垣間見る真実
次から次へと降りかかる難題にもめげず、けれど息も絶え絶えに王の間とやらに辿り着いた瀕死の状態の月子がこの世界に飛ばされてから一番聞きたかった話は、王佐であるというリリスから詳しく聞くことが出来た。
まず、何故月子がこの世界…テレスタジアに召喚されなければいけなかったかというと、それは女神がこの世界そのものを創立した時代にまで遡らなければいけないらしい。
慰み者になのか、それとも単なる気紛れか、とにかく数えるのも馬鹿馬鹿しくなるような途方もない幾百幾千の時を跨ぐ聖女神レヴィナレスは、人には計り知れない“ある日”に、――《テレスタジア》――こちらの古代語で永久なる繁栄を冠する世界を創立した。
その世界、テレスタジアに巨大国家をたったひとつだけ造り上げた彼女は、それからゆっくりと刻を掛けて自分自身を国の唯一神に仕立て上げた。
どう足掻いても逃れられない絶対君主の地位に座わす聖女神を己の深淵の核として、日々の感謝を告げ祈り畏れ敬い褒め称えることを彼女はヒトビトに教え込んだのだ。
女神の熱心な手解きの御蔭か、そう時を遣わずにして、テレスタジアのいきものたちは聖女神レヴィナレスを崇め尊びなによりも大切なものとして扱うようになる。
…しかし、人の欲まではさしもの女神も予想だにしていなかったのかもしれない。
世界の創立から莫大な時間を駆けていくたびに、各地で女神を唯一神とするはずのいきものたちが諍いを起こすようになったのだ。
それはやがて小さな小競り合いから決定的な摩擦となり、遂には悪意を纏って止めようのない戦火となって、瞬く間に巨大国家全体に広がった。
己の欲に忠実となったヒトビトに、最早女神の声は届かない。
雄大な母である女神のことなど忘却し、ヒトビトは強者を新たな絶対君主に添えて更に戦火を世界に広げていった。
勝利を手にした者は戦利品として手に入れた人と土地を元に独立国家を造り上げ、苦汁を舐めるはめになったものはその配下に下り、または虎視眈々と反覆の機会を狙い、集まった弱者たちは国よりも遥かに矮小だが、それでも女神ではない個人の神を据えて部族を造った。そうして元はひとつだった国は驚異的なスピードで裂けて分裂し、時にはくっついたりもしながらも、確かな足取りでその数を増やしていった。
ひとつの揺るぎない大きな国家だった陸は、見る間にいくつもの小さな孤立した国の集合体へと姿を変えた。
けれど慈悲深い女神は、醜いヒトの姿を目の当たりにしても、それを嘆き悲しみはすれど世界ごと消してしまうことは考えなかった。そうではなく、もっと別の方法で、彼女は己を唯一神として生きとし生ける者たちが崇め祭っていた時代に戻そうとした。
それが、帝天。
新たな仕えるべき主を見付け好き勝手に散り散りになっていくいきものたちの中に、すべての母である聖女神を忘れることなく信仰し続けたヒトビトもいた。彼女は彼等に世界で最も栄える土地を与え、そこに聖女神レヴィナレスを主とした国を建てさせる。
女神のお告げ通りに白亜の城が眩しく天に聳える首都・シーラスタを中心に、彼女の国は彼女の加護の元、栄えては滅び生まれる他国の追随を許さないほど強大となった。
そうして己の国を再び確固たるものにしてから、女神は己の采配で選び抜いたひとりの人間を世界の救世主として祭り上げた。
――世界を在るべき姿へ戻すこと。
女神はその条件を選ばれし者に突き付ける変わりに、その人間を彼女の国の帝天にすることでバランスを計った。
女神を唯一神とする国の、実質上のナンバーツー。女神の願いを満たすのならば、生ける人の中ならば誰もが己の思い通りになる暴君になれるのだと優しく囁いて。
魅力的過ぎるその条件に、選ばれし者たちはどんな手を行使してでも世界をひとつに統制した。事実、彼等は本当によく働き、形式上だけでも国を女神の望む形に造り変えた。
