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デバッグ・アウト! 〜自作乙女ゲーの悪役令嬢に転生したけど、クソバグだらけでセルフ尻ぬぐいしてる件〜  作者: 上園 千紗


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第10話 ニーナとレオ(後編)

「ぎゃああああ!」

「生きてるか!?」

「生きてるけど気持ち悪いぃいい!」


 わずかに動く腕で、葉を力いっぱい押してみるが、ビクともしない。


「王子とニーナを呼んでくるから、ちょっと待ってろ!」


 カイルの声が遠ざかっていく。

 結局デートを邪魔することになってしまった。


 ほどなくして、走ってくる三人の足音が聞こえた。


「エルザさん、大丈夫ですか!」

「一体どうなってるんだ、これは」


 外から、ニーナとレオの声が聞こえた。


「ニーナ! あなた、ハチトリソウに詳しくない!? どうやったら開くの!?」

「獲物が死んだら開きます!」

「いやぁああ!」


 このまま死んだら、怨念が転じて来世は土管住みの人食い植物になってしまう。

 せめて人間がいい。


 内側からボカボカと葉を殴る。

 すると、かすかに葉が動いたような気がした。


「ん……?」


 もう一度殴っても、何も起きなかった。


 何度か試して、法則に気付いた。

 この葉、一定のリズムでわずかに発光している。

 その発光に合わせて叩けば葉が開く。


 つまりは、音ゲーと同じ要領だ。


「マイバチ持ちの達人技見せてやるわよ!」


 脳内で十八番を流しながら、リズムに合わせて、とにかく叩く。

「Perfect!」の幻覚が見え始めたころ、外の光が差し込んできた。


「カイル! 私は何とかなりそう! そっちはどう!?」

「全然だめだ!」


 カイルはNPCの足を引っ張って、助け出そうとしている。

 かなり厳しそうだ。


「レオさま、その筋肉の出番です! あなたの国民が、その葉に捕らわれているのです! どうかお助けください!」


 レオに向かって叫んだ。

 レオはハッとしたように頷くと、カイルを下がらせた。


「うおおおおおお!」


 力強い雄叫びと共に、レオは見事に葉をこじ開けた。

 その隙に、カイルがNPCを引きずり出した。


「生きてる、大丈夫だ!」


 カイルの言葉に安堵する。


 こちらも出られそうな隙間ができた。


 フルコンボの達成感を噛みしめながら、身体を起こそうと右手をついた。

 そして体重をかけた瞬間、ズルリと手が滑った。


「あっ」


 そのままバランスを崩して、葉から滑り落ちた。

 衝撃を覚悟して目を閉じたが、誰かに抱きとめられた。


「大丈夫か?」


 レオだった。


 その背後から光がさす。

 最高の胸キュンシーンだ。

 しかし――。


「私じゃなぁああい!」


 無邪気な笑顔で拍手するニーナを見て、脱力した。


*    *    *


 その後、四人で小さな休憩スペースに移動した。

 ハチトリソウの周辺は、障害物で道を塞いでおいた。

 ついでに倉庫にあった除草剤を拝借して、根元に撒いた。


「あーもう帰りたいな」


 ベタベタの身体をハンカチで拭きながらぼやく。


「あの二人をくっ付けるんじゃなかったのか」


 カイルが、レオとニーナを見ながら言った。

 二人は、少し離れた場所で鳥にエサをやっている。


「あれ、話したっけ?」

「聞いてないが、お前を見てればわかる」

「そう。二人、いい雰囲気になってるわ」


 レオが鳥に指を突かれたらしい。

 ニーナが心配そうにレオの手を握っている。

 ナイスアシスト、鳥。


「あいつ、お前の婚約者じゃなかったのか」

「一応ね。お互い、気持ちはないけど」

「ふーん。貴族ってのはよくわからんな」

「あなただって……」


 言いかけて、口をつぐんだ。

 カイルは貴族ではない。

 少なくとも、私はそんな設定を書いていない。


 カイルは、一体誰なんだろう。


「カイル、前に言ってた探し物のことだけど――」

「ひどいです!」


 私の言葉を遮るように、突如ニーナの叫び声が聞こえた。

 そして、遠くで鳴る15時の鐘をかき消すように、バチンと大きな音が響いた。


 レオがニーナにビンタされていた。

 頬に手形がくっきりついている。


「レオ王子なんて大嫌い!」

「ニーナ!」


 ニーナが走り去る。

 追いかけようとするレオを、私は急いで止めた。


「待て待て待て」

「どけ!」

「何をやらかしたんですか」

「フラゾス人との言語交流会を開く約束を、忘れていたんだ!」

「あー、そりゃ怒るわ」

「クソ! 俺としたことが、なぜこんな大切なことを忘れていたんだ!」


 レオは私を押しのけて、ニーナを追いかけていった。

 レオの言葉から察するに、記憶が戻ったのだろう。


 それにしても、叩かれて思い出すとは。


「あいつファミコンなのか?」


 げんなりしながら、私は二人の後を追った。


*    *    *


 二人が向かった先は、色とりどりの花が咲き乱れる美しい場所だった。

 屋外エリアになっていて、小さな丘もある。

 カイルと一緒に柱の陰に隠れて、奥にいる二人を見守る。


