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千年の恋の物語~運命の二人~  作者: 宝槻錬果
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水宮家と龍神様⑦~龍神の宝珠~

 杏那は龍也に例の物を渡してほしいと言う。


「あぁ、これだね。」


龍也はハンカチに包んでシャツの胸ポケットにしまっていた、あの青い宝玉のついた簪を取り出し、龍神の方へ差し出した。そこへ杏那が説明を付け加える。


「龍神様、こちらは元々龍神様の物でございますね。池の中に沈んでおりましたのを引き上げさせていただきました。お返しいたします。そして、もしよろしければ、お話いただけませんか?」


(当時、本当は何を鎮めるための儀式だったのか、龍神様は何に怒りを感じ儀式を中断させたのか、これらを知らないと本当の意味で龍神様の憂いが晴れないわ。)


龍神の目は青い宝玉の簪に釘付けになって微動だにしない。少しばかり間があいて、龍神が口を開いた。


「なんて懐かしいのだろうな。」


龍神は簪を受け取ると、青い宝玉を見つめている。青い宝玉に龍神が手を触れると、宝玉が輝いたように見えた。


「運命を共にした水宮の者に、私を救ってくれた乙女たち、私を見捨てず仕え続けてくれた巫女たち、皆に聞く権利があるだろう。」


龍神は独り言のように、あるいは、宝玉に語り掛けるように呟いた。そして、その場にいた皆が龍神の話を聞こうと、龍神を囲んで近くに座った。龍神のそばにはいつの間にか若く美しい一人の女性が控えている。あの老婆と同じ透き通るような薄紫色の瞳をして、髪には藤の花飾りをした麗しい女性だ。一部の視線がこの女性に注がれていることに気づいた龍神が口を開く。


「知っての通り、私はこの池を中心にこのあたり一帯を治める龍神である。そして、ここにいる薄紫色の瞳をした者は皆に過去の記憶を見せた者だ。今の姿が本来であるな。彼女たちは我ら龍神に仕える巫女であり、龍神が守る宝珠の精霊。ウィリアよ、私のいないところでは、危険から身を守るため仮の姿を装うのだったな。」

「ご紹介いただき恐縮でございます、龍神様。おっしゃる通りでございます。皆さまにお詫び申し上げねばなりません。少しよろしいでしょうか?」

「あぁ、構わぬ。」

「ありがとうございます。皆さま、私は彩玉の一族の巫女長を務めるウィリアと申します。龍神様が本来のお姿に戻られ、私も元の姿に戻ることといたしました。私たちの使命は龍神様と宝珠をお守りすること。必要とあらば己の姿さえ変え、龍神様にお仕えする身です。使命のためとは言え、皆さまに偽りの姿で接してきましたこと、お詫び申し上げます。旦那様、坊ちゃま、真の姿を明かせず申し訳ありませんでした。」


ウィリアは龍臣と龍也の方を見て頭を下げた。龍神の世話をするため、水宮家の使用人として家に入り、ずっと仕えてきたのだった。龍神が不遇な扱いを受けないよう、水宮の者たちにも常に親切に大切に接してきた。長い年月を共にしたウィリアには、水宮の者たちへの情も芽生えていたことだろう。ウィリアが龍也を見る目は特に、実の息子や孫を見るような愛情が見て取れた。


「私からも詫びよう。皆を巻き込み、すまなかった。この恩は必ず返そう。」

龍神は詫びると話を続ける。


「挨拶はこれくらいにして本題に入るとしようか。もう遥か昔のことだ。数百年は経つだろう。でもはっきりと覚えている。あの時、何があったのか…。」

龍神は再び軽く青い宝玉に触れた。宝玉は応えるように一瞬煌めく。


「当時私はある人間の娘と恋仲にあった。その娘は心が美しく、謙虚で気高くあった。私たちは心から互いを必要としていたし慕っていた。私はその娘を妻に迎えようと決心し、この簪を贈ったのだ。この青い石は貴重な龍神の宝珠の一つで龍神の妻になるものに贈られ、二人の運命を結びつけると言われている。しかし、実際にはそうはならなかった。ウィリアの記憶の通り、この簪を贈ったあと、娘の両親は娘を閉じ込め私から遠ざけた。娘は私に会えないことで次第に心を病み、命を落としたらしい。私は悲しくて仕方がなかった。私はこの地を治める責任も忘れ悲しみに暮れていた。私の心の動きが天候に反映されやすいことは承知していたが、悲しみのあまりコントロールをしようとさえ思えなくなっていた。それ故、この地には数か月に亘り、冷たく静かな雨が降り続いた。」


龍神の話から当時の龍神の気持ちに想いを馳せ、皆、切ない表情を浮かべ聞き入っている。


「そうなると、当然この地に住まう民は困ったであろう。民は祈祷師に頼み、雨を止める儀式が執り行われた。その祈祷師というのが、代々この地に住む水宮家の者。それがあの日のあの光景だ。儀式の中で祈祷師が言った“宝玉を返すから怒りを鎮めてほしい”、その言葉に私は激しく怒りを覚え、力のままに龍の姿で暴れ、儀式を中断させたのだ。」


龍神は怒ってはいなかったのだ。娘が閉じ込められた経緯はおよそ見当がつく。その家に怒りは当然覚えたが、それよりも大きかったのは娘を失った悲しみだった。運命を共にしようと決意した矢先の出来事にそう簡単には立ち直れなかっただろう。


「その後のことは、皆がすでに知っている通りだ。」


杏那は龍神の話を聞いて考える。


(龍神様はもう怒っていない。それならもう憂いは残っていない?でも何かが引っかかるわ。あと一つ、解決しないといけない気がする。光を求める何かが問いかけている。晴らせるもの、一体何?ヒントはやっぱりあの宝玉よね。)


杏那が考え込んでいると、龍也が何か気になることがあるのか口を開いた。


「恐れながら、龍神様、その娘というのは当時の祭主の末娘、美桜ではありませんか?」

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