ただ、女神がそれに満足してから幾ばくも経つと、やはりヒトは欲望の赴くままに彼女の慈悲と慈愛を忘れ、嘆く女神の声に耳を傾けることもなく個々に独立していく。
――…結局は、繰り返すのだ。
彼女がこの茶番に厭きてこの世界を消してしまうか、見放すか、欲深いヒトビトが身を改めて女神の加護を再び求めるか、なにかひとつ、どれかの結末に辿り着くまでは。
「…つまり、この世界を創立した聖女神レヴィナレスは、元は自分のための国家である巨大な国をひとつ造っただけだったけど、時が経つにつれて人種や種族間で起こる数々の諍い等の多種様々な理由から、その大きかった国は女神ではない個々の君主を持って独立したり離別したりして幾つもの国に分裂してしまった。で、そのことを嘆いた女神がそのたびに女神自身が選んで遣わしたとされる歴代の帝天たちが、切磋琢磨して女神が望む当初の形へと世界をひとつに統制して世界をあるべき姿へと戻すけど、結局、数百数千年と時が経つと再び同じような諍いが起こって、また国の分裂を繰り返している…って、そういうこと?」
「素晴らしい!今の説明だけでこれだけのことを理解なされるとは、流石、陛下はそこらにいるような凡人とはやはり違うようですな!いえいえ、もちろん尊く気高く何物にも代え難い御身で在らせられる貴殿を凡衆と比べているわけではありませんよ?そのような恐れ多いこと、聖女神レヴィナレスと皇帝陛下に身も心も捧げきっているこのエゴール・バラネフがするはずがありません。ただ、人には酸素が必要なように、魚には水が必要なように、なにがあろうとも変わることのない事実を、…そう!なにがあろうとも変わらない事実!陛下が平人とは雲泥の差、天と地の差、それよりも平行に並べ比較することさえ法則として有り得ないほどの聡明さと明哲さを兼ね備えた御方だということを、陛下の足許にも及ばないようなわたくし奴が低能な頭脳で、畏くも表現させて頂くために使った比喩でございます。ああ、ほんとうに素晴らしい。たったあれだけの説明で、しかもこの世界ではなく遥か遠くからまだこの国にいらしたばかりだというのに、我が世界の成り立ちから現在の状況まで把握なされるとは…」
「いや、あの…単にリリスさんの説明が解り易かっただけで、そんな大袈裟なことでは…」
「それに加えこの謙虚さ!帝天であることを誇負するのでも慢心するのでもなく、己の使命をただ果たしただけの家臣のことを褒め、当然の事実をこうも易々と否定なされるその慈愛と高雅に満ち溢れた寛大な御心!」
「…ヒューバートさん」
「…申し訳ありません、陛下。今、止めます故」
説明されたこの世界の事情を、更に深く理解するためにただ簡単に己の言葉で纏めただけなのに何故ここまで持ち上げられないといけないのか。
そういった意味合いを込めた眼差しで斜め後ろに控えていたヒューバートを振り仰いで見詰めると、彼は些か硬い表情で小さく会釈をしてから、まだ朗々と演説さながらに“皇帝陛下の素晴らしいところ”を挙げ続ける中年の男を止めに入った。
漸く大袈裟過ぎる男の演説が終わって月子はほっと息を吐く。
本当に、理解しているつもりでも計り知れないほど女神と帝天に心酔している国なのだと新しく人に出会うたびに思い知らされて、そのたびに頬が引き攣る思いをする。
とんでもないところに喚び出されたものだと考えながら、月子はたった今教授してもらったばかりの世界情勢と、今までの道のりを頭の中で反復させた。
