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デバッグ・アウト! 〜自作乙女ゲーの悪役令嬢に転生したけど、クソバグだらけでセルフ尻ぬぐいしてる件〜  作者: 上園 千紗


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第13話 カイル(後編)

「走れ!」


 カイルにリュックを叩かれて、私は走り出した。


「だから待てって言ったろ! 予言書に書いてあったんだ!」

「早く言いなさいよ!」


 ギャンギャンと言い合いながら、とにかく走る。

 後ろから、鋭い牙を覗かせたミミックが追いかけてくる。


 こんな時に限って、分かれ道もない直線ルートだ。

 本当にバランスの悪いレベルデザインだ。


「そのデカいリュックになんかないのか!」


 カイルが私の背中を指さした。


「そうだ!」


 私は走りながらリュックを前に抱え、中を漁った。

 そして、あるものを取り出してミミックの方を振り返った。


「くらえ、インク銃!」


 引き金を引くと、ピンク色のインクが勢いよく噴射された。

 全く当たらなかった。


「貸せ、下手くそ!」


 銃を奪われた。

 カイルは片手で構えると、ミミックの口めがけて撃った。


「ウガァアア! ゴボボボボ!」


 ミミックが苦しみはじめる。

 溺れているのか味が不味いのかわからないが、とにかくチャンスだ。


 私は地面に落ちていた木の棒を拾い上げ、ミミックの方へ走った。


「カイル、こいつの頭押さえてて!」

「頭!? こうか!?」


 カイルはミミックの蓋の木の部分を掴み、ガッと口を開けさせた。


「くらえ、その辺で拾った棒きれ!」

「アガッ!?」


 口の奥に手を突っ込んで、木の棒を縦にして押し込んだ。

 ミミックは口を閉じられなくなり、ガタガタともがいている。


「ふう、これでよし」


 念のため、おやつに持ってきていたキャラメルを牙の間に詰め込んでおいた。

 しばらくは不快感で動けないだろう。


「エルザ、さっきのところに戻るぞ。こいつの下に、扉みたいなものがあった」

「粋なデザインね」


 ミミックの住処に戻ると、カイルの言う通り地面に扉があった。

 カイルがその扉を開けると、さらに下への階段が続いていた。


「行きましょう。きっとこの先に、伝説の武器があるわ」


 カイルとともに階段を下る。

 段差が低すぎて非常に降りにくい。


 一段と湿度が上がり、どこからか水滴の滴る音がした。


「階段、濡れてるぞ。転ぶなよ」

「努力するわ」


 石壁に手をつきながら、慎重に進んでいく。

 濡れた壁はひんやりとしていて、指先が冷たい。


「お前の故郷は、どんなところなんだ」


 先を歩くカイルが、ふと言った。

 石の壁に、声がよく響く。


「食べ物がおいしいわね」

「合宿の時の王子の弁当が、お前の故郷の料理か」

「そうよ。おせちって言う、本当は新年のお祝いに食べる料理なの」


 カイルが立ち止まる。

 そしてこちらを見上げて、問いかけた。


「お前は、どうしてここに来たんだ?」


 私も足を止めた。


 カイルは、私に全て話してくれた。

 そろそろ私も、自分のことを話すべきだ。


「わからない。元々私も別の世界で生きていて、気づいたらここにいた。カイルと違って、記憶はあったけどね」

「薄々、そうだろうとは思っていた」


 カイルは、そのまま言葉を続けた。


「お前は何でこの世界に詳しいんだ? 俺と同じように、予言書を持っているのか?」

「違うわ。この世界に来る前から、ここを知ってたの」

「どういうことだ?」


 カイルが首を傾げた。

 私は言葉に詰まった。


 しばらく考えてみたが、シンプルに事実を伝えることにした。


 目を閉じて、大きく息をはく。

 心臓がうるさく鳴っているのを感じる。


 カイルを見下ろして、静かに告げた。


「この世界は、私が作った物語の世界なの」


 カイルは、しばらく眉間にシワを寄せてフリーズしていた。

 やがておもむろに、口を開いた。


「……創造神?」

「やめて、それはなんか恥ずかしい」


 カイルは私を見つめたまま、わずかにその目を細めた。


「じゃあ、俺はお前に作られたのか?」

「……ええ」


 本当は、言い切れるほど記憶がない。

 しかし、およそ見当はついている。


 開発初期、使えそうなフリー素材のモデルをいくつかテストマップに突っ込んだ。

 その中に、人相が悪かったので使わなかったモデルがあった。


 おそらく、それがカイルだ。


「そうか」


 カイルは短く答えると、再び階段を降り始めた。

 私もその後を続く。


「お前は……」


 歩きながら、再度カイルが口を切った。

 固唾を飲んで言葉の続きを待つ。


 薄暗い空間に、二人分の足音だけが響いた。


「お前は何のために、俺を作ったんだ?」


 息が止まりそうになった。

 思わず足を止めたが、カイルはそのまま下っていく。


「私は……」


 この世界に来る前は、カイルは使わなくなった一(いち)モデルに過ぎなかった。

 存在すら忘れていた。


 それが今では、こうして共に冒険してデバッグする仲間になった。


 もはやただの一モデルではない。


 じゃあ、何なのだろうか。


 これまでの日々を思い出しながら、頭の中で言葉を探す。


「カイルは私の――」

「いや、やっぱりいい。言わなくていい」


 カイルは私の言葉を遮ると、足を止めた。

 振り返って、真っすぐな視線をこちらに向けた。


「お前が何を思って作ったかは、どうだっていい。今俺がここにいて、考えていることが俺のすべてだ」


 止めていた息を、ふうと大きく吐き出した。


 カイルの言う通りだ。

 ここで出会って、ともに過ごした時間がすべてだ。


「そうね、私もそう思うわ」


 この場所が本当に異世界なのか、私が見ている夢なのかはわからない。

 将来的にそれがわかる保証もない。


 しかし、彼らは確かにここで生きている。


 握りしめていた手のひらをほぐして、 再び歩き始めたカイルの背を追う。


「それにしても、あんまりビックリしないのね」

「そうだな、合点がいったからかもしれない」

「どうして?」

「お前は強欲でうるさくて食い意地が張ってて、すぐ調子に乗るし、人を平気で利用する。それでも……」


 カイルは言いながら、小さく指先をすり合わせていた。

 最近気づいた、言葉を探しているときのカイルの癖だ。


「それでも……この世界のすべてを大切そうに見てる」


 そうだったのか、と他人事のような感想が浮かんだ。


 私が作った世界ではあるが、強く意識はしていなかった。

 ただこの場所が楽しくて、気づいたら大切になっていた。


 ほんの少し、別れが惜しくなるぐらいには。


 しかし、テストマップに押し込んだカイルに言われると、少々バツが悪い。

 私はごまかすように、ふんと笑って言った。


「まあ、創造神ですから。崇め讃えてもいいのよ」

「うるせえ。ネタ帳印刷するぞ」

「やめて」


 言い合っていると、階段を降り切った。

 目の前に、重厚そうな扉が出現した。


「きっとここね」


 カイルと一緒に、重たい扉を開けた。


 中は、地下とは思えない煌びやかな内装だった。

 抜け感のある白い床と壁に、柱には繊細な装飾が施されている。


 期待に胸を膨らませて、中央にある祭壇に進んだ。


 そして――。


「……これが伝説の武器か?」


 祭壇の上には、黄金に輝く釣り竿が鎮座していた。

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