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千年の恋の物語~運命の二人~  作者: 宝槻錬果
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乙女心

 神殿での打ち合わせを終え、杏那は神城家の自室で落ち込んでいた。すると扉をノックする音が響いた。

「杏那様、理世です。お茶をお持ちしました。入ってもよろしいですか?」

「はい。どうぞ入って。」


杏那は理世の顔を見ると、思わず声を上げて泣き始めた。理世は予想していたように“あらあら”と言いながら杏那とともにソファに座り、杏那をそっと抱きしめ背中を擦りながらなだめてくれる。

「杏那様、ずっと我慢をされていたのですね。ねぇ杏那様、一人で抱えずこの理世にお聞かせくださいませ。」

理世が優しく背中を擦りながら声をかけると杏那は震える声で訴える。

「誰も私のこと好きになってくれない。みんな私の立場や力が欲しくて縁談を利用して近づいてくるだけだわ!これなら私、もう一生誰とも結婚しないわ!」

杏那はいつも聡明で思慮深く穏やかだ。太陽の乙女の力もいつも上手に正しく使っている。それでも本当は十六歳の一人の女の子だ。

「杏那様、そんなもったいないことをおっしゃらないでくださいな。私も豪様もレオ様もみんな杏那様のことが大好きです。」

「みんなのことは分かっているわ。でもっ…ひっく…」

「廉様と水宮様のことですね。」

「うぅっ…」

「今日の秘密の応接室でのこと、杏那様は気づいていなかったかもしれませんが、何もお話しにならない杏那様を廉様はずっと心配そうに見つめていらっしゃいましたよ。」

「えっ?」

杏那は思わず顔を上げた。

「やはりお気づきでなかったのですね。それと、いろいろあってご報告が遅れましたが、廉様が婚姻関係の行事を避けていたのは杏那様に原因があったのではなく、単に家のしきたりに逆らいたかったからだそうです。力を受け継いだ廉様はこの四年の間のことを大変後悔されたそうです。杏那様に会わせる顔がないと落ち込んでおられる廉様を何とか豪様が説得し、剣士見習いとして参加いただくことに成功したのですよ。」

「えっ、爺やが?」

「はい。杏那様も廉様もまだ十六歳。この四年のことを考えるとお互い歩み寄るのは簡単ではないでしょう。ですが、本来のあるべき場所に必要な方が揃ったのです。これから時間をかけてともに任務に臨み、少しずつ距離を縮めれば良いのではないですか?」

「理世さん…。」

杏那は秘密の応接室で廉を見た時に感じたあの感情への対処方法を理世に教わった気がした。

(すぐに仲間として信頼し行動を共にするなんて考えられないと思ったけど、理世さんの言う通りかもしれないわ。廉様が剣士として頑張ろうとしてくださるのなら、少しずつ信頼関係を築いていけばいいのよね。)

杏那の涙はいつしか止まっていた。理世は杏那の目元をコットンの柔らかいハンカチで拭う。

「さぁ、杏那様、お茶でもお飲みになって気分転換をいたしましょう。」

理世はポットからお湯を注ぎ、淹れたてのハーブティーを杏那のティーカップに注いで差し出した。

「ありがとう。」

杏那はハーブティーを一口、もう一口と飲み進めるとすっかり気持ちが落ち着いた。理世は杏那の様子を見て“いつもの杏那様に戻られたわ”と安堵する。その様子を神城家の中庭の木の上から人知れず眺めていたレオは静かにどこかへ飛び去った。


 その夜、杏那は自室で三枚の封筒と中身を見比べていた。一通は周一から預かった神官長宛ての手紙、もう一通は水宮家からのお見合い日時が記されたカード、そして残りの一通は杏那に直接届いたものだ。中身にはこう書かれている。


一通目:太陽の女神様。貴女様の光が届くことを願っております。

二通目:麗しい貴女にお会いできることを楽しみにしています。


場所はいずれも水宮家が治める山奥の池の畔だ。一通目も二通目も手書きで筆跡がよく似ていたため、杏那もこの二通は水宮家の同一人物が出したものだと考えた。おそらくは内々に解決したい何かがある、そして二通も出して接触を図ってきたということは悠長にはしていられない切羽詰まった状況があるのだろうと思った。廉の話が本当なら水宮家が儀式を行う場所、つまり神域に関係する何かがある可能性が高い。


(廉様は大きな池があるとおっしゃっていたわ。となると、やはり思い当たるのは一つだけね。)


そして杏那に直接届いた三通目。これは今朝起きると窓の隙間に挟まっていたのだ。封筒には何も記載がなく、中には手のひらサイズの和紙が一枚入っていた。和紙には宝石の粉が散りばめられているようで光に当てるとキラキラと輝いた。一見何も書かれていないようだったが、僅かに漂う神域の気を感じた杏那は神力を使ってその和紙を見つめた。するとその和紙から文字が輝くように浮き上がった。


(この手紙が来たということは、急がないといけないわ。)


 翌朝、杏那は豪に買い物があると言って少し早めに神城家の屋敷を出た。令嬢が一人で買い物をすることはないので、当然、世話係の理世が同行する。送り迎えも神城家の馬車だ。しかし、屋敷を出たのが早過ぎて、百貨店など買い物をするようなお店の多くはまだ営業していない。二人は朝早くからオープンしているカフェに入った。少し人が増えてきた頃、杏那は理世に言う。


「理世さん、ごめんなさい。今日はどうしても一人で行かなければならないところがあるの。今から行けば夕方には帰ってこれると思うわ。もし、夕方になっても私が帰らなかったら、あの場所を探して。」

「杏那様をお一人でそんな危険な場所に行かせるわけにはいきませんわ。私が同行いたします。」

「ううん。私の記憶が正しければかなり特殊な環境で、限られたものしか出入りできないはずなの。それと理世さんには他にお願いしたいことがあるの。」


杏那は理世にお願いしたいことを話すと理世は承諾してくれた。しかし一人で行かせることにはまだ納得していない。


「レオ様や月城様にはお話になりましたか?」

「ううん。時間がなくて。ごめんなさい。もうすぐ先方の迎えが来てしまうから、理世さんさっきのこと、よろしくお願いします。」


杏那はそう言うとカフェを出て人混みに紛れた。こうなると理世は杏那の決定に従わざるを得ない。すぐにカフェの会計を済ませ、一旦神城家へと引き返した。

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