爆笑の嵐の次に皮肉や叱責の応酬を見せ付けられたことにより、意味のわからない世界に飛ばされて唐突に無理難題を突き付けられ元より疲れていた月子の精神は疲労の一途を辿っていた。何処でどう折り合いをつけたのかは知らないが、曲がらない本人たちが納得の出来る話し合いの結論に行き着いた時には、月子は疲れきってげっそりと頬を落として魚の目を晒すことになっていて、もう話なんかどうでもいいから寝てしまいたい、と現実逃避を始めるそんな月子にようやっと気付いた三人…主にブロワーズ兄妹のそれからの動きは、最早人間とは思えないほどスピーディーだった。
疲れ切った月子を迷宮のような城内の奥へと案内し、テーブルやソファ等の最低限の物しか置かれていないすっきりとした部屋へと通されてソファにでっぷりと座らせられる。
やっと一息つけたと喜ぶ月子を尻目に、兄妹は傍に控えていた給仕に何やらあれこれ言い付けて暫く、恐らく彼等が月子の疲れを癒すと独断で判断したものたちが所狭しと室内に運ばれて来た。
見たこともない食べ物の数々、この世界の娯楽であろう生憎だが月子には馴染みのない道具の山、湯浴みの準備が整ったと笑う女給と、その後にはマッサージを用意致しておりますと頭を下げる医者風情の女性。とにかく次から次へと月子のために用意された物と人の隊群に、至れ尽くせりとはまさにこのことだと目を丸くしてから、大半以上は大丈夫だからと頭を下げて帰ってもらった。
気持ちは有り難いが、ことあるごとに陛下は陛下がと騒がれるから疲れるのだ。これでは逆効果である。
取り敢えず大量の食べ物だけを貰い受けて、それをゆっくりと何時の間にか隣に座っていたアウレリオと談笑しながら食した。
その配慮があってなのか、数時間後には疲れが抜けたとは言えないが、それでも詳しい話を聞きたいと再び望むほどには回復した月子の願いに沿って、リリスが事詳しく何故月子がこの世界に喚ばれなければいけないのかを説明してくれた。
その際に移動させられた、王の間と呼ばれる豪奢としか表現のしようがない皇帝専用の部屋で、月子の感性からするとあまり座りたくない玉座に不承不承ながら腰を落ち着かせるハメになったのだが…。
「まあ、座り心地はいいよね…」
「いいなー、僕も座ってみたい。この間ちょっと腰掛けようと思っただけなのに、ヒューバートがすっごく怒るから結局座れなくてさ」
「じゃあアウレリオが皇帝になればいいのに」
「やだよ、考えなくったって面倒そうだし。大体さ、陛下は選ばれたから陛下なんでしょ」
「…だよねえ」
ヒューバートとは逆の、月子からすると左斜め後ろに暇そうに立っていたアウレリオが、月子の独り言を耳聡く聞き付けて口を挟む。
リリスが月子に世界のすべてを説いている時から堂々と欠伸を零したり窓の外で空を優雅に飛ぶ鳥の数を数えていたから、余程暇だったのだろう。
月子と会話が出来ている今でも少しだけ不服そうに、会話を続けるヒューバートと中年男…エゴール・バラネフを睥睨している。
「…ねえねえ、アウレリオ。今さらだけどさ、あのおじさん、誰?」
アウレリオの視線の先にいるのはヒューバートとエゴールだが、眉間に皺を寄せて見詰めている先にいるのはエゴールだけだ。
それが時間を持て余して苛ついているだけの感情で彼を見ているのではないと気付いて、月子は青い髪の青年の横顔を座った位置から見詰めた。
その剣呑さを孕んだ横顔を見詰めながら、そういえば先ほども月子が余りにも大仰に騒ぐエゴールを止めてくれとヒューバートに目で訴えた時も彼の表情が硬かったのを思い出して、月子は口許を手で隠しながらこっそりとアウレリオに詰め寄った。
説明をするからと王の間に通されたその時から影のように何時の間にか月子たちの傍にいた男の正体は、その瞬間から気にはしていたものの、元いた世界では考えられないテレスタジアの情勢とこの場の雰囲気に問い掛ける機会を見失っていたのだ。
ヒューバートが男の相手をしているのをこれ幸いに、月子は男の正体を尋ねる。
