↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デバッグ・アウト! 〜自作乙女ゲーの悪役令嬢に転生したけど、クソバグだらけでセルフ尻ぬぐいしてる件〜  作者: 上園 千紗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/36

第13話 カイル(中編)

 裏庭では、いつものように数匹の猫が芝生でくつろいでいた。

 私たちはテーブルを挟んで向かい合うように座った。


 カイルは手を組んで、親指の先を小さく擦り合わせていた。

 黙って待っていると、やがてカイルは大きく息をついた。


「どこから話せばいいかわからないが……俺が体験したまま話す」


 カイルは言葉に詰まりながらも、話を続けた。


「俺は……ある日目が覚めたら、この学園の図書室にいたんだ。覚えているのは自分の名前だけで、他には何もわからなかった。ただ……授業が始まれば教室に連れていかれ、友達らしきやつらもいた。でも俺は、誰一人として知らなかった」


 四股を除けば、私よりハードな人生を送っている。

 制作者の私ですら、この世界に投げ込まれたときは不安だった。


「かすかに覚えているのは、故郷のことだった。俺は森や湖……たくさんの自然と人に囲まれて生きていた」

「故郷……」

「そして、そこに帰りたいと思った。ここでの暮らしも悪くないが、自分の居場所じゃないと感じていた」


 私も同じだ。

 元の世界に帰って、このゲームも、会社で作っていたゲームも完成させたい。


「これは、この世界に来た時に俺が唯一持っていたものだ」


 カイルはそう言って、予言書を差し出してきた。

 私は恐る恐る、それを受け取った。


 ゆっくりと、予言書のページをめくった。

 一ページ目に、見たくなかった言葉が書かれていた。


『ネタ帳』


 冷や汗が噴き出すのを感じた。


 クリエイターのネタ帳。

 それは門外不出の、自分だけの領域だ。

 人に見せることを想定せず書く、何にも縛られない自由の世界だ。


「それには奇病のことや、予言めいたこと、そして懐かしさを感じることも書いてあった。たまに気が狂ったような意味不明なことも書いてあったが、俺はそれに――」

「あぁああやめてぇええ! こんなもの灰にしなさい! 今すぐ!」

「やめろバカ! 何すんだ!」


 本を真っ二つに割ろうとしたが、その前にカイルに奪い返された。


「お願いぃいい……忘レテ……オネガイ……」

「大事なものなんだ。何度も何度も、繰り返し読んだ」

「ワズレデ……ウゥ……オネ……ガィ……」


 地面を這いながら、カイルの脚に縋りつく。


「忘れない。俺の宝物だ」

「ウゥッ……モウ……コロジデ……」


 その言葉を最期に、私は息絶えた。


*    *    *


 うるさく響く12時のチャイムで、私は意識を取り戻した。

 身体がベンチに横たえられていた。

 起き上がると、額に乗っていた冷えたタオルが落ちた。


「カイル?」

「ああ……起きたか」


 カイルが向かいのベンチに座っていた。

 手で額を押さえて、眉間にしわを寄せている。


「どうしたの? 具合悪い?」

「大丈夫だ、ちょっとした頭痛だ」


 カイルは言いながら、膝の上に置かれたネタ帳を手に取った。


 一周回って、諦めの感情がわいてきた。

 もう全部読まれたのだから、怖いものなどない。


「これがそんなに嫌なのか?」

「まあ……嫌というか、なんというか」

「この場所を生きるためのヒントがたくさんあった。俺は、これに救われたんだ」


 思った以上に大事にしている。

 サインとか入れてあげた方がいいだろうか。


「それで、その予言書に光の裂け目のことは書いてあるの?」

「いや。ただ、あれが故郷とつながっていると確証が持てた」

「どういうこと?」

「おそらくスキャナーは俺と同郷だ。裂け目が故郷に繋がっているなら、スキャナーがあそこにいたことにも説明がつく」

「なるほどね」


 カイルの言う故郷。

 ずっと目を逸らし続けてきたが、もう逃げられない。

 あの裂け目は、カイルの故郷――私が没ネタを投げ込みまくったテストマップと繋がっている。


 おそらくネタ帳も、テストマップに放り込んだ開発初期のメモ書きだろう。


 どうして繋がったのかはわからないが、どう考えてもこいつが最後の大型バグだ。


「俺は、あの先に行きたい。故郷に帰りたい」


 カイルは、真っすぐに私を見て言った。


「力を貸してくれ、エルザ。本当はもっとこの世界のことを知ってるんだろう」


 私はゆっくりと息をついた。


「そうね。私にも、帰りたい場所があるの。そのために、私もあの先に行かなきゃいけない」


 このバグを直した先で、きっと何かが起こる。


「私の身の上話もしたいところだけど、まずは行動よ。二人とも帰れるよう、準備をしましょ」


 カイルは、いつになく真剣な面持ちでうなずいた。


「それで、具体的に何を準備するんだ?」

「できれば、何か武器になるようなものを調達したいわ。あなたの故郷と言えど、何が出るかわからないし」

「それは俺も賛成だ。予言書には凶暴な魔物のことも書かれてた」


 カイルが、ネタ帳をパラパラとめくりながら言った。


「これはどうだ」


 カイルがあるページを開いて、こちらに見せた。


『学園、地下、伝説の武器』


 絶対、何も考えずに殴り書いたやつだ。

 とは言え、他に手がかりもないので、ひとまず伝説の武器とやらを拝みにいく。


「よし、これを取りに行きましょう」


 私は袖をまくり上げながら言った。


*    *    *


 私とカイルは、南階段から続く地下室にやってきた。

 地下室の鍵は、職員室から勝手に拝借した。


「そのリュックは何が入ってるんだ」

「色々と使えそうなものを詰めてきたの」


 カイルは私の背中の巨大なリュックを見て言った。


 地下室は、初めて学園マップを組んだ時に作ったものだ。

 その後使い道もなく放置されていたので、レベルデザインがめちゃくちゃである。


「分かれ道が多すぎる」

「それな」


 十秒に一回ぐらい分かれ道が出てくる。

 しかも、ほとんど行き止まりだ。

 どうせなら宝箱とか置いて欲しい。


 文句を垂れながら、湿っぽい道を進む。


 すると私の想いが通じたのか、次の行き止まりに金色に輝く宝箱があった。


「これに伝説の武器が入っているのか?」

「多分違うわ。伝説の武器なら、祭壇とか、なんか仰々しい感じのデザインにしてるはずよ」

「じゃあこれは?」

「わからないわ。まあとにかく、開けてみましょう」

「あ、待て!」


 カイルが言うと同時に、私は宝箱を開けた。


 そして――。


「グギァアアアア!」


 たからばこはミミックだった!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。