第14話 テストマップ(後編)
「行きましょう、あれが村かもしれない」
そう言って踏み出した時、不意にチャイムの音が町内放送のように響き渡った。
「なんだ?」
「学園のチャイムと同じ音ね」
このマップと学園が繋がっている影響だろう。
懐中時計を取り出すと、時計は12時を指していた。
「今度こそお昼にしましょう!」
「ダメだ、煙が消えたらどうする」
「やだやだーお腹すいたー!」
「そんなに遠くない。我慢しろ」
しつこくカイルにまとわりついたが、ランチボックスは返してもらえなかった。
カイルの言う通り、ほどなくして煙の近くまでたどり着いた。
しかし、それ以上道がなかった。
近くを探すと、小さなトンネルのようなものを見つけた。
「ビンゾ村……」
「この字が読めるの?」
トンネルのそばの古い看板を見て、カイルが言った。
見たことのない文字だ。
「ああ。きっとここが、俺の村だ」
「問題はどうやって通るかね」
樹齢千年は超えていそうな大倒木が、トンネルの入り口を斜めに塞いでいた。
すぐ横の斜面から倒れたようだ。
上にも下にもわずかな隙間があるが、通れそうにない。
「少し周りを見てみましょう」
トンネルの前に荷物を置いて、周辺を歩いた。
しかし、他に入り口らしきものは見当たらない。
森に落ちていた古いノコギリだけ持って、私はトンネルに戻った。
カイルが私を見て、首を横に振る。
「その錆だらけで切るのは厳しいだろ」
カイルはノコギリを見て言った。
もっともだった。
私は切り株に腰掛けて、リュックを開けた。
使えそうなものはないかと、リュックの中のものを取り出していく。
「それはなんだ?」
カイルが、茶色い箱を指さした。
「ああ、これね」
箱を開けて、タオルに包まれた中身を取り出す。
手に取ると、わずかな振動を感じる。
地面に置いて、タオルを取った。
「ウサちゃん」
「何で持ってきた」
フッキーン・プルリーン職人こと、触れると震えるウサギのオブジェクトだ。
使えそうなものは片っ端から回収してきた。
「ん?」
私はウサギとノコギリを交互に見た。
一つのアイデアが、頭に浮かんだ。
「閃いてしまった」
ニヤリと口角を上げると、カイルが嫌そうな顔をして後ずさった。
* * *
「さあ、やるわよカイル!」
数分後、私はウサギとノコギリであるものを作った。
カイルはノコギリを抱え、木の前に立つ。
そのノコギリは、小刻みに振動していた。
即興チェーンソーだ。
「振動マックスよ!」
チェーンソーをバシバシと叩くと、振動が上がっていく。
「くっ、支えててくれ!」
「おっけー!」
カイルを支えながら、全力でチェーンソーを叩く。
「いくぞ!」
カイルが倒木に切り込んだ。
カイル越しにも、すごい振動を感じる。
「がんばれカイル! もう一息!」
「うおおおお!」
カイルの渾身の一押しで、倒木が真っ二つに切断された。
切り落とされた部分が、ドスンと大きな音を立てて地面に落ちた。
人が通れそうな隙間ができた。
「ナイスチェーンソー!」
「疲れた……」
カイルはチェーンソーを投げ出すと、地面に座り込んだ。
「お疲れさま!」
私も座って、片手を掲げた。
カイルは手が震えていたが、いつものようにハイタッチしてくれた。
私たちは倒木の隙間を通って、村に入った。
木造の小屋が並ぶ、静かな村だった。
「俺の村だ……帰ってきた……」
カイルが、独り言のように呟いた。
ゆっくりと村を見渡している。
「がぁいる!」
ふと、家の陰から見知った頭が出てきた。
スキャナーだった。
「がいる、がえっだ!」
スキャナーは、嬉しそうに叫んでこちらに駆け寄ってきた。
他の村人たちも、声に気づいて様子を見にきた。
全員、ゾンビだった。
ツルツルからM字、O字、U字まで、バラエティに富んだ頭髪をしている。
「がいうぅ! がいる、がえっでぎだぁ!」
「ああ、ただいま」
カイルも嬉しそうだ。
騒ぎを聞きつけたゾンビたちが、次々に家から出てくる。
「がいう、いえ、ごっぢ」
スキャナーが、カイルの服を引っ張った。
家に案内してくれるらしい。
二人でスキャナーの後ろについていく。
「ここでのこと、思い出したの?」
「全部じゃない。だが、みんなと暮らしていたことは、なんとなく思い出してきた」
カイルは、どこか安心したような顔をしていた。
私も少しホッとした。
「ごれ、いえ」
スキャナーは、村の端にある小屋に入っていく。
中は手入れが行き届いており、とてもキレイだった。
カイルはゆっくりと、家の中を見て回る。
スキャナーも、そのあとをピョコピョコとついていった。
「懐かしい……確かここに……」
カイルが、キッチンの引き出しを開けた。
私も中を覗き込む。
大量の干し魚が入っていた。
「なんだこれ」
「カイル、渋い趣味してるわね……」
「違う、これは俺のじゃ――」
「いやー、大漁大漁! 今日は魚祭りだ!」
カイルの言葉を遮るように、玄関から突然陽気な声が聞こえてきた。
ゾンビたちとは違う、明瞭で人間らしい声だ。
「ごーじょ、がえっだ!」
スキャナーはそう言って、嬉しそうに走っていった。
私たちもその後を追って、玄関に向かった。
玄関では、釣竿を持った男が靴を脱いでいた。
「どうしてあなたがここに!?」
その姿を見て、思わず叫んだ。
知った人間だったからだ。
スキャナーとお揃いの頭のその人物は、私に気づいて弾けるような笑顔を浮かべた。
「おお、エルザくんか!?」
それは長期休暇中と聞かされていた、校長先生だった。
※残り4エピソード(16話完結)です。
最後までお付き合いいただけますと幸いです。




