招待状
翌日、案の定、王家からの招待状が杏那の手元に回ってきた。
招待状を見ながら神城家離れ二階、杏那専用応接室にいつものメンバーが集まっている。
「杏那様、王宮でのお茶会なんて久しぶりですわね!飛び切り美しくいたしましょう。お支度はこの理世にお任せくださいね!」
まるで娘の晴れ舞台と言わんばかりに理世は張り切っている。
「理世さん、ありがとう。でも多分何か裏があるから、用心していかないと…。動きやすいドレスの方が良いかも…。」
杏那は任務に対していつも真面目である。常に任務を成功させるためにどうすべきか自然と考えている。今回もこちらの予想通り王家のお茶会で何か企みがあるのなら、和服よりも動きやすいドレスの方が良いかと真剣に悩んでいる。理世はそんな杏那の真面目さをよく理解し、世間一般のご令嬢としての立ち居振る舞いについても両立できるよう的確なアドバイスをしてくれる。
「杏那様、その場に相応しい装いをするのも名家の令嬢の務めですわ。それに杏那様があまり警戒していらっしゃれば、相手も動き辛いはず。ここは敢えて相手の策略に乗り、警戒心を悟らせず、相手の動きを誘うのですわ。」
理世と杏那が話していると豪が口を挟んだ。
「しかし問題がありますな。王家の茶会となれば会場に護衛は入れませぬ。流石に相手の戦略通りお嬢様をお一人で茶会に行かせるのはあまりに危険。しかし、護衛を同伴させたいなどと言えば、王家の警備を信用していないととられるか、謀反を企んでいるととられるか、いずれにしろ問題になりますな。」
王宮は国の精鋭によって守られている。国で最も安全な場所と言っても過言ではないだろう。しかしそれは、そもそも王宮に住まう国王をはじめとする要人を守るためのものである。よって、王宮への招待客が武器や私兵を連れて入るのは御法度なのだ。
「伯父さん、王家の警備って取り仕切っているのは軍部ですよね?それなら、父に頼んで剣士のインターンとして僕がその場に潜り込みます。」
「おぉ、廉よ、冴えているな。茶会があるとなれば、警備員も増員するだろうから、上手くそのメンバーに加えてもらえるかもしれない。」
「早速、父に頼んでみます。」
廉は自身の考えが先輩剣士である豪に認められ、その表情からは自信とやる気が感じられる。廉は時の神の力が覚醒したものの、まだその力を任務で使ったことはない。それでも太陽の乙女を守る剣士としての役目を自覚し、廉なりに皆の役に立とうとしている。
「いや、それなら事情を知る当主を通した方が話は早いだろう。ついでに私と理世さんも当日の警備に加えてくれるよう頼もう。」
月城家の当主である月城仁は豪の父であり、豪は父である仁を経由して頼むのが良いと考えた。
「月城様、それは名案ですわ!私たちが警備に潜入し、杏那様は正面からお茶会へ。レオ様はいつも通り侵入できると思いますし。」
「そうですね、分かりました。それでは明日早速、廉と当主の別邸を訪ね調整してきましょう。廉、それで良いな?」
「はい、異論ありません。」
豪の意見に廉も賛成だった。太陽の乙女のことも時の神の力のことも月城家の中でも極秘事項。また今回は王宮にも関わる内容であるため、軍部に務める父だけでなく、月城家当主にも話をした方が良いことは廉にもすぐに分かった。
「月城様と廉様がご不在の間、杏那様の護衛は私にお任せくださいませ。杏那様、明日はお茶会用の着物を選びに参りましょうね。」
明日は土曜日。こうして明日のそれぞれの予定が決まった。それからお茶会までの一週間、令嬢たちの呪いを解いて以降、魔王の動きは特にない。この状況がますます茶会をターゲットに何か企んでいることを意味しているようで、杏那たちは顔には出さずともそれぞれが心構えをしていた。




