↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デバッグ・アウト! 〜自作乙女ゲーの悪役令嬢に転生したけど、クソバグだらけでセルフ尻ぬぐいしてる件〜  作者: 上園 千紗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/36

第10話 ニーナとレオ(前編)

 文化祭が終わると紅葉が散り始め、学園には静かな日常が戻りつつあった。


 フッキーン・プルリーンの売れ行きは好調で、ダリルでの販売も交渉が進んでいる。


 しかし、婚約破棄に向けてもう一つ、大事なピースがある。


 次なる進展のため、私は昼休みに特別室を訪れていた。

 机で仕事をしているレオは、一段と身体がごつくなっている。


「何しにきた」


 レオは書類にサインしながら、疲れた顔で言った。

 ここ最近、山脈付近の国境に山賊が出るらしく、レオは対応に追われていた。


「レオさま、ニーナとは順調ですか」


 レオはピクリと肩を揺らした。


「何度も一緒に言語学習会をしている」

「それで?」

「俺もダリル語とアルパ語がかなり話せるようになった」

「で?」

「……以上だ」


 つまるところ、全く進展していないらしい。

 とは言え、ニーナからの好感度はここのところうなぎ登りだ。

 王家の書庫狙いの状態からは、一歩前進している。


 仕方がないので、背中を押してやろうと思う。


「今度、私とカイル、ニーナとレオさまの四人で植物園に行きましょう。私とカイルは折を見てはぐれますので、あとは上手くやってください」

「上手くと言っても……どうすればいいんだ」

「自分で考えてください。好きなんでしょ」


 レオは言葉に詰まった。

 恋愛脳のくせに、奥手すぎる。


「日時はまた連絡するので、ちゃんと考えておいてくださいね」


 そう念押しして、特別室を後にした。


*    *    *


 週末、予定通り植物園デートにこぎつけた。


 ちなみに植物園は、お気に入りのシーンがあるので入念にデバッグしている。

 バグの心配は少ないだろう。


 入場ゲートまで歩くと、既に三人が集まっていた。

 ニーナは私に気づくと、慌てた様子で駆け寄ってきた。


「エルザさん! レオ王子が、なんだかおかしくて……」

「いつものことじゃない?」


 ニーナに腕を引かれて、レオのそばに行く。

 レオはベンチに腰掛けて、何やら困惑した顔をしていた。


「なぜ、私はこんなにムキムキなんだ……?」


 自分の腕を見ながら、レオは呟いた。 


「わからない……思い出せない……」


 カイルが近寄ってきて、小声で言った。


「最近の記憶が飛んでるようだ。特にニーナに関することだ」

「一番大事なこと忘れてんじゃん。こいつ本当に存在がバグだな」


 疲労で記憶が飛んだのだろうか。

 ひとまず、診察が必要だ。


「ニーナ、レオさまには少し休んでもらいましょう。飲み物を買ってきてくれない?」

「わかりました。レオ王子、無理なさらないでくださいね」


 ニーナは心配そうにしながら、ゲート脇のカフェへ小走りで向かった。

 レオは、頬を赤らめてその背中をボーっと見つめていた。


「天使だ……」

「こいつほんとちょろいな」


*    *    *


 ニーナがいない間に、レオの症状を聞き取り調査をした。

 カイルの言う通り、主にニーナ関連の記憶が抜け落ちている。


「これも奇病か?」

「おそらく。でも、セーブデータの損傷や消失なら、正直お手上げね」


 このゲームは、18時の帰宅と同時にセーブとアンロード処理が走る。

 簡単に言うと、使われていないデータやマップが整理されるのだ。 

 その時に、レオのデータに問題が起きたのかもしれない。


 しかし、ゲーム内からはデータを直す術がない。

 となると、やることは一つだ。


「予定通りデートしましょう。記憶が戻ればラッキーってことで」

「お前軽いな……」

「諦めも肝心よ。レオさま、あなたさっきの女の子が好きなのよね?」

「はっ!? 何を言う、俺はお前と婚約を……いや、婚約は破棄するんだったか……?」

「その辺はいいので、好きならしっかりアタックしてください」


 ポケットからメモを取り出して、レオに渡した。


「彼女はニーナ。好きなことは言語と本とマッチョです。ここに詳細をまとめてあるので、しっかり目を通しておいてください」


 婚約破棄に向けた最後のピースは、ニーナの気持ちだ。

 ニーナがレオに対して恋愛感情を抱かないと、話が進まない。


 今日のデートでフォーリンラブを狙っていたが、はたして上手くいくだろうか。


 考えていると、ニーナが帰ってきた。


「お待たせしました! レオ王子、あったかいココアです!」

「あ、ありがとう……」

「レオさまの体調は、もう大丈夫みたい。中に入りましょう」


 余計な心配をかけないよう、ニーナには記憶喪失のことは黙っておいた。


*    *    *


 園内は広く、木と花の香りがして心地が良かった。

 ここは、オーストラリアの植物アセットを使って作った。

 日本では見慣れない形の草花が多く、異国感が強い。


「わあ、素敵ですね」


 ニーナは目をキラキラさせながら、あちこち見ている。

 レオは、ニーナばかり見つめている。


「ニーナ、鳥もたくさんいるわよ。あの鳥はおしゃべりが上手くて、挨拶とか人間の言葉を覚えて――」

『異議あり!』

「誰だここで裁判したの」


 オウムのような大きな鳥が、大声で異議を唱え続けている。

 ニーナが走り寄ってきて、鳥をまじまじと観察する。


「すごい、他の言語も覚えるのかしら。Ruojnob, ej elleppa'm Nina」


 ニーナが、フラゾス語でオウムに話しかけ始めた。

 放っていたら、いつまでもここに居座りそうだ。


「ニーナ、そろそろ次の……」


 言いかけたとき、池の反対岸の方で何かが動いた。


「カイル、今あっちに何かいなかった?」

「いや、見てない」


 指に小鳥を乗せたカイルが答えた。


 二人で池の向こうをじっと見つめる。

 NPCが一人歩いているだけで、他には何もいない。

 すると突然、NPCの背後の植物が揺れた。


「ねえ、動いてない?」

「ああ……」


 よく見ると、巨大なハチトリソウだった。

 二枚の葉でハチを捕えて食べる、食虫植物だ。


 ハチトリソウはNPCの背後で、静かに葉を広げた。

 内側は鮮やかなピンク色で、巨大な口のようだ。


「ひっ……」


 思わず声を漏らした直後、NPCがその口にパクリと食われた。


「カイル、見た!? 食ったわ、あいつ!」


 カイルの肩を掴んで揺らした。

 指に乗っていた小鳥が勢いよく飛び去って行く。


 なぜ、ハチトリソウが人間を食っているのだ。


「どうしたんですか、エルザさん」


 オウムに夢中だったニーナが、不思議そうにこちらを見た。


「な、なななんでもないわ! カイルがお腹が痛いって! ね!?」

「あー痛いなーとんでもなく腹が痛いなー」


 カイルが大根なのを忘れていた。


「ちょっと休んでくるから、二人はゆっくり見てて!」


 ニーナが何か言う前に、カイルを連れて全速力で池の方へ走った。


「草ごときにデートの邪魔させないわ! まずは偵察よ!」


 先ほどNPCが食われた地点から、少し離れた場所で止まった。

 小さな備品倉庫の陰に身を隠して、ハチトリソウの様子を窺う。


 石を投げて捕食判定を確認しながら、徐々に距離を縮めていく。

 しかし結局、ハチトリソウの前にきても何も起こらなかった。


 閉じた葉の脇から、NPCの足が見える。

 乙女ゲームとは思えない絵面だ。


「口をこじ開けるか?」

「あんまりやりたくないわね……」


 口に手を突っ込んで、バグったら怖い。


 何か他に策がないかと、ウロウロしながら考えていると、背後で葉が擦れる音がした。

 そして、唐突に視界がピンク色に染まった。


「エルザ!」


 カイルの叫び声と同時に、何かに身体を挟まれた。

 べたべたとした粘着質なものが全身に絡みつく。


 ――食われた。

 身体が浮き上がる感覚で、ようやくその事実に気づいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。