少しずつ動き出す運命
翌日、廉が学校に行くと、杏那の姿もあった。廉は杏那の様子を伺うと内心で感心していた。
(あれほどの力を使った翌日なのに杏那はいつも通りだ。神力というものを使って、身体に負担はないのだろうか。)
廉は時の神の力を受け継ぎはしたが、まだその力を使ったことはない。そのため、神力を使うということが心身にどのような影響を及ぼすのかはまだよく分かっていないのだ。杏那がクラスメイトたちと話し微笑んでいる様子を見て、廉は安堵した。
(良かった。元気そうだ。)
廉が安堵していると、不意に友人から声をかけられる。
「廉、おはよう。朝からにやにやしてどうしたんだ?週末、何か良いことでもあったのか?」
「お、おはよう。い、いや別に、にやにやなんてしてないよ。お前こそ、週末はどうしていたんだ?」
廉はうまく話を変える。しかし内心では焦っていた。
(にやにやなんてしていないつもりだったが…。)
授業が終わると廉は学園の門の前である人を待っていた。そこへ杏那が友人と共に歩いて来る。廉が杏那を見ていると、杏那と共にいた友人がそれに気づいて気を遣う。
「杏那様、私の迎えの車が来たようですので、私はこの辺で、ごきげんよう。」
「えぇ、未莉愛様、ごきげんよう。それではまた明日。」
未莉愛は杏那の学園での友人の一人。ひそかに杏那と廉を応援しているが、あまり自分のことを話したがらない杏那を察して程よい距離感を保ってくれている。実家が服飾関係の会社を経営しており、杏那の実家が超重要取引先ということで親同士の繋がりもある。二人は笑顔で手を振るとそれぞれの迎えの車の方に向かって歩き出した。
杏那が門のそばまで来ると、廉に気づくがまさか自分を待っているとは思わない。
「廉様、ごきげんよう。では。」
杏那は軽く会釈をして神城家の車に乗ろうとする。神城家の車には豪がドアを開いて立っている。この時代、舗装された道路なら車、山道などを通るときは主に馬車が使われ、通学の送り迎えには各々の家の伝統や資産状況も反映されるため、車か馬車での出迎えどちらも主流となっているのだ。
「あの、神城さん。」
廉が慌てて杏那を引き留めると、杏那は驚いて振り返る。
「はい?」
「この後、家に行ってもいいだろうか?その、伯父に聞きたいことがあって…。」
杏那は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに状況を察して微笑んだ。あの陽だまりのような温かさのある優しい笑顔だ。
「そうですわね。構いませんわ。もしよろしければ、一緒にお乗りになりますか?」
杏那は神城家の車を指して言い、ドアの前に立っている豪にも確認する。
「問題ないわよね?」
「お嬢様が良ければ問題ございません。」
こうして豪の運転する神城家の車に杏那と廉を乗せ、神城家の屋敷へと帰ることとなった。車中ではいつも通り穏やかで落ち着いている杏那と、慣れない状況に少し緊張している廉が隣り合って座っている。豪は後部座席に乗る二人の様子を見て、まだ距離はあるものの、これぞ乙女と剣士のあるべき姿と内心一人静かに喜んでいた。
屋敷に着くと世話係の理世が出迎えてくれる。
「お帰りなさいませ、杏那様!あら、廉様もご一緒だったのですね!お茶をご用意いたしますわ。」
「只今帰りました。理世さん、廉様は豪様にご用事です。豪様、どうぞ一階の応接室を使ってください。それでは廉様、私はこちらで、ごきげんよう。」
杏那は廉に挨拶すると豪と廉を応接室に通し、メイドに客人へお茶と茶菓子を出すよう指示を出す。そして自身は二階へと向かった。
一階応接室に通された廉は豪と向かい合って座っている。
「豪伯父さん、突然押しかけてきてすみません。昨日のことでいろいろお話を聞きたくて。」
「廉よ、よく訪ねてきてくれた。昨日の一件を見て、我らの力に興味を持ってくれたのだな。」