が、しかしアウレリオから返ってきたのは月子が望む答えとは大幅に違っていた。
「僕、あのオッサン嫌い」
「え?…、うん?」
あの人は誰か、と尋ねて嫌い、と返ってきたのは初めての経験だった。
てっきり何処何処の誰々さんだと、一般的な答えが寄越されると思っていた月子は、思わずぽかんと口を開けた。出会った時のようになにか裏があるのだろうかと勘繰ってみるが、月子に一瞥もくれずに相変わらず刺すような視線でエゴールを凝視する青年にそういった感情があるとは思えない。
「きら…嫌い?まあ、うん…決して好きではなさそうだけどさ…」
やだなーそうじゃなくてあの人がなんなのかを知りたいんだよ、と軽々しく言える雰囲気でもなく、返してもらった返答に頷くしかない。なんか地雷だったのかな、と視線を青年から外して漂わせれば、それはすぐに近くにいたリリスと合った。
月子とアウレリオの会話を聞いていたらしい彼女が、少しだけ眉尻を下げた月子の表情を受けて口を開く。
「アウレリオ、気持ちはわからないでもありませんが、陛下の前でそのようなことを言うのは控えなさい」
「気持ちはわかるって言ってる時点でリリスもアウトだよね」
まったくもってその通りだが、リリスまでもが男のことを厭っていることに月子は驚いた。
てっきりまた、月子を軸とした常識を口にするとばかり思っていたのに関わらず、アウレリオと同じように彼女は渋い表情で己の兄の傍にいる男を見詰めている。
「……………」
今さっき初めて会ったばかりなので月子はなんとも言えないが、けれどそこまで非難を浴びるような人間なのだろうか、エゴール・バラネフという中年男は。
人を見掛けで判断するな、とは言うが、やはり初対面で確かめられることと言えば外見しかない。変わらずにヒューバートと話し込む件の男に、月子は視線を滑らせた。
少しだけ秀でた額と白毛混じりの茶髪、年相応に皺の入った顔に鎮座する人よりやや小さな鼻となんの変哲もない赤みを帯びた黄土色の瞳。着込んでいるのは緑をベースとした色取り取りの法衣で、それなりの地位にいる人間だということが窺える。
月子が見る限り取り立ててなにかがあるわけではなさそうな、実に平凡そうな男性である。
それでも単純に嫌うというよりは嫌悪するように鼻に皺まで寄せるアウレリオと、こちらも不快そうな表情でエゴールを見詰めるリリスの様子を見れば、やはり彼にはなにかあるのだろう。
「…何処から嗅ぎ付けたのかは知りませんが、まったく、陛下の御帰城と共に平然と姿を現して、しかも挙げ句に謁見までするとは…。本当に見下げ果てた根性の持ち主ですね」
「だよね。今まではあんなに何処の馬の骨ともわからない異界人が帝天になるなんて我慢ならないとか喚いてたくせに。事故に見せ掛けて殺しちゃえばよかったんじゃない」
「それこそ同意したい上に協力も惜しまぬ提案ですが…あれは一応、国の官僚の地位に就く人間ですから。そうも簡単にはいかないでしょう」
「そういえば大臣かなんかだっけ?あーあ、だったら階段かなんかから足踏み外して頭打ってくたばるとか、椅子から立ち上がった拍子になんかの弾みで転んで机の角に頭ぶつけるとか、至上最高の死に方でもしてくれればいいのに。死にさえしてくれれば、僕あいつの禿げたデコにキスだって出来るね」
「あれ、ちょっと君たちそういうことを本人の前で…」
「リリス、アウレリオ。陛下の御前だぞ」
「そうそう、ヘイカの…違う違う!そうじゃなくて、本人の目の前でそういう……あれ?」
どれだけ嫌っているのかはわからないが、坂道を転がる小石のように軽快なスピードで悪口を叩きだした二人に月子は顔を青くした。
いくらなんでも本人を目の前にして言い過ぎである。
なにか厄介なことに巻き込まれては大変だと慌てて止めに入ったところで、エゴールの相手をしていたはずのヒューバートが割って入って来る。
