水宮家と龍神様⑨~宝珠の力~
理世の自説を聞いて、それならば確かに辻褄が合うと一同納得している。
「私の言葉が足りなかったばかりに、美桜は一人で抱え苦しんでいたのか…。結婚後のことなど何も心配することはなかったというのに…。」
そして杏那も答えに辿り着く。理世は杏那に視線を移すと二人でアイコンタクトをとった。
(理世さん、ありがとう!そういうことね。あと一つやり残していることが何かわかったわ!)
杏那の表情を見て、理世は小さく頷いた。そして龍神に声をかけ、杏那に説明を譲る。
「龍神様、気を落とすのは早いですわ。この先は太陽の乙女、杏那様からお話いただきましょう。」
「理世さん、ありがとう。龍神様、残る憂いを晴らしましょう。理世さんのお話を聞いて、その方法が分かりました。」
「憂いを晴らす?美桜はもういないのだ。一体何ができると言うのだ?」
「美桜様はいらっしゃいます。龍神様の存在に気づき、そのお姿を見ることができた美桜様はおそらく元々霊力の強い特別な方。美桜様の苦しい恋心にその宝珠が反応してしまったのでしょう。あのとき忽然と消えたのは、その宝珠の中でお休みになられているからです。」
「何?この宝珠に美桜が宿っていると言うのか?」
「はい。しかし長年、冷たく暗い池の底にあり、美桜様ご自身も長い眠りにつかれていると思われます。この宝珠から美桜様を開放できるのは龍神様、あなただけです。」
龍神は青い宝珠を見つめ、指で優しく触れる。すると宝珠はまた一瞬煌めくのだった。
「ここに美桜が…。しかし、また美桜に会えたとしても、私を覚えているかどうか、私をまた好いてくれるかどうか…。」
普段の勇ましさがすっかり影を潜める龍神に理世も説得する。
「龍神様、宝珠に認められるほどお慕いした方のことをお忘れになるわけがありません。どうか正直なお気持ちを美桜様にお伝えになってください。」
龍神が悩んでいると、静かに様子を見守っていた龍臣が諭すように声をかけた。
「龍神殿、数百年の時が経ってしまいました。ご不安なお気持ちも良く分かります。ですが、ここに眠っているのは我らの先祖です。長きに渡り冷たい池の底で眠ってきた先祖を助けてやってはもらえませぬか?」
龍臣の目は優しく、龍神と先祖の両方を気にかけていた。
「……そうだな。また私は自分のことばかりだったようだ。そなたの言う通りだ。この宝珠から解放しよう。ウィリア、状態を確認してくれ。」
ウィリアは龍神から簪を受け取ると、青い宝珠に手をかざす。薄紫の靄が宝珠を取り囲む。ほどなくしてウィリアが顔を上げた。
「龍神様、間違いございません。美桜様の魂を感じます。龍神様のお力に反応し、早く出たがっているようでございます。」
「そうか…。」
龍神は簪を受け取って、立ち上がり皆から少し離れる。ウィリアと彩玉の巫女たちはぞろぞろと龍神についていき、後ろに控えている。龍神が瞬きをすると瞳が鋭く光った。そして宝珠を両手で挟み額の前で合掌する。次の瞬間、龍神の合わせた掌から光が漏れ出し、龍神が勢いよく両手を離し腕を広げる。宝珠が宙に浮き、娘一人が入れるほどの球体へと膨れ上がった。球体は電気を帯びているようにバチバチと光を帯びている。そこには着物を着た髪の長い一人の少女の影が映し出される。そして徐々に輪郭がはっきりしてくると球体の輪郭は溶け、球体の中から少女が現れる。桃色に桜の花のかわいらしい柄の入った着物を着た少女は横座りの姿勢でゆっくりと地面に降りた。顔は俯き両手を地面について身体を支えている。少女のそばには青い宝珠が元の大きさに戻って着地している。
龍神はそっと少女のそばに歩み寄ると、少女の前で膝をついた。ウィリアたちがすかさず少女の後ろに回り、少女の身体を支えている。龍神は少女を真っすぐに見つめている。
「美桜…。遅くなってすまない。私の妻になってはもらえぬだろうか?」
少女を目にした龍神は、開口一番に求婚した。それは龍神が考えて言おうとしたのではなく、心から自然と出てきた言葉だった。言った本人も少し驚いている。少女は少し目を擦ると顔を上げた。若くかわいらしい、ウィリアの記憶で見たままの美桜だ。
「……龍神様?本当に?」
「あぁ、私だ。美桜…。」
美桜が龍神の方に身を乗り出して手を伸ばすと、龍神は美桜の手を取り、バランスを崩した美桜をそっと抱き留めた。美桜の右手は龍神の左頬に触れ、その手には龍神の左手が重ねられている。二人は至近距離で見つめ合う。
「本当に龍神様なのですね。また、お会いできたのですね。」
美桜の目は潤んでいる。瞬きをすると一筋の涙が頬を伝った。龍神が優しく美桜の目元を指で拭う。そして美桜の目を真っすぐに見つめる。
「美桜…。遅くなってすまなかった。これからは、私の妻として、ずっと私のそばにいてもらえるだろうか?」
美桜はとても嬉しそうに微笑み頷いた。
「はい、喜んで。不束者ですが、末永くよろしくお願いいたします。」




