
「理世さん、ありがとうございます。と、そろそろお時間ですね。」
杏那は神城家の車に乗り込み、王宮へ向かう。豪、理世は廉と合流し月城家の車でまずは王宮の警備棟に向かい、その後お茶会の警備に潜入する。レオは魔王の動きを探ると言って早朝から家を空けていた。
王宮には年頃の若い令嬢たちが次々に到着し、とても華やかだ。今回のドレスコードは“和”ということもあり、皆着物を着ている。杏那はその様子を見て思った。
(やっぱり皆着物ね。最近のお茶会はドレスも多かったのに、わざわざ動きにくい着物で来させるって、逃げられないようにするためかしら。)
杏那が会場に入りしばらくすると開始時間になった。そして主催者である第一王女、香久耶が挨拶を行い茶会が始まる。
「皆様、本日は私が主催するお茶会へお集りいただき、感謝申し上げます。今回は年若い皆さまに王宮をより身近に感じていただくためのものです。皆さまにとりまして、実りある会となりますよう、ぜひお楽しみください。」
今回の茶会は参加者の交流を図るためのものだという。会場も茶室ではなく、広間に円卓がいくつか並んでおり、席は決まっている。それぞれの席には年齢の異なる者が配置され、年齢に縛られず交流してほしいという主催者の意図が感じられた。全ての円卓には空席が一つ、主催者の香久耶が回って来るのだろう。
会場内には香久耶と招待客、給仕のメイドがいるが全員女性だ。そして杏那はある異変に気付く。
(真利耶様のお姿が見えないわ。ご出席されると思っていましたのに。)
茶会の中盤、杏那は化粧室に来ていた。気にかかるのはやはり真利耶のことだ。
(今のところ、お茶会においては不自然なことは起きていないわ。でも、あの時の真利耶様のご様子では私に何か頼みごとがあるようでしたのに…。)
鏡を見ながら少し考え込んでしまっていた。しかし、王宮を勝手に歩き回るわけにもいかないと杏那も十分理解している。一先ず会場へ戻ろうと化粧室を出るとそこへ香久耶が現れた。
「香久耶様、本日はお招きいただきありがとうございます。」
杏那は咄嗟にも礼儀正しくお辞儀をしたが、香久耶の様子がおかしいことにはすぐに気づいた。会場では感じなかった不思議な気配が漂っているのだ。杏那は警戒されないよう、ひそかに身構えた。
「どこに行かれたかと探しに来ましたわ。私、貴女に用事がありますの。」
香久耶の目は虚ろだ。上品な笑みを浮かべてはいるが何かが違う。そう思っていると、杏那の足元に突如、黒紫色の魔法陣が展開された。
「静かな場所でお話しましょう。」
そう言って香久耶が微笑むと、次の瞬間、杏那は暗闇の中にいた。




