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デバッグ・アウト! 〜自作乙女ゲーの悪役令嬢に転生したけど、クソバグだらけでセルフ尻ぬぐいしてる件〜  作者: 上園 千紗


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第15話 バディ(後編)

 はたから見てもすごい引きだ。

 カイルは必死にリールを巻くが、ズルズルと湖の方に引きずられていった。


「カイル!」


 カイルの腰に抱き着いて、全力で引っ張る。


「くっ、すごい力だ!」


 カイルも私も、ジリジリと湖の方に吸い寄せられていく。

 このままでは、私たちの方が釣られてしまう。


「カイル、ちょっとだけがんばって!」


 カイルから離れて、リュックからロープを取り出した。

 近くの木にロープを括って、反対側をカイルの腰に結んだ。

 命綱代わりだ。


「まずいぞ! このままじゃ無理だ!」


 カイルは膝まで湖に浸かっている。


「しっかり握って!」


 釣竿がカイルの手から抜けそうになっている。

 私も手を伸ばして、一緒に釣竿を掴んだ。


「おのれヌッシーぃいい!」


 叫びながら、全力で引く。

 しかし、釣竿の先にいるであろうヌッシーはびくともしない。


 段々と手がしびれてくる。

 握力が限界を迎えようとしたその時、突然背後から緑色の手が伸びてきた。


「がいう、えうざぁ!」

「ス、スキャナー!」


 振り返ると、たくさんのゾンビたちが立っていた。

 スキャナーは私の腰に抱き着いて、一生懸命に踏ん張ってくれた。

 他のゾンビたちも、スキャナーの後ろに続いていく。


「来てくれたのね!」


 泣きそうになった。

 校長も走ってきて、木に括ったロープを解いた。

 後ろの方のゾンビたちにロープを持たせ、自身も列に加わる。


 皆で懸命にロープを引くが、ヌッシーは手強い。


「皆、私の合図で一斉に引いて!」


 振り返って、大声で叫んだ。

 総勢二十人はいるであろうゾンビたちが、ガクガクと頷いた。


 力だけなら、ヌッシーと拮抗している。

 あとは粘りとタイミングの勝利だ。


 それなら負けない。

 長年の主釣り経験のすべてを、この一本にかける。

 ヌッシーが油断した一瞬を、見極めてみせる。


 目を閉じて、釣竿の感触を確かめる。

 心を鎮め、波音に耳を澄ませながらじっとその時を待つ。


 そして――。


「ここだぁあ! ひけぇええええ!」

「「「うぉおおおおおおおおお!」」」


 ヌッシーの力が緩んだ一瞬を、私は見逃さなかった。


 ゾンビたちの咆哮とともに、釣竿を一斉に引く。

 確かに何かを釣り上げた手応えがあった。


 湖が大きく波打ち、水がこちらに迫ってきた。

 波に流され、気づけば少し岸から離れた場所に倒れていた。


「うっ……」


 水を吸った服が重い。

 目をこすりながら立ち上がって、頭上を見上げた。


「すごい……」


 湖岸には、二十メートルはありそうな巨大な首長竜がいた。

 見上げるだけで首が痛くなりそうな大きさだ。


 そばに倒れていたカイルを起こして、恐る恐るヌッシーに近づく。

 ヌッシーはつぶらな瞳でこちらを見ているが、襲ってくる様子はない。


「これがヌッシー……」


 カイルが言った。

 途端にヌッシーがこちらにグッと首を伸ばしてきた。


 ヌッシーの顔がカイルの前でピタリと止まる。

 迫力がすごい。

 カイルは動じることなく、ヌッシーを見据えていた。


「ワンッ!」


 気のせいでなければ、明らかにおかしなSEがヌッシーから鳴った。

 ヌッシーは犬のようにカイルの匂いを嗅ぎ、ペロペロと顔を舐めた。


「うわっ! やめろよ!」


 カイルはそう言うが、満更でもなさそうだ。

 ヌッシーの頭をわしゃわしゃと撫でている。

 どこまでも動物に弱い。


「ワンッ! ワンッ!」


 ヌッシーが嬉しそうに尻尾を振る。

 巨大な尻尾が湖に叩きつけられると、波が起き、私たちにかかった。


「なんだこれ」


 じゃれ合うカイルとヌッシーを見ながら、私は呟いた。

 いつものカイルの気持ちが、ちょっとわかった。


*    *    *


 その後、私とカイルは順にゾンビたちを助け起こした。

 全員、怪我はないようだった。


「皆、助けてくれてありがとう! おかげでヌッシーが釣れたわ!」


 黄金の釣竿を掲げて、ゾンビたちに言った。

 ついでにもう一度カイルにドヤ顔したが、ヌッシーに夢中で全くこちらを見ていない。


「スキャナー、手を出して」

「あがぁ?」


 近くにいたスキャナーに歩み寄る。

 スキャナーは手のひらを上にして出した。


「ううん、こっちに向けて、こう!」


 私は手のひらを正面に向けて、右手を出してみせた。

 スキャナーも真似して、手を出した。


「ナイスフィッシング!」

「がぁっ!」


 その手をパーンと叩いて、ハイタッチした。

 スキャナーは不思議そうに、手のひらを見つめている。


「ハイタッチっていうの。良いことがあった時にするのよ」

「アイダッチィ! おでもずるぅ!」


 スキャナーは嬉しそうに駆け出すと、他のゾンビにハイタッチしていく。


 結局、私もゾンビ全員とのハイタッチに付き合わされた。

 手のひらがジンジンするが、名誉の負傷だ。


 痛む手をさすりながら、いまだにヌッシーと戯れているカイルのところへ向かう。


「カイル、ヌッシーはどう?」

「いい子だぞ。ヌッシー、ウェイトだ」

「ワンッ!」


 秒で手懐けている。

 こいつは魔物使いとかになった方がいいんじゃないだろうか。


「ごゆっくり……」

「おい」


 伸びをしながら歩き出したが、すぐにカイルに止められた。

 振り向くと、カイルが右手を前に出していた。

 私は思わず、その手をじっと見てしまった。


「……なんだよ、早くしろよ」

「ふふっ」


 つい笑みをこぼすと、カイルが顔を引きつらせた。

 私は助走をつけて砂浜を走り、勢いよくその手を叩いた。


「ナイスフィッシング!」


 パーンと、乾いた音が気持ち良く響きわたった。

明日で最終話です。

これまでの話も随時加筆・修正していますので、おさらいも兼ねてぜひお読みください!

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