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千年の恋の物語~運命の二人~  作者: 宝槻錬果
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水宮家の呪いと龍也の決意

 鷲の視界の映像を観た数日後、龍也は水宮家の先代当主である祖父のもとを訪れた。祖父の名は水宮龍臣、七十二歳。水宮家が治める土地の中でも特に山奥にある別邸で静かに暮らしている。六十歳を過ぎたあたりから、体はほとんど動かず病床で過ごしているが、以前は占術院の院長を務め、吉凶を占う術の他、未来予知の術や形代を使った術も得意で術者の間でも実力派で通っていた。そのため龍也は病床の祖父を訪ねるのは申し訳ないと思いつつも、知識・経験ともに豊富な龍臣に話を聞きに来たのである。


 龍也が別邸に着くと、古くから水宮家に仕えている彩玉家の老婆が出迎え、龍臣のところに案内をしてくれる。


「龍也坊ちゃま、ご無沙汰しております。遠いところよくおいでになられました。お爺様もお喜びになるでしょう。」

「お婆様こそ、いつも祖父の世話をありがとうございます。」


龍臣の部屋の前に着くと、老婆が部屋の中に声をかける。

「旦那様、龍也坊ちゃまがいらっしゃいましたよ。」

老婆は返事も待たずお茶を持ってくると行って一人引き返していった。龍也は案内された部屋の中に向かって声をかけ、入室する。

「お爺様。龍也です。失礼いたします。」


 部屋はゆったりと広いが物は少ない。龍臣がゆっくり療養できるよう、部屋はよく掃除がされ、清潔に保たれていた。縁側近くにあるベッドには龍臣が横になっている。龍也はベッドのそばに歩み寄り、龍臣を覗き込みながら、声をかける。

「お爺様、お加減はいかがですか?」

龍臣はゆっくりと目を開け、龍也の姿を捉える。そしてか細い声で返事をする。

「よく来たな。起こしてくれ。」


 龍也は龍臣の肩を支え上体を起こすのを手伝い、龍臣の背中の後ろにクッションを置き、後ろに寄りかかれるように整えた。龍臣が上体を起こすと目に入るのは着物から覗く弱々しい身体と龍の鱗のような青黒いあざである。龍也がそのあざから目を背けられずにいると龍臣はか細いながらも龍也を気遣うように話す。


「見ての通りじゃよ。わしの代でも呪いは解けそうにない。龍也、すまないのぉ。」

「お爺様、そのあざ、以前より…。」

「あぁ、お前の見た通りじゃ。今や全身に広がり、わしの肉体を蝕んでおる。できるだけわしが長く生き、龍幸やお前に影響が出るのを遅らせたかったが、わしももう長くは持つまい…。」


 龍幸というのは龍臣の息子で龍也の父である。そして龍臣はただの病気ではない。水宮家の先祖が過去に起こした過ちにより、龍神の呪いの影響を受けているのだった。その影響は代々水宮家の当主に引き継がれる。龍神が当主の肉体を蝕み、蝕まれたところには龍の鱗のようなあざが現れ、思うように動かせなくなる。もう何世代にも渡っていた。歴代の当主たちも動ける間は呪いから開放されるための術を必死で探してきた。様々な解術も試してきた。しかし一向に効果がなかった。龍也が術の修行や研究に余念がないのも一族に伝わるこの呪いを解くためだった。


「龍也よ、それで、今日は何か聞きたいことがあって来たのじゃろう?」

「はい、実は…。」

龍也が本題に入ろうとすると、部屋の外から声がする。

「旦那様、坊ちゃま、お茶をお持ちしました。」

龍臣が頷いたので、龍也が代わりに返事をする。

「入ってください。」

老婆はサイドテーブルに二人分のお茶とお菓子を置くと、静かに退室していった。老婆は戸を閉めると心配そうな表情で少しの間、戸を見つめて立ち尽くしていた。


 戸が閉まったのを確認し、龍也は話を始める。


「お爺様、当家の他に神々と繋がりを持つ家系をご存じありませんか?天空を駆け抜けられるような力を持つもの、あるいはそのようなことができる何かを従えることができる家系など、何かお心当たりはございませんか?」


龍也は普段外では見せない、真剣な目をしていた。龍臣は少し考える。


「神々と繋がりを持つ家系なら、古くからある家系が有力じゃろう。当然、太陽神を崇める王家もそうじゃ。王家の他にも、王家を長きに渡って支える月城家、王家から神殿運営やあらゆる神事を任されている神城家、この二大名家は外せぬじゃろう。ただ、どちらも歴史は古いが、真に神の存在を公にしたことはなかったのう。」


龍也は内心で思った。

(やはり、神との繋がりで有力候補になるのはその三家か。)


「素早い移動に関しては何かお心当たりはございませんか?」

「そうじゃのう…。神話には神に仕える神獣の存在が描かれていることがあるのう。空想の世界の生き物かも知れぬが、神に仕える獣であれば、何かに秀でているはずじゃ。それが駿足であれば当てはまるのう。おっと、すまない。今のは何の根拠もない話じゃ。」


龍臣は力なく笑う。


「龍也よ、呪いを解こうとしているのじゃろう。気持ちは痛いほど分かるが、皆立場もある。決して無茶をしてはいかん。分かるな?」

「はい。分かっております。ですが…。」

「龍也よ、わしを訪ねてくれたように、一人で抱えず、龍幸のことも頼るが良い。占術院の院長としてわしの跡を引継ぎ忙しくはしているが、龍幸も真剣にこの呪いを解こうとしておる。お前は一人ではないのじゃよ。良いな?」

「…はい。」


龍也は龍臣からの温かい言葉を受けて、改めて決心する。


(お爺様、私が必ずこの呪いを解いてみせます。)


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