↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デバッグ・アウト! 〜自作乙女ゲーの悪役令嬢に転生したけど、クソバグだらけでセルフ尻ぬぐいしてる件〜  作者: 上園 千紗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/36

第4話 T字の協力関係(前編)

 カイルは、まっすぐにレオを見ていた。


「これを」


 カイルは、私の腕に視線を落とした。

 レオに掴まれたあたりに、血のにじむ傷がある。

 さきほど猫に引っかかれたものだ。


 レオは手を離し、バツが悪そうな顔をした。


「あとで教室に来い」


 それだけ言って、レオは校舎に戻った。

 私はホッと息をついて、カイルを見た。

 

「ありがとう、助かったわ」

「なぜ、そこまで校舎を避けるのですか?」


 カイルは、足元にすり寄ってきた猫を撫でながら言った。


 言葉に詰まる。

 この男は他のNPCと違って明らかに異質だ。

 深く関わるのは危険だという思いもある一方、いつも助けられている。


 どこまで伝えるべきか。

 そもそも、どう説明しよう。


「話すと長いんだけど――」


 言いかけたとき、チャイムが鳴った。


「あっ」


 ブツンと視界が真っ暗になった。

 18時だった。


*    *    *


 翌朝。


 昨日はカイルと話せずに終わってしまったなとか、レオをどうしようとか、夜の間に色々と考えたのだが、校門をくぐった瞬間に全て忘れた。


 目の前に、とんでもない景色が広がっていた。


「おはようございます」

「おはよう、いい朝ね」


 モブの生徒たちは、いつも通り雑談を交わしながら校舎に向かっている。

 校門に立つ警備員も、笑顔で生徒に挨拶をしている。


 ――もれなく全員、Tポーズで。


 Tポーズとは、文字通り両手をピンと広げたTの字の格好だ。

 キャラクターをデザインする時の基本ポーズで、いわば初期状態だ。


 開発中は頻繁に目にするが、製品版でこのポーズを見ることはまずない。


 つまり、ものすごくわかりやすいバグだ。


「なんてこった」


 手も足もアニメーションしていない。

 カカシのような状態で、前方にスーッと平行移動している。


 制作者として、こんなバグを出すことは恥なのだが、正直面白い。


「あっ」


 その様子を見て、一つ嫌な絵を想像してしまった。

 当たらないでほしいと思いながら、正面玄関に走る。


 残念ながらそこには、私の想像通りの光景が広がっていた。


 大量のモブが、玄関のドアに突っかかっている。

 両手を広げているせいで、通れなくなっているようだ。

 モブが、次々と溜まっていく。


「これはまずいな」


 ひとまず、人がいない裏庭で作戦を立てよう。


 慎重にモブの隙間を潜り抜け、裏庭を目指す。

 急ぎたいところだが、モブの腕に引っかかって動けなくなると困る。


「にゃー」


 裏庭に近づくにつれて、猫が増えてくる。

 人気《ひとけ》の代わりに、猫気《ねこけ》があるのを忘れていた。


 裏庭につくと、カイルがいた。

 カイルは足音に気づいて、こちらを見た。


「おはようございます」

「おはよう」


 カイルはベンチに座って猫を撫でている。

 Tポーズ化していないようだ。


 それで確信した。

 この男は異質だ。

 転生者とは限らないが、私と近しい、この世界にとっての異物。


 気になるところだが、まずはバグを直さねば。


 裏庭の真ん中まで歩いて、胡坐をかいた。

 すぐに、数匹の猫が寄ってくる。


 昨日の塩対応は、苦丁茶のせいだったのだろう。


「皆、奇妙なポーズをしていましたが、これも奇病の一種なのですか?」


 カイルが言った。


「ええ、典型的なやつよ」

「あなたが校舎を避けるのは、奇病が関係しているのですか?」

「まあ、そうね。校舎内のほうが奇病になる確率が高いというか」

「伝染病なのですか?」

「……ものによる」


 カイルは腕を組んで、眉間にシワを寄せた。

 そして立ち上がって、傍に歩み寄ってきた。


「僕はこの奇病のことを知りたいと思っています」

「なぜ?」

「探しているものと、この奇病がつながっていると考えているからです。あなたを観察していたのは、何かヒントが得られそうだと思ったからです」


 カイルは、私の正面に腰を下ろした。


「あなたの知っていることを教えてくれませんか」


 真剣なまなざしだった。

 こんなまじめなキャラを、この私が作るだろうか。


 何にせよ、悪いやつではないことは確かだ。

 バグるリスクはあるが、味方になってくれれば、心強い。


「わかった。でもまずは、今学園を蝕んでいる奇病を治しましょう。話はそのあとよ」

「わかりました」


 カイルは大きく頷いた。


 話している間に、猫が二匹膝に乗ってきた。

 にゃーにゃーと裏庭中に鳴き声が響いている。


「これだけ大量にいると、さすがにうるさいですね」

「そうね。ん……? 大量……」


 ふいに、一つの可能性が頭をよぎった。

 膝の上に乗る猫を抱き上げて、じっと見つめた。


「君たちのせいでは?」


 一匹であれば問題なかったが、推定百匹の猫の処理負荷が大きすぎて、モブの処理が間に合っていないのではないだろうか。


 簡単に言うと、増えた猫を動かすのが大変すぎて、人間が上手く動かなくなっている。

 その結果、全員がTポーズになった。


 カイルにも、かみ砕いて病気の概要を伝えた。


「つまり、学園から猫がいなくなれば人間が治ると?」

「ええ」


 人道的に猫を消すには、里親を見つける必要がある。

 もちろん、非人道的な手を取るつもりは、はなからない。


「王宮でまとめて引き取ってもらえませんかね?」

「この数は無理じゃないかしら……」


 腕を組んで考える。

 しかし「まとめて」というのはいい着眼点かもしれない。


 おそらく今、人と猫が多い校門付近の負荷が非常に高い。

 猫を別の場所に移せば、その分、校門付近の負荷は減るはずだ。


 肝心なのは、どこに移動させるかだ。

 なるべく人が少ない場所に移動させなければ、移動先で同じバグが発生する可能性がある。


 とすると――。


「カイル、猫をここに集めましょう」

「ここにですか?」


 お気に入りの場所だが、仕方ない。

 一番猫を集めやすく、人が少ないのは裏庭だ。


「ええ。病気の原因をここに集約して、隔離する。そうすれば校門は正常に戻っていくはずよ」


 カイルは難しそうな顔をしながらも、頷いた。


「設計上、猫は校舎には入っていないと思うわ。外を中心に探しましょう」

「では、僕は北側を中心に探します。あなたは南側を」

「その前に、演劇部の部室にまたたびがあるから取ってきてくれない?」

「……演劇部には予知能力者でもいるんですか?」


 校舎に入っていくカイルを見送る。

 私は使用人を呼んで、別の準備に取りかかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。