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千年の恋の物語~運命の二人~  作者: 宝槻錬果
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レオの気遣い

 神殿での水宮家との話し合い後、神城家に帰ってきた杏那たちは、中庭の見える一階の応接室で紅茶とお菓子をいただきながら、一息つくことにした。


「廉よ、さっきの話だが、これからは杏那の通学の送り迎えに同行するのだ。」

「「えっ!?」」


声を上げたのは杏那と廉だ。二人とも想定外の指令に驚き困惑している。

「ようやく宝玉の封が解かれたのだろう。杏那の通学の送り迎えの時ぐらいは隣を譲ってやっても良いだろう。それに…。」


レオは一旦言葉を切った。なんて言おうか、ここで伝えるべきかレオは少し考えたが、やはり共有しておくことにした。


「今週、君たちが学園に行っている間に神官長と話をした。どうやら王都、特に王宮を中心に不穏な動きがあるようだ。神官長の神占にもその兆候が現れた。学園は立地的にも王宮に近く第二王子と第二王女も通っている。学園の方で何もなければ良いが、万が一何かあったときにすぐ動けるよう、できるだけ一緒に行動すること。本当は私が片時も離れず杏那のそばにいたいが、学園内ではそういうわけにはいかないからね。」


杏那はレオの説明を聞いて思った。

(レオ様、急に私を廉様に押し付けようとなさっている?でも、だとしても王都で不穏な動きだなんて嘘をつくはずがないからそれはそれで本当なのね。神官長様の神占なら益々信憑性も高いわ。)


レオの話を聞いて豪と理世も驚いている。

「本日は水宮様もおり、任務の話はできませんでしたからな。レオ様、貴重なご連絡ありがとうございます。」

豪は御礼を言いながら考える。

(レオ様がここまでしかおっしゃらないということは、まだ具体的な内容は掴めていないということか?あとで内々にでも確認せねば…。)


「それは心配ですわね。王都、王宮ということは、少なからず王室にも関係しそうですわね。王室が関わるとなると、より慎重に動く必要もありますわね。」

「あぁ、だが今はまだ状況をよく見る必要がある。何も起こらずに済めば良いが、神占にも出ている以上、何かしら起こるだろうと予想している。」

レオが会話に応じていると廉が参加する。

「分かりました。僕が杏那の通学に同行します。杏那、良いだろうか?」


(廉様、今日は私のことを杏那と呼び捨てになさるのね。昔みたいに…。)


杏那は廉の呼び方が変わったことに気づき、嬉しく思っていた。先日声をかけられたときは“神城さん”と言われ、なんだか遠くに感じていた。二人は幼馴染で廉が婚姻関係の行事を休み始める前までは廉は杏那に対してはいつも優しかったのだ。そんなことを思い出しながら杏那は優しい笑顔で答える。


「はい。よろしくお願いいたします。」


廉は頷くとすぐに目を逸らした。まっすぐ向けられた笑顔に思わずときめき、目を合わせていられなくなっていたのだった。


 会話がひと段落したところで、豪が例の作戦を実行しようとする。


「そうだ、廉よ。いい機会だから、理世さんに剣術の稽古をつけてもらってはどうだ?」

廉はピンと来た。杏那に良いところを見せる機会を作ってくれたと思っている。

「はい。よろしければぜひお願いします。」

理世が返事をしようとすると、レオが割り込んだ。

「それは良いな。レディは支度もあるだろうから、今日のところは特別にこの私が稽古をつけてやろう。理世さん、今日は私に譲ってもらってもいいだろうか?」


レオはとても楽しそうな、ちょっと怖い笑みを浮かべている。明らかに何か企んでいそうだ。しかし廉の心配をよそに、理世はあっさり承諾し、あっという間にレオによる廉の剣術稽古が始まる。


 杏那たちの住まう屋敷の中庭に、稽古用の木刀を持ってレオと廉が構える。木刀が飛んでくると危ないからという理由で、杏那は理世と共に一階応接室内から見学となった。豪は庭で審判をする。


「そういえば、レオ様が剣を握るお姿は初めてよね。レオ様、とてもお強そうね。」

「えぇ、どちらもさすがの出で立ち。絵になりますわね。杏那様はどちらを応援なさるのですか?」


杏那は理世からの思いもよらない問いかけにぎくりとする。そして考える。

(どちらって…どちらも仲間だからどちらも応援しているんだけど…。)

そう思いながらも杏那にはふと理世の心の問いかけが聞こえたような気がするのだった。“どちらかしか選べないとき、貴女はどちらを選ぶのか”と。そんな杏那の心情を察した理世が続ける。


「これはお稽古ですからね。どちらも頑張ってほしいですわね。」


二人が窓の外を見て話していると、いよいよ打ち合いが始まった。

「廉よ、私は強いから遠慮なく打ってきなさい。来ないなら私からいくぞ!」


勝つ自信しかないレオに対し、廉も剣士のプライドがある。廉は実際剣術も優秀で、道場ではほぼ負けなしだった。二人は同時に走り出すと互いの間で木刀が交わる。近い距離での打ち合いになると、木刀に力を入れたまま、レオが廉に話かける。


「水宮の者から言われたことを覚えているな?」

廉も剣に込めた力は抜かず、レオを見据えながら会話に応じる。

「龍也さんから言われたことですか?」

「帰り際に言われたことだ。」

「婚約のことですね、勿論覚えています。」

二人は一旦互いの木刀を弾いて離れると、再び打ち合いながら会話を続ける。

「先ほどの話を踏まえて気づいたことは?」


廉は打ちながら考え、ある答えに辿り着く。

「王宮の不穏な動きに婚約を良く思わない者…。まさか国政に携わる者から僕たちが狙われているとおっしゃるのですか?」


「まだそうと決まったわけではない。杞憂で終わればいいが、どうも周りの動きが怪しい。何か仕掛けてくるかもしれない。神占に出る以上、杏那に無関係ではないだろう。通学と学園にいる間だけ、エスコート役をお前に譲ってやるのだ。必ず杏那を守り抜け!」


レオの強めの一打が入る。

「くっ…!」

廉も負けずにレオを攻める。

「あなたのご指示がなくても、僕は剣士です!必ず守ってみせます!」


廉が強めに踏み込んだ瞬間、レオは姿を消し、廉は空を切った。


次の瞬間、レオは空からすっと廉の背後に回り、廉の首に木刀を突き付ける。レオは脅威のジャンプ力で音もなく廉の視界から消え、背後に回ったのだった。そこで豪が叫ぶ。


「そこまで!」


廉はレオの素早い動きに、圧倒されながらも言われたことを考える。


(護衛騎士だけある。確かに優れた剣術だ。道場ではほぼ負けなしだったが、剣術ももっと磨いていつか必ず勝ってみせる。杏那のことは学園で守るとは言ったもののどうすれば…。)


 それからというもの、朝は廉が杏那のところに迎えに来ては同じ車で通学する。表向きには二人は婚約者なので何の問題もない。車の手配も豪が両家に融通を利かせ、朝は月城家の車で、帰りは神城家の車で送り迎えをする手筈となった。月城家も何かとお世話になっている神城家との消えかけていた縁談がまとまりそうということで、快く応じてくれたのだった。そして二人が揃って神城家に帰ってくると、一緒に宿題をしたり、宿題がなければ、レオか理世か豪による廉の剣術稽古が始まるのだった。

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