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千年の恋の物語~運命の二人~  作者: 宝槻錬果
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水宮家と龍神様⑧~美桜~

”その娘というのは当時の祭主の末娘、美桜ではありませんか?”


龍也の問いかけに龍神は驚いて龍也の方を見た。そして手元の簪に視線を落とす。


「美桜」


龍神がその名を呟くと、青い宝玉が心なしか一瞬煌めく。

「久しぶりにその名を聞いた。その通りだ。しかし一体どこでその名を?」

「呪いを解こうと家に伝わる古い資料を調べていた時に読みました。それは女性の字で綴られ、文面からおそらく美桜の母に当たる人物の手記かと。」

「そうか。それでそこには何て書いてあったのだ?」

龍神は娘を閉じ込めた者の手記と聞いて、その表情には苛立ちが滲んだ。


「はい、その手記にはこう書いてありました。“嫁ぎ先の決まっていた末娘、美桜が突然結婚を取りやめ、山奥の龍神を祀る神社に仕えると言い出した。神に仕え一生を終えたいと。しかし主人は今更婚約解消はできないと言っている。私は他にお慕いする人がいるのかと問いただしたが、美桜は答えない。主人はこの話が外部に漏れないよう、美桜の気が落ち着くまでの間、屋敷から出さないようにとお命じになった”と。」


龍神は険しい表情になった。

「やはり、家の者が美桜を閉じ込めたのだな。予想はついていた。」


「続きがあります。“美桜は部屋に閉じこもり、いつも青い石のついた簪を大切そうに抱きしめている。あれは私たちが買い与えた物ではない。やはりお慕いする人がいるのだろう。打ち明けてくれれば、母としてできることをするのに”。そしてさらに数日後の手記には“屋敷から出ていないはずの美桜の姿が忽然と消えた。部屋にはあの青い石のついた簪だけが残っていた”と。」


龍神の表情が苛立ちから疑問へと変わったが、龍也が続ける。


「“探せるところは全て探した。婚約者の屋敷も、龍神の社も、山も森もすべて探したが見つからない。探すことを阻むように雨が降り続いている。あの青い石が龍神の社に伝わる神器の一つであると気づいた主人は、龍神の神器を勝手に持ち出した報いだと言っている。神器は明日の儀式で神社に返納される。神器をお返しすれば娘は戻るのでしょうか”と。手記はここで終わっていました。見つかったのか結論がなかったので、気になって美桜の記録も調べましたが、消息不明となっておりました。」


「どういうことだ?」


疑問を口にする龍神をよそに、杏那はレオと目を合わせた。やはり同じことに気づいたようだ。


「龍神様、その青き宝玉に生命の鼓動を感じませんか?先ほどから龍神様が触れる度、美桜様のお名前を呼ぶ度、水宮様が美桜様のお母様のお話をされる度、その宝玉が煌めき、魂が震えるのを感じます。」


杏那が発言するとレオも続いた。


「龍神殿、恐れながら私も同じように感じておりました。その宝玉は龍神殿の宝珠の一つで妻になるものに贈られ、二人の運命を結びつけるとおっしゃられていましたね。その役割を果たしているのではないでしょうか?」


一同が一斉に龍神を見る。これまで静かに聞いていた理世も気になる点があったようだ。


「龍神様、太陽の乙女にお仕えする松崎理世と申します。恐れながら、発言をお許しいただけますか?」

龍神は理世を見据えて返事をする。

「そなたもおったな、武神の娘よ。勿論だ。意見を聞かせよ。」

“武神の娘”という言葉に皆少し引っかかるが、理世は話を進める。

「寛大な御心に感謝いたします。私、水宮様のお話を聞いて、気になりましたことがございますの。龍神様、美桜様にプロポーズのお言葉はお伝えになりましたか?」


突然の切り口に皆が動揺する。


「何?プロポーズ?いや、簪を渡せば分かると思うが?」

「では、どのような結婚生活になるのか、種族の異なるお二人が結ばれるにはどうしたら良いのかなどお二人でお話しになられたことはございましたか?」

「いや、簪を受け取ってくれたら、その先時間をかけて話をしようと思っていたのだ。私の力で大体のことは何とかなるし、美桜が心配することはないと思っていた。」


理世の疑問は確信に変わったらしく、理世は活き活きと説明を始めた。


「やはりそうだったのですね。今回の一件、龍神様にも原因がございますわ。私、美桜様がお慕いする方のことをお母様に打ち明けず、ただ神に仕えたいと説明された点に疑問を持ちましたの。正式なプロポーズをお受けしたのでしたら、二人そろって美桜様のご両親にご挨拶に行かれるのが筋ですわ。龍神様でしたら、人のお姿にもおなりになれるでしょうから、堂々と会いに行かれ、美桜様のご両親が安心できる説明をして、祝福を受けられるように取り計らえるはずです。しかし美桜様のお話はその方向には進んでおりません。そこで私考えましたの。なぜ美桜様は簪を受け取って涙を流されたのか、なぜお母様に打ち明けられなかったのか。」


理世の説明に皆が”確かに”と納得している。


「ここからは私の推測になりますが、どうか発言をお許しください。」

「分かった。聞かせよ。」

「美桜様は龍神様のプロポーズに気づいていない可能性が高いと思われます。」

「どういうことだ!?」


龍神は素直に驚いている。


「はい、美桜様はウィリア様の記憶から察するにおそらく年頃、若く十六歳くらいでしょうか。恋愛や結婚に関する経験の少ない年頃の少女は、ただお慕いする龍神様から贈り物をいただいたと思ったのでしょう。勿論、特別なご好意にはお気づきになられたと思います。そして簪を贈られた美桜様はご自身の龍神様への気持ちに本当の意味で気づいてしまったのです。しかし相手は龍神様。自分だけに見える特別な世界。人である自分が表立ってお慕いして良い方ではないと思慮深い美桜様はお考えになった。それでもこのまま龍神様のおそばに居たい、でも嫁ぎ先も決まっている。自身の気持ちを守るため、若い美桜様にできることは婚約を解消し、神社に仕える巫女として生きていく道だったのではないでしょうか?」

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