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千年の恋の物語~運命の二人~  作者: 宝槻錬果
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残る問題

「ところで、水宮家の者の記憶はどうされましたか?」


周一が豪に問いかけると豪は真剣な面持ちで話始める。


「そのことは本日皆様とご相談したいと思っておりました。記憶への干渉はあくまで最小限とすべきもの。主には本来知るべきでない者が太陽の乙女の力を知ってしまったときに、その記憶を上書きするものです。今回の場合は、家に代々伝わる呪いを解くものであり、私個人の見解としては、その記憶は正しく残るべきだと考えます。また、水宮家と神城家、龍神様と太陽の乙女の関係性からしても、水宮家が今回の恩を仇で返すとは考え難く、水宮家には他言無用と念押し、記憶へは干渉しないこととするのが良いかと存じますが、いかがでしょうか?」


少しの間、豪の問いかけに皆がそれぞれ考え込んだ。初めに口を開いたのは周一だった。

「確かに、今回のことは少々大掛かりでした。仮に太陽の乙女の関与だけを取り除くと彼らの記憶の中で辻褄が合わなくなるでしょう。かといって神域に関わる内容を適当に書き換えることも恐れ多いものですからね。」


杏那も周一に続く。

「私も叔父様と同意見です。今回のことで私たちも龍神様とその妻となられる美桜様との繋がりができました。お二方との関係は今後も続くものですし、今記憶に干渉するのなら、そのお二方のご了承も得る必要があるかと思います。それに何よりも、長年の苦しみからの解放、ご先祖様との再会の記憶は正しく持っているべきだと思います。」


周一と杏那の意見に皆が頷く。レオも異論はないようだ。その様子を見て周一が話を纏める。

「それでは、今回は水宮家の記憶には干渉しないことといたしましょう。くれぐれも他言無用である旨、お伝えください。」

「承知いたしました。」

豪が返事をすると、その場はお開きとなった。


 廉はそのまま月城家へ、杏那たちは神城家へと帰宅する。神殿から馬車へ向かう途中、豪と理世は小声で話をしている。


「理世さん、実は折り入ってお願いしたいことがあるのですが…。」

「はい、どのようなことでしょうか?もしや、廉様と杏那様を取り持つ作戦ですわね?」

「ははは、さすがは理世さん。その通りです。廉の剣士の修行とお嬢様からの関心を引く、この二つを兼ねて、お嬢様の前で廉に稽古をつけてやっていただきたいのです。」

「あら、そういうことでしたか。」


理世は思っていた依頼内容と違ったので少し考える。

(てっきり二人を近づけるために杏那様にそれとなく廉様の良いところを吹き込むとか、廉様が何か贈り物をできるように杏那様の欲しいものを調査する、あたりかと思っていましたがそう来ましたか。)


「分かりました。そのご依頼お受けいたしますわ。ただし、主の前での稽古となれば私も手加減をすることはできません。それでもよろしいですか?」

「ありがとうございます。勿論それで結構です。ぜひともよろしくお願いいたします。」



 杏那たちが神殿に報告に行っている頃、水宮家でも話し合いが行われていた。龍臣の別邸には龍臣の他、龍幸、龍也の姿があった。龍也からの知らせを聞いて、占術院の仕事で忙しい龍幸も何とか都合をつけて駆け付けたのだった。


「お父様、本当に呪いが解けたのですね。お加減はいかがですか?」

「呪いが解けたおかげで、呪いに蝕まれて動かなくなっていた身体も動くようになった。これまでほとんどが寝たきりだったが、少しリハビリすれば一人で歩けるようになるだろう。思考もとても冴えておる。すこぶる元気じゃ。」

「これまでどんな術でも駄目だったのに、このような奇跡が起こるとは…。」


 龍幸は二人から昨日の一件の詳細を聞いた。太陽の乙女が池を訪れ、呪いを解いて全ての憂い晴らしてくれたこと、数百年前の先祖で消息不明となっていた美桜という女性が龍神の宝珠から解放され、二人は結ばれることになったこと、使用人として仕えていた彩玉家の者は実は宝珠の精霊だったこと、一連の話は極秘で、この日もその精霊の一族の二人がお目付け役としてそばに控えていること…。実際にはお目付け役兼、急に使用人がいなくなっては困るだろうからとウィリアの配慮で二人も遣わせてくれたのだった。


「予想を遥かに超える話で、頭がいっぱいだ。なんとも信じがたいが、お父様のお身体からあのあざが全て消え、お加減も見違えるほど良くなっていることが何よりの証拠だろう。神城家の巫女とはそんなにも神々しい存在だったのか。そんな力を持っていて、なぜ公にしない…。その力があれば王にも上り詰められるだろうに……はっ!」


さすがは遥か昔に国政における権力を求めた水宮家の当主、頭の回転が速い。太陽の乙女がその力を公にしない理由にすぐに辿り着いた。その様子を見て、先代当主の龍臣が応じる。


「その通りじゃ。お前にも分かるだろう。本当に強い特殊な力は悪用されたり、不必要に狙われたりせぬよう隠されるものじゃ。神城家の巫女の力もその一つじゃろう。お前も察した通り、今回の事の詳細は極秘じゃ。代々当主だけが語り継ぐ、水宮家の秘密じゃ。池から帰る際、龍神殿にも釘を刺された。この地の平穏のためにも、我らの先祖、美桜様をお守りするためにもな。最も、このかなり特殊な話を誰もが信じるとは思わぬが、興味本位で池を荒らされても困るからのぅ。」


「神城家にとっても、我が水宮家にとっても今回のことは極秘、ということですね…。」

龍幸はそう言うと納得して頷いている。そこへ龍也が疑問を投げかける。

「しかし、今回のことが極秘とは言え、御礼に伺わないわけには参りません。今後、龍神様と美桜様の婚姻の儀に彼女たちも招待され、再びこの地を訪れることになります。今のままでは彼女たちがこの地を訪れるのは政治的にも危険なまま。なんとかならないのでしょうか?」


「そうだな、我々が許容していても、国政の勢力バランスに敏感な派閥が黙っていないだろう。あらぬ疑いをかけられても面倒だ。そうなると王家にも筋を通す必要が出てくる。異界の力を扱う者同士、交流する表向きな理由を整える良い機会かもしれないが、外部からの干渉を撥ね退ける正当な理由か…。」


龍幸がそう言うと神城家への恩返しと今後の交流に向け、三人は少しの間、考え込み沈黙が流れる。


「そういえば、お父様はそのお見合いの申し入れをどうして通すことができたのですか?神城家に伝手はないはずでは?」


「実はのぅ、伝手なら一つだけあったのじゃ。神殿の神官長で神城家当主の兄、清一殿じゃ。互いの立場もあり、これまで頼らずにきたのだが、今回は最後の手段と思って頼ったのじゃ。」

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