王女殿下からのお誘い
杏那たちが令嬢たちの呪いを解いて回った翌日、学園には休んでいた令嬢たちが皆来ていた。杏那はその様子を見てほっと胸をなでおろした。
(皆さん、今日はお見えになっているわ。良かった。少しやつれている方もいるけど、目立った後遺症もないみたいだわ。)
学園のいたるところで同じような会話が繰り返されている。
「お休み長かったですわね。お加減はもうよろしいのですか?」
「ご心配いただき、ありがとうございます。えぇ、もうすっかり。」
「何かご病気でも?」
「いいえ、過労だったようですわ。お恥ずかしいことに私この間ずっと眠って目を覚まさなかったようですの。家の者が心配して今日も休んだ方がと言われたのですが、私自身はすっかり元気ですので、家の者の心配を押し切って来てしまいましたわ。」
「あら、大変でしたわね。でもお元気そうで安心いたしましたわ。」
令嬢たちの奇行は豪の記憶に干渉する力で少し書き換えられた。彼女たちはずっと眠りから目を覚まさなかった、と。
令嬢の奇行が噂にでもなれば彼女たちの将来が厳しいものになることは目に見えていたからだ。それは家の者も一緒。家の中に一人でもその事実を知る者がいれば、理由はどうあれ結局肩身の狭い思いをするのは令嬢自身だ。
罪のない少女たちがそんな思いをすることを気の毒に思った杏那が豪に頼んだのだった。限られた時間でここまでのことをやってのけるとは豪も優れた神の力の使い手である。
放課後、杏那と廉が帰ろうとしていると、一人の少女が近づいて来る。
「杏那様、月城様もごきげんよう。」
「真利耶様、ごきげんようございます。」
杏那と廉は声を揃えて挨拶すると、王家の者への礼の姿勢をとった。
「あら、そんなに畏まらないでください。実は杏那様に折り入ってお願いがあるのです。」
「何でしょうか?」
「来週の土曜日、姉の主催するお茶会があるのです。今回は名家の若い女性を集めたお茶会になります。今日あたり杏那様のお家にも招待状が届いているはずです。杏那様にはぜひお越しいただきたくて、こうして直接お願いに来たのです。」
「お招きいただいたとのこと、光栄にございます。王家の方々からのご招待でしたら、伺わない理由はございませんわ。お茶会、楽しみにしております。」
「来ていただけるのね!それを聞いて安心しましたわ!ではまたお茶会で。ごきげんよう。」
真利耶は参加するという杏那の返事に満面の笑みを浮かべ、王家の紋章の入った迎えの車へと向かっていった。
杏那と廉も豪の待つ迎えの車に乗り込む。車が走り出すと廉が杏那に話しかける。
「杏那、今の罠じゃないか?」
「廉様もそう思いましたか?」
「お嬢様、何かあったのですか?」
杏那と廉は車中で真利耶との一部始終を報告する。
「真利耶様に何か変わった様子は?」
「いつも通りだったわ。王家からの招待状なら以前にも来たことがあるけど、王家の方から事前に直々にお声かけいただいたのは今回が初めてね。」
「でも真利耶様が声を掛けてきた時、“杏那に折り入ってお願いがある”って言ったんだ。そのお願いが茶会にただ参加するだけというのは不自然じゃないか?」
「話の流れからするに、茶会でお嬢様に何かをさせようとしている、会場はおそらく王宮でしょう。となるとお嬢様を王宮に誘い出すのが目的、と考えるのが妥当ですかな。」
「王家からの招待状はもう来ていたかしら?」
「迎えに出てくるときはまだ届いておりませんでしたが、王家の招待状なら当主に届くはず。明日には回ってくるでしょう。」




