光の正体
龍也は鷲の視界の映像と祖父・龍臣との会話をヒントに、光の正体を突き止めることを決心していた。元々はあの不可解な現象の真相を知りたいという興味本位と、利用できる力なら欲しいという、龍也にとってはいつも通りの単純明快な理由から追及をし始めたのだったが、力の正体が神域のものに近いという推察に至り、慎重且つ本格的に調べることにしたのだ。
龍也は龍臣のもとを訪れてから数日後、父である龍幸の仕事の合間を見計らい、占術院の一室、龍幸専用の執務室を訪れ、二人きりで会話をする機会を得た。十月後半のこの時期から年の瀬まで、占術院では来年のあらゆる吉凶を占い、各種催事の日取りや外交の方向性、王室メンバーの日々のラッキーカラー診断に至るまであらゆる占術を行い、結果に応じた対処方法まで策定するため多忙を極めている。この時期は例年、幹部の者たちはほとんど家に帰れず、占術院に泊まり込みで仕事をしているのだ。
龍也は早速、見聞きしたことを話し、自身の推察を纏める。
「…というわけで表舞台に出ようとはしていない、何か神秘的な存在が陰で動いている兆候があるのです。お爺様からの話を踏まえると、神と繋がりのある家といえば王家か月城家、神城家など古くからある家が関わっている可能性が高いと思うのです。」
龍幸は神妙な面持ちで龍也の説明を聞いていた。そして先を促す。
「お前の考えは分かった。それで?」
「お父様、今の私の推察について、お心当たりはありませんか?」
「心当たりか。なくはない。だがそれよりも危険な話に首を突っ込んでいるお前が心配だ。」
「心当たりとはなんですか?それに危険な話というのは?このまま何もできず、呪いを引き継いでしまうことの方が余程危険ではないのですか?一族の未来に関わることです。」
龍也は丁寧に話しながらも語尾には熱が籠っている。
「龍也よ。落ち着きなさい。父に会って時間が迫っていることを察したのだろう。気持ちは痛いほど分かる。このままでは父を救えず、私が引継ぎ、やがてはこの呪いの影響をお前に遺してしまうことになる。私もそのようなことはしたくない。だからこそ、占術院院長として王室専用の図書室や研究室にも出入りすることができる特権を活かし、私も内々に調べてはいる。」
龍幸に諭され、龍也は冷静さを取り戻した。
「お父様もお辛い中、申し訳ありません。」
龍也が反省する様子を見た龍幸は一呼吸置いて、自身が調べた内容と龍也が展開した持論を踏まえ考えを話した。
「呪いを解く手がかりを探すため、王室専用図書室や研究室ではあらゆる術に関する記録を読んだが、神との契約や神との解約に関する資料は一切なかった。何か少しでも手がかりはないかと、規則違反ではあるが国王様のみが閲覧できる書棚をこっそり覗いたときだった。読んだときにはただの神話としか思わなかったが、先ほどのお前の推察と重なる記述があった。その内容はこうだ。“この国の守護神である太陽神の力を受け継ぐ乙女が現れる。乙女は陰を照らし、悪を正す。神の愛に守られ、国の繁栄を支える”と。」
「ではその乙女と呼ばれる存在が実在し、私が見た少女である可能性が高いと?」
「うむ。わざわざ国王様しか閲覧できない書棚にあるあたりからも、由緒ある伝承であることに間違いはないだろうし、状況と照らし合わせるとな…。」
「ではその乙女は王家の者なのですか?」
「いや、今の王家には年齢的にも公務の様子からも思い当たるお方はいない。それに文章の表現が引っかかる。王家に生まれるのなら、“国の繁栄を支える”ではなく“国を治める”というはずだ。」
「となりますと…」
「神城家の巫女しか考えられぬよ。」
内心想定していた答えに辿り着き、龍也は納得した。
「それなら、神城家に相談しては?」
「神城家は代々、神に仕える一族だ。おおよそここまで検討がついたか、つかなくても真っ先に相談先として思い浮かぶだろう。しかしこれまでの歴代当主たちはそれをしなかった。ただの一度も。なぜか分かるか?」
龍幸はため息交じりに続ける。
「できなかったのだよ。」
龍幸は国政に関する伝承を龍也に話始めた。
その昔、この国が興り国の調和を保つため、国政のあり方や組織について議論する会合が開かれた。会合には王家と、国を興すにあたり王家に貢献した家々が参加していた。それぞれが王家を尊重しながらも自身の利益を主張するため会合は何度も開かれ調整は難航した。その中で占術をはじめとするあらゆる術を操る我ら水宮家と神に仕え神占を得る神城家の役割の棲み分けが議題になった。
水宮家の者は国政での強固な立場を得られるよう自らの能力を強調した。
「我が水宮家はあらゆる占術を駆使し、この国が平和を保てるようお役に立つことができます。あらゆる吉凶をみる占術の他、妖怪や魔物など人に害をなすものを封印することにも長けております。」
一方で神城家は権力はいらないと言ってあっさり引き下がった。
「神城家は神に仕えることを使命と考えております。権力は求めておりません。どうかこの国の守護神である太陽神様にお仕えし、あらゆる神事を執り行わせていただく栄誉をお与えください。お聞き入れくださるのなら、国政には口出しをせず、神事を通してのみ王家の皆様を、国を、お支えいたします。」
こうして国政には水宮家が、神殿運営は神城家が担うこととなった。以来、水宮家と神城家は遥か昔の取極めを守り、互いに接触を避けて今日に至っているのである。
「お父様、神城家に相談できなかったというのは、国政を担う力があると豪語した以上、神城家には頼れない、という我々一族のプライドの問題だとおっしゃりたいのですか?」
「まぁ、それもあるかもしれないが、理由はもっと他にある。」
龍也は未だ腑に落ちない様子で龍幸の話を待った。




