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デバッグ・アウト! 〜自作乙女ゲーの悪役令嬢に転生したけど、クソバグだらけでセルフ尻ぬぐいしてる件〜  作者: 上園 千紗


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第9話 フッキーン・プルリーン(後編)

「なるほど、さすがレオ王子。お目が高い。しかし、決めるのは彼女自身だ」


 セトは余裕のある笑みを浮かべている。

 対するレオの方は、わずかに眉間にシワが寄っている。


 セトは若く見えるが、私たちより少し年上で成人だ。

 からかって遊んでいるのだろう。

 そういうキャラだ。


「ニーナさん、ぜひ考えておいてくださいね」

「は、はい」


 セトはそう言って、ニーナの手の甲に口づけた。

 レオが目を見開いて固まっている。


「エルザさん、そろそろ時間では?」

「あっ! そうですね。こちらへお願いします」


 セトを、ステージの方に案内しようとすると、レオがズンズンと歩み寄ってきた。


「待て。私も一緒にやろう」

「え?」

「いい宣伝になるだろう?」


 確かに宣伝効果はあるが、こいつの意地っ張りのために使われるのは少々癪だ。

 隣のセトはニコニコとレオを見ている。

 どこか茶目っ気を感じる。


「いいじゃないですか、一緒にやりましょう」

「セトさまがそうおっしゃるなら……」


 二人を連れて、ステージに上がる。

 ニーナもその後ろをついてくる。


 思ったより人が多い。

 ちょっと緊張してきた。


「皆さま、これよりダリル帝国のセト皇太子によるフッキーン・プルリーンの実演を行います! なんとエーデル王国第一王子、レオさまにも飛び入り参加いただきました!」


 続けて、ニーナが通訳する。

 観衆から拍手が湧き起こった。


 早速、レオとセトにマシンへ乗ってもらった。


「セト皇太子、いかがでしょうか?」

「ああ、これはいいねえ。心地いい振動だ」


 王子と皇太子が、二人並んでプルプルされている。

 珍妙すぎる光景だ。


「レオ王子はいかがですか?」

「ふん、俺の腹筋にはこんな振動では足りん。もっと強くしろ!」


 レオがシャツをめくりあげた。

 美しく引き締まった腹筋に、ご婦人方が黄色い悲鳴を上げた。


「では、振動アップでございます!」


 マシンを叩いて、振動を強めた。

 ちなみに、背面を三回叩くと振動が弱まって、五回叩くと止まる。


 あらゆるコマンドを試して、カイルとニーナと一緒に編み出した技だ。


「私も、もっと強くしてください!」


 セトが言った。

 観衆がワッと歓声を上げた。


「では、こちらも振動アップでございます!」

「じゃあ俺ももっとだ!」

「はい!」

「私もまだまだいけます!」


 振動が強まるたび、観衆のボルテージが上がっていく。

 だんだん何をしているのかわからなくなってきた。


「うおおおお! もっとだぁあ!」

「負けませぇええん!」


 気がつけば、レオとセトは最高パワーでブルブルされていた。

 二人とも小刻みに揺れながら、睨み合っている。

 カオスな状況だが、観客は大興奮だ。


 ふと、店先に立ってこちらを見ていたカイルと目が合った。


『なんだこれ』


 そう言ったのが聞こえた気がした。


*    *    *


 実演会は、大盛況のうちに終わった。

 その後は受注が殺到し、ニーナとカイルと三人がかりで注文を捌いた。


 最終的な受注数は、約三百。

 一介の学生の成果にしては、かなり上出来ではないだろうか。


 文化祭の終わりを告げる花火を聞きながら、積み上がった受注書を眺める。


 たまらなくビールが飲みたい。


「エルザさん、今日はありがとうございました」


 ほろ苦い味に思いを馳せていると、不意に声がかかった。


 セトだった。

 帰り際なのだろう、帽子をかぶって従者を連れている。


「こちらこそ、ありがとうございました」

「素晴らしい商品でした。ぜひ、我が国でも取り扱わせていただきたい。今度、ダリルの商人をご紹介しましょう」

「まあ、ぜひ!」

「では、またご連絡します。失礼します」


 お辞儀して、セトが見えなくなるまで見送った。

 小躍りしながら、片づけ中のカイルとニーナに駆け寄る。


「やったわ、カイル、ニーナ! 今後もダリルで販売できそうよ」

「わあ! すごいです、エルザさん!」

「よかったな」

「二人のおかげよ! ありがとう!」


 二人の方に向けて、両手をバッと突き出した。


「きゃー! こちらこそありがとうございます!」

「ぐえっ」


 ニーナが勢いよく抱きついてきた。


 カイルが近づいてきて、行き場を失った私の掌をパーンと叩いた。

 思わずニヤリと笑うと、カイルはふんと鼻を鳴らした。


「俺は、裏庭を片づけてくる」

「私も行くわ。ニーナ、ほら、クラスの片づけはいいの?」

「はっ! そうでした!」


 デレデレのニーナを引きはがして、カイルの後を追った。


*    *    *


 裏庭は、ここ一か月の失敗作で溢れかえっていた。

 数匹の猫が、失敗作に乗って気持ちよさそうにプルプルされている。


「長い一日だったわ」


 失敗作をかきわけて、木箱を置いた。

 ゴミ箱代わりだ。


「しばらくは、毎日製造しないと間に合わねえぞ」

「ええ。ここも片付けて、作業できるようにしなきゃ」


 あぐらをかいて、積み重なった失敗作を整理していく。


 プルプルしたまま放置されていたので、まずは振動を止めようとしたが、いくつか既に止まっていた。


「カイル、これ止めてくれたの?」

「いや、何もしてない。昨日はプルプルしてたぞ」


 試しに叩いてみたが、振動しなかった。

 他の失敗作に潰されていたので、壊れたのかもしれない。

 気にせず木箱に放り込んだ。


「それで、目的は達成できたのか?」

「目的?」

「お前のことだ、どうせなんか企んでたんだろう」

「まあ、そうね。達成できたと言えると思うわ」


 今回、商才ルートをