第12話 断罪イベント(中編)
ニーナは長い黒髪をゆったりと巻いて、大きなルビーのネックレスをつけている。
ルビーは、エーデル王族を象徴する宝石だ。
王族関係者以外、まず身に着けない。
「えっ、あれってニーナさん?」
「どうしてニーナさんが? エルザさんは?」
拍手の合間に、そんな戸惑いの声が聞こえた。
ハンスは拍手をしながらも、複雑そうな顔で二人を見ていた。
その後、何事もなかったようにレオは挨拶を済ませ、パーティーが始まった。
皆、レオの横に立つニーナをチラチラと見ている。
「お父さま、私お手洗いに行ってきますわ」
ハンスに一声かけて、私は廊下に出た。
急いで扉を閉めると、ヒールを脱いで手に抱え、走った。
「やばいやばいやばい、時間がないわ」
懐中時計を確認する。
このイベントの一番難しいところは、時間調整だ。
国王陛下、王族関係者、ハンス、セト、ウルガの賓客。
そういった重要人物を、断罪イベントのタイミングで大ホールに揃えなければならない。
「カイル、どんな状況!?」
廊下の隅で待機していたカイルを見つけた。
耳に鉛筆をひっかけ、会場の地図を手にしている。
裏方が妙に板についている。
「セト皇太子は到着してるが、外で他の貴族に捕まってる」
「セトさまは任せるわ。あとで上手く誘導しておいて。照明は?」
「問題ない。あとはウルガの民だ。受付が混んできて、まだ並んでる。それ以外は全員会場内にいる」
「わかった、行くわよ!」
カイルとともに受付に走ると、長蛇の列ができていた。
ウルガの民も、その列に並んでいる。
そして、大変なことに気付いた。
時折、モブたちのモーションが固まっている。
処理負荷が高くなってきているようだ。
「まずいわ、このままじゃまたTポーズになっちゃう」
「どうする?」
「ウルガの民以外の人は、裏庭の方へ案内してくれない?」
「何する気だ?」
カイルに作戦を伝えて、私は校門まで走り抜けた。
やることは簡単だ。
校門を入ってすぐのところに置かれた「受付→」の矢印を、逆方向にしておく。
これで不要なモブは、全員裏庭送りだ。
「よし、完璧だわ」
ホールから裏庭の方向へ、モブたちが次々と流れていく。
裏庭に第二受付があると、カイルに誘導してもらったのだ。
「みなさーん、第二受付はこの先でーす!」
声色を変えて叫んでおいた。
これで下準備は完了だ。
あとは主要キャラを会場に集結させて、イベントを完遂する。
気合を入れて、私は再び走り出した。
* * *
会場に戻ると、ちょうどダンスが終わりを迎えようとしていた。
この後は、いよいよ断罪イベントだ。
ハンスは、どこかの貴族と話し込んでいる。
私は壁際に下がり、上を見た。
ホールの天井付近には、さまざまな機器が置かれた細い通路がある。
その通路の柵に、黄色いハンカチが結びつけられていた。
関係者が揃ったことを知らせる、カイルからの合図だ。
当のカイルは、照明の準備をしているようだ。
「緊張してきた……」
通りかかった給仕から水をもらって、飲み干す。
踊っているレオとニーナに視線を送り、小さく手で丸を作って見せた。
二人はさりげなく頷いた。
まもなく、曲が終わった。
続く国王陛下の挨拶中に、ハンスが隣にきた。
陛下は短く祝いの言葉を述べて、王座に戻った。
すると明かりが落ち、司会がスポットライトで照らし出された。
「それではここで、レオポルト第一王子への贈り物のお披露目を――」
「お待ちください」
ホールの中央に立つレオが叫んだ。
ついに、断罪イベントが始まる。
「私から皆さまに……そして国王陛下にお伝えしたいことがございます。どうかお時間をいただけないでしょうか」
レオは陛下の前に跪いた。
しかし、陛下は何も答えない。
「陛下……?」
レオが困惑したようにおずおずと顔を上げる。
陛下のお言葉待ちをしている今、誰も声を発せられずにいた。
「あ」
嫌な予感がして陛下を観察していると、異変に気付いた。
不自然に口をパクパクとさせている。
おそらくモーションがループしている。
何もこんな時にバグらなくていいだろう。
普段なら身体をつついて直しているが、こんな衆人環視の中、陛下に触れることなどできない。
「まずいわ……」
すがるような気持ちでカイルを見上げると、突然辺りが暗くなった。
周囲がざわつく中、カイルは鉛筆をダーツのように構え、闇に紛れてそれを放った。
鉛筆は陛下の王冠の頂点に飾られたルビーに命中し、コロコロと床に転がっていった。
「陛下、どうかお時間をいただけないでしょうか」
しびれを切らしたレオが、再度問いかけた。
「許す」
直後、陛下の低い声が響いた。
同時に明かりも戻る。
上を見ると、カイルは何事もなかったように仕事に戻っていた。
静かに手を合わせて感謝の念を送る。
「恐れ入ります、陛下」
レオは陛下に一礼すると、ニーナの手を取ってホールの前方へ進んだ。
スポットライトがその後を追う。
「エルザ・フォン・モントシュタイン!」
レオはビシッと私を指さして、声高に告げた。
「私はあなたとの婚約を解消し、このニーナ・ファルケと婚約することをここに宣言する!」




