表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千年の恋の物語~運命の二人~  作者: 宝槻錬果
26/43

水宮家と龍神様②~幼き日の乙女~

 杏那が老婆に龍神はどこにいるのかと問いただすと、少し離れた森の茂みから葉の擦れる音とか細い声がした。


「ここじゃ。」


杏那が声の先に視線を向けると、理世の姿が目に入った。その横には細身の老人を背負った豪がいる。

(やっぱり、思った通りだわ。)

声の主はその老人だった。老人は薄水色の着物に濃紺の羽織を着ている。

「一体どうして!?」

老婆はその老人の姿を確認すると慌てて声を上げた。豪たちは杏那たちのいるところまで歩いて来ると静かに老人を座らせ、背中を支えた。老婆は老人に駆け寄る。

「理世さん、爺や、ありがとう。」

杏那は自分の指示通りに動いてくれた理世と豪にお礼を言うと、老人の前に膝をついた。

「あなたがこの池に住まう龍神様ですね。ご無沙汰しております。以前は池にいらしたのに、一体何があったのですか?」


老人がゆっくり目を閉じ、再び開くと人ではなく龍神の瞳に変わった。金色の瞳。だが神力を使うときの杏那の温かな眼差しとは違い、鋭く射貫くような重厚さのある金の瞳だ。視線だけで周囲を圧倒できるほどの威圧感がある。そして声もさきほどの人のか細い声ではなく、太く低く響く龍神の声に変わる。


「私を覚えているのか。太陽神の力を持つ乙女よ。」


「はい、覚えております。神域の気に誘われ、この地に迷い込み池に落ちそうになった私を助けてくださいましたから。そして彩玉様に案内をお命じになり、私を家へと帰してくださいました。あの時はありがとうございました。」


杏那は老人に頭を下げた。神域の気を持つ地は他の神域の気を持つ地と、ふと繋がってしまうことがある。幼い頃、杏那は家の近くの森で遊んでいたと思ったら、この地に迷い込んでしまったのだった。


「それでどうして池にいらっしゃらなかったのですか?お姿も以前と違うようですし…。」


昔、杏那が龍神と出会った頃は、龍神は池に住んでいた。龍神も龍の姿と人に似た姿を両方持っているが、いずれにしても強く勇ましくあり、今の弱った老人とは似ても似つかなかった。


「呪いの影響が強くなってきてしまったのだ。以前はあの儀式を行った一族の者の気を時々分けてもらい、この池の澄んだ気に触れていれば抑えられていたのだが、もう何年もこの者に寄生している。この者も同じだ。私が寄生せずに生気を奪ってしまえばこの者は生きられぬし、この者も私の神気に頼っている。寄生が長くなると、この者の声が聞こえるようになった。それでこの者と話合って、今の状態になったのだ。しかし、互いに生きながらえているだけで自由もなく負担が大きい。この者の寿命がくれば、私はまたこの家の他の者に寄生せざるを得ない。もう終わりにしたいと思い、この者に手紙を書かせたのだ。」

「そうでしたか。龍神様のご意志だったのですね。」

「神殿への手紙は私の指示だ。もう一通はこの者が気を利かせたのだ。神殿への一通だけでは動いてもらえぬかもしれないとこの者は心配していたのだ。私は、そなたには伝わる、きっと来てくれると思っていたぞ。」

「勿論でございます。昔約束しましたから。」

杏那は優しく微笑んだ。


 杏那は幼い頃、ただ迷い込んだのではなかった。神聖な何かが苦しんでいる気がして森の中を歩いていた。太陽の乙女の力に導かれるようにこの池に辿り着いたのだった。幼い杏那はこの池が病んでいることにすぐに気がついた。水面に手を触れようと身を乗り出すと小さな杏那は危うく落ちそうになった。杏那が水面に手を触れた瞬間、太陽の温かさを感じた龍神が気づき、人に近い姿で現れ、陸へと引き上げてくれたのだった。その時に二人は少し会話をした。


「これは珍しい。太陽神の力を受け継ぐ娘か。こんなところにどうして迷い込んで来たのだ?」

「病気の人がいる気がして歩いていたらここに出たの。貴方、病気ね?」

「おぉ、そんなことが分かるのか。太陽神の力とは不思議なものだ。」

「杏那が治してあげる。」

「それはありがたい。でも大丈夫だ。この病気ともうまく付き合っている。」


龍神は池が病み始めていることには気づいていたが、この大きな池を浄化でもすれば、幼い娘は死んでしまうと思い、遠慮したのだった。


「さぁ、もう帰りなさい。私に仕える巫女に送らせよう。」

そう言うと美しい薄紫色の着物を着て、髪には藤の花飾りをした、若く麗しい巫女を呼び、龍神は杏那を送るように指示をした。その女性の瞳は透き通るような薄紫色をしていた。

「杏那が治してあげるのに…。」

そう言いながら、杏那は巫女に手を引かれ、振り向いては空いている方の手を龍神に振りながら帰っていったのだった。そしてこの時、送ってくれた巫女というのが、今日馬車で迎えに来た老婆だった。


 杏那は以前龍神たちに会った時のことを思い出しながら、話を進める。

「彩玉様が動いていらっしゃることはご存じだったのですか?」

「手紙の代筆と発送を頼んだので、気を利かせて何か動くかとは思っていた。こんなに早いとは思っていなかったがな。」


杏那は老婆に問いかける。

「彩玉様。龍神様からのお呼び出しは来週でした。その前に本当に私にその力があるのか確認しようとなさったのですか?あるいはそれまで待てないほどに厳しい状況だと?」

老婆は龍神の御前ともあって降参したようだ。

「おっしゃる通りです。貴女様に会い、太陽神の力を感じたのは十年以上も前のこと。力が残っているのか、本当に頼んで良い相手なのか、確認したかったのです。我々、彩玉の巫女にとって龍神様は何としてもお守りせねばならぬ気高き繊細なお方。力のない者に無暗に会わせるわけにはいきませんから。」

「さすがは彩玉の巫女長様ですね。」


納得した杏那は老人に視線を戻す。着物から見える首筋や腕に龍の鱗のようなものが見えた。龍神が言うように今この老人の弱った体に龍神が寄生している状態になっている。杏那は解決方法を考える。


(私がお二人をどちらもお救いするには、龍神様をこの体から分離することと、呪いの根源を解決することの二つを行う必要があるわ。ただ二人を分離しても呪いの根源を絶たなければ互いの生気を必要としてしまう状況は変わらないはず。)


杏那は龍神に質問をする。

「龍神様、二つ質問がございます。」

「なんだ?答えられることなら隠さず答えよう。」

「まず一つ目ですが、龍神様は自らの意志でこの方の身体から抜け出すことはできますか?」

「できなくはないだろうが、深くに入り込んでしまっている。無理に抜け出せば、この者の命が危ないやもしれぬ。」

「分かりました。それでは二つ目の質問です。呪いの根源に心当たりはありますか?先ほど、彩玉様からは長雨が続いた際の龍神様を鎮めるための儀式の途中、龍神様がお怒りになり儀式を中断させた結果だと伺いました。本当は何を鎮めるための儀式だったのか、龍神様は何に怒りを感じ儀式を中断させたのか、詳しく思い出していただくことはできますか?」


杏那の質問を聞き終えると同時に老人は急に咳き込み、瞳は龍神のものから人のそれへと変わった。その様子を見た一行は事態の深刻さを理解した。そして老婆が口を開く。


「もしよろければ私の見てきた記憶をお見せしましょう。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