家路へ
美桜は龍神からのプロポーズを受け入れた。龍神もこれまでに見たことがない優しい笑顔で美桜を見つめている。美桜は頭を龍神の胸に預け、龍神の腕の中でとても幸せそうにしている。
そんな幸せな様子を杏那たちは微笑ましく見守っていた。杏那は理世と小声で会話をする。
「良かった。これも理世さんのおかげね。これで今回の任務は全て完了ね。」
「杏那様の仰っていた憂いとはこのことだったのですね。お役に立てて何よりですわ。」
恋愛経験の少ない杏那には青い宝珠から美桜を開放することまでは思い至ったが、何かひっかかる、その“何か”が分からなかったのだ。それを理世が説明し、龍神がやり直すべき点が明確になった。龍臣の助け舟もあって龍神を説得できたのだった。
(経験をしないと分かってあげられないことって多いのかもしれないわ。これからどんな任務が待っているか分からないし、私ももっと人生経験を積むべきね。)
杏那は少し反省しながら、また頑張ろうと思うのだった。
そんな会話に気づいてか、すっかり二人の世界に入っている龍神と美桜に慌てたウィリアが、ようやく動き出す。そばに着地していた宝珠を拾い、二人に声をかける。
「龍神様、美桜様、ご婚約おめでとうございます。これから婚儀の準備で忙しくなりますね。今日立ち会ってくださった皆様も婚儀にご招待いたしましょう。それに美桜様も長い眠りからお目覚めになられたばかり。しっかり体調を整え婚儀に備えなくてはなりませんよ。」
ウィリアは杏那たちに気を遣って、それとなく龍神たちに客人がいることを思い出させた。
「あ、あぁ、すまない。すっかり再会の感動に浸ってしまっていたようだ。紹介しよう。皆、すでに気づいていると思うが、この娘が私の妻になる美桜だ。美桜、そなたの目覚めに力を貸してくれた恩人たちだ。」
「皆さまのお話は宝珠の中にも響いて参りました。皆さまのお力添えに感謝申し上げます。」
美桜は居住まいを正し、三つ指をついてお辞儀をする。かわいらしさの残る年頃だが、礼儀正しく美しい所作から聡明さが伝わってくる。そして龍神も続く。
「皆、今回のこと、心から感謝している。また改めて礼をさせてほしい。婚儀にはぜひ出席してくれ。」
こうして皆、婚儀での再会を約束し、水宮家も杏那たちに後日改めて御礼に伺うと挨拶をして、それぞれ帰路につくこととなった。
龍神の一件が解決し、帰りは彩玉の馬車で送ってもらえることとなった。杏那、レオ、豪、理世、廉は同じ馬車に乗った。それぞれにいろいろと気になることがあったが、すでに日も暮れており、皆疲労も感じていたので杏那たちは家路を急ぐことにした。近いうちに皆揃って神官に報告に行こうと約束し、廉を月城家の近くで降ろして、そのまま神城家へと向かった。
水宮家はあの後、少し龍神たちと話をしていたようだ。龍神の妻となる美桜は水宮家の先祖、当然だろう。水宮家は近くに龍臣の別邸もあるので、杏那たちとは池の畔でお別れをしたのだった。
屋敷に戻った杏那たちは、屋敷のシェフが用意してくれた夕食を摂る。
「お嬢様、レオ様、理世さんも本日は大変お疲れ様でした。しっかりお食事を摂られ、今晩はゆっくりお休みください。」
豪も理世も神城家に住み込みで仕えているため、杏那の住む神城家の敷地内にある別邸に共に住んでいる。神城家本家の敷地は広く、杏那の両親たちが住む母屋と、杏那たちのいる離れ、それぞれに広い庭園がある。離れといっても一つの立派な邸宅である。太陽の女神の力を引き継ぐ者は緊急事態に備え、代々この離れで乙女を支える者たちと暮らしているのだ。
一方、月城家に帰宅した廉は食事と風呂を済ませると今日一日のことを振り返っていた。
「なんだかすごく濃い一日だった。杏那たちの神力と呼ばれる術もそうだし、龍也さんの家の秘密にも驚いたし、神や精霊と呼ばれる存在もこの力を受け継いだ時に見た幻影以外に見たのは初めてだ。それに何より豪伯父さんのあの力も…。あれが時の神の力なんだろう。あの術を僕が使えるようにならないといけないのか…。でも一体どうやって豪伯父さんは訓練したんだろう。聞きたいことはたくさんあるのに…。明日、また訪ねよう。」
杏那のチームに剣士見習いとして入ったばかりの廉は当然知らないことばかりで、消化不良を起こしている。明日は学校。授業が終わったら大伯父の豪を訪ねることにして、眠りにつくのだった。