彼の発した台詞に、よかったまともな人がいて…と同調しようとして、しかしそれがまた自分基準だったことに気付き急いで否定をしてから更に慌てて月子が目をやった先に、今までその場所にいた男の姿はなかった。
「…ヒューバートさん…、エゴールさんは?」
今までそこにいたはずなのに忽然と消えた男の行方に首を捻る月子に、ヒューバートが小さく微笑みながら、彼なら帰りましたよ、と出入口である扉を指差す。
「帰った?」
「と、言うよりも、お引き取り頂きました。陛下が今日の長旅で疲れていらっしゃるとお伝えしたら、後日また改める旨を伝えるようにと伝言して、今さっき」
「ああ…そういうこと」
それでリリスとアウレリオは声高らかにエゴールに対する罵詈雑言を重ねていたわけだ。
本人が聞いてさえいなければ別にいいや、とすっきりした顔付きで頷く月子に、今更ながら正気に返って、失態を演じたと数秒前の己を恥じるリリスが耐えかねたように月子に向き直って頭を下げた。
「陛下、お見苦しいところを場も弁えず晒してしまったこと、心よりお詫び申し上げます」
「いいですよ、別に。人間なんだもん、どうしたって相容れないひとの一人や二人や三人くらいいますって。…それよりも、私としたらどうしてみんながそんなにあの人のことを嫌っているのか、の方が気になるんですよね。そもそも、誰ですか?エゴールさんって、…えーと、大臣とかなんとかって、言ってましたけど」
「それは…」
アウレリオが零していた、何処の馬の骨ともわからない異界人が帝天になるなんて、という台詞は、言葉の前後から察するにエゴールが吐き出した台詞だろう。
月子の顔を見るや否や、ゴマを擦って近寄って来て、景気よく弾き出されていた賛辞の数々は、その台詞からすると嘘なのだろうか。もしかすると、余り態度には出さないがヒューバートを筆頭とする三人がエゴール・バラネフという男を嫌っている理由の一旦を、それが担っているのかもしれない。
別段、陛下陛下、と持ち上げられる言葉すべてが本物だと思っているわけでもないし、そもそも月子は皇帝になるつもりがないのだから男の言動が真っ赤の嘘だったとしてもその程度では傷付いたりはしないが、月子を初めから終わりまで帝天と讃える彼等からすれば、一見残酷にも見える事実を教えるのは気が引けたのかもしれない。
半ば野次馬精神丸出しで、困惑するリリスに王座から降りてまで詰め寄ろうとしていた月子の行動は、目の前に伸びて来た人の腕に遮られた。
「…申し訳ありません、陛下」
「陛下がほんとに“陛下”になったら話すよ」
目前に翳されたのは軍服に包まれたヒューバートの腕で、隣から聞こえてきた否定の声はアウレリオのものだ。今までの従順さからして、まさか拒否されるとは思わなかった月子は二人の言動に目を瞠ったが、すぐにそうかと肯定して笑顔を見せた。
アウレリオの言う通り、今の自分は仮初の皇帝だ。周囲の人間はみな、陛下だ帝天だと月子を君主として扱うが、月子自身はそんなものになったつもりは毛頭ない。
この世界に飛ばされてから確実に半日は経った時間の中で、周りに帝天として接される態度に僅かながらも慣れてしまったから今のような込み入った事情が聞きたくなったのかもしれないが、決して深い部分に立ち入りたいと望んだわけではないのだ。
止めてもらえてよかった。これ以上この世界に関わる気もない私が知っていいような話ではない、そう考えて月子は気まずそうな顔をする兄妹と、珍しく真剣な表情のアウレリオに、なるべく自然に見えるように口許を緩めてみせた。
「我儘言っちゃってごめんなさい」
何故この世界に喚ばれたのか、経緯を知って尚更思った。
私はそんな、帝天になるつもりなどさらさらない。