「待ってくれ、ニーナ。本当にすまなかった。この通りだ」


 レオが深々と頭を下げた。


「君にとって言語は何よりも大切だとわかっていたはずなのに、軽んじるようなことをしてしまった」

「……私の方こそ、叩いてごめんなさい。どうか、しかるべき罰をお与えください」

「なぜだ? あれはただ、頬にとまった有害な虫を潰してくれただけなのだろう?」

「レオ王子……」


 レオがニーナの手を握る。


「私、文化祭の時にレオ王子に褒めてもらえて嬉しかったんです。今まで、女のくせにとか、言語なんて何の役にも立たないとか、散々に言われてきて」

「そんなことない、誇るべき能力だ。こちらへおいで、ニーナ。この美しい景色を見てごらん」


 レオはニーナの手を引いて、丘に上る。


 一番高い場所まで歩くと、レオはニーナに微笑みかけて、ゆっくり口を開いた。

 どこからともなく、音楽が流れ始めた。


「♪出会いはあの曲がり角~吹き飛んだ食パンと~驚いた君の顔~覚えてる~」


「おい、急に歌い出したぞ」


 カイルが困惑している。


 ついにきた。

 楽しみにしていた、作詞・作曲:私の渾身のミュージカルパートだ。

 未発表なのに、まさか実写で観れるとは。


 二人は歌いながら、ゆっくりと丘を歩く。


「♪美しいあの庭で~見つめ合い、誓ったわ~二人だけの言葉(フラゾス語)を~教えてと~」


 レオが立ち止まる。

 足元の花を摘んで、ニーナの髪に飾った。


「Daril o(ダリル語と) Alpa ma(アルパ語、) ratheb(上達しただろ?).Nikal(まだ)utsal(君ほど)|ikawatsumib《じゃないけど》.」

「Ila tsa...(すばらしいです……)」


「なんて言ってるんだ?」

「めっちゃ言語勉強した、みたいな話よ」


『とりあえず、ダリル語とアルパ語とフラゾス語を話せるようになってください!』


 いつしかニーナが言った言葉だ。


 レオは元々フラゾス語が堪能だったが、ダリル語もアルパ語も相当がんばったようだ。


 国にも人にも、愛した物にはとことん情熱をかけて向き合う。

 こういうところは、素直に尊敬できる。


「♪がんばるあなたを~本当はいつも~見てた~とても素敵な方~だけど~」


 曲が転調して、暗く静かなフェーズに入った。

 心なしか太陽も曇った。

 ニーナはレオの手を放し、悲痛な表情を浮かべた。


「だけど、ダメなんです。だってあなたは、親友の婚約者ですもの」


「親友になってるんだけど」

「よかったじゃねえか」


 カイルは興味なさそうに答えた。


「いや、エルザは協力者だ。彼女も婚約破棄を望んでいる。本当はイケオジという男のことが好きらしい」

「まあ! そうだったのですか……!?」


 何か色々勘違いされている気がするが、都合がいい。

 カイルは横で眠そうにあくびし始めた。


「だから、心配することはない。ニーナ、俺と――」

「いいえ、それでも……私なんて、ちょっと言語に詳しいだけの平民です。王族のあなたに、ふさわしくない」


 十五言語喋る女が、ちょっととか言わないで欲しい。


「そんなことない! 君のその言語力、周辺地域の地理、歴史、政治の深い知識、貴族をも惹きつける人望! どれも王族として申し分ない資質だ!」


「それな」


 つい大きな声が出てしまい、口元を抑えた。

 ニーナは、金と食にしか興味がない私より、よっぽど妃に向いてる。


「♪きっと時間はかかる〜でも俺は信じる〜誰もが君を認めると〜」


「レオ王子……」

「ニーナ……」


 二人は見つめ合い、微笑み合った。

 音楽が、フィナーレに向けて盛り上がっていく。

 寝落ちたカイルを肘で突いて起こした。


「「♪さあ、歌おう〜私たちの愛を〜三つの言葉で永遠を誓おう〜Tesood marad(愛してる)~Ikubbihu(愛してる)~Ej emiat(愛してる)~」」


 レオは、ニーナを抱き寄せた。

 ニーナも、身体をレオに預ける。


「「♪愛してる~」」


 最後は美しいハモリで締めくくられた。

 ニーナの瞳から一筋の涙が零れ落ちた。


 私の視界もにじんできた。

 ハンカチで目元をぬぐうと、粘液でベタベタになった。


*    *    *


 その夜、私はベッドでノートとにらめっこしていた。


 ニーナとレオが両思いになって、婚約破棄への道のりは順調だ。

 しかし、目下大きな問題に気が付いてしまった。


「出席日数がやばいわ」


 サボりすぎた。

 このままでは、婚約破棄の前にハンスに島流しの刑に処される。


「合宿、行くしかないか……」


 来月行われる、山での一泊二日の合宿だ。

 寒いのでサボるつもりだったが、これ以上休めない。


 それに、もう一つやるべきことがある。


 ニーナの実績作りだ。

 平民のニーナをレオの婚約者に押し上げるには、ニーナの妃としての器を公に証明しなければならない。


 具体的な案はないが、待っているだけではダメだ。

 文化祭がそうだったように、日常生活よりイベントの方がチャンスが多いはずだ。


「行こう、山……」


 退学デッドラインまで残り七日だ。

 インフルエンザにならないことを祈りながら、私は布団にもぐった。

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