忠告
皆が神殿を後にしようとエントランスの方に向かうとき、龍也が廉の方に駆け寄ってきた。そして他の皆には聞こえないように話をする。
「廉くん、さっきは神官長から頼まれていたとはいえ、祖父が失礼なことを言ってすまなかった。僕が杏那さんにお見合いや交際を申し込むことはないから安心して。あと、もう一つ君たちに謝らないといけないことと忠告があるんだ。」
「龍也さん、いえ、先ほどは僕の方こそ失礼な態度を…すみませんでした。」
「いや、いいんだ。それより、今まで君たちの婚姻関係の行事を邪魔して悪かった。君自身も行事に出たくなさそうだったから、ちょうど良いかと思って、同じ日にあるうちの儀式や行事を手伝ってもらったんだが、実はある人から頼まれていたんだ。」
「えっ?」
廉は龍也が敢えて邪魔していたと聞いて驚きを隠せない。
「国政に携わる家々には少なからず確執がある。その中で一部の派閥が君たちの婚約を良く思っていなくて、邪魔してほしいと頼まれていたんだ。ほら、神城家は国政には携わらないけど国民の信仰を集める神殿を任されているし、神城家を味方につけたいと思う家は多いんだよ。まぁ、そうは言われてもできることがあれば、くらいに受け流してはいたんだけどね。今回のことで、僕たちが君たちを応援していることは後々周囲にも分かるだろう。そうなると今度は他から邪魔が入るかもしれない。廉くんは杏那さんとの婚約を真剣に受け入れたようだから、二人の関係を壊さないように用心して。国政に携わる人間の中には本当に腹黒い連中もいるから。もし僕が力になれることがあれば、いつでも頼ってくれ。」
神城家は代々神殿運営を担っている。国政には携わらず、神事を通してのみ国を支えるという遥か昔の取極めを守り続けている。しかし、太陽の乙女を守るため手広く展開したビジネスは成功、神殿運営を除いて考えても有力な名家の一つなのだ。一方、月城家は代々優秀な剣士を輩出し、国政では国防総院・軍部・治安部隊を取り仕切る。国にとって重要な国防とあって王家からも厚い信頼を寄せられる名実共に有力な名家だ。この由緒ある二大名家の繋がりは度が過ぎればあらゆる場面で脅威となり得る。それを懸念した一部の派閥が若い二人の婚約さえも邪魔しようとしているらしい。
衝撃の告白に驚く廉だったが、打ち明けてくれた龍也に感謝し礼を言う。
「龍也さん、教えてくださってありがとうございます。気を付けます。」
龍也たちは気づいていなかったが、少し離れたところにいたレオには龍也たちの会話が届いていたようだ。レオは龍也の懸念を聞いて小さく溜息をついた。
帰りの馬車は神城家と月城家は同じ馬車に、水宮家は別の馬車でそれぞれに帰路についた。今日の打ち合わせはお昼過ぎから始まったので、まだまだ外は明るい。杏那たちの馬車が神城家の前に着くと、杏那が廉に声をかける。
「廉様、もしお急ぎでないようでしたら、お茶をご一緒にいかがですか?豪様とお話になりたいこともあるでしょうし…。」
杏那ははじめいつも通りに声をかけたのだが、廉の目を見て話しているうちになんだかどんどん脈が速くなり、心臓はバクバクと音を立て、声が小さくなっていく。なんだか顔も熱い。
(あれっ、なんか声が出ないし脈もおかしいわ!なんなのかしら?)
そんな様子を豪と理世は微笑ましく見守っている。二人はひそひそと会話をしている。
「なんだか急に良い感じですわね。」
「レオ様の策略のおかげですな。」
「あの態度はやはりわざとだったのですね。それにしてもなんだが微笑ましいですわね。」
そんな風に豪と理世が話しているとは知らず、杏那が廉の返事を待っていると、レオが口を挟んだ。
「廉よ、話もある。降りよ。」
半ば強制である。杏那の気遣いを無駄にするなとレオのサファイアの瞳が訴えていた。
「あ、はい。お気遣いありがとうございます。」
廉がお茶に付き合ってくれることになり、心が温かくなる杏那だった。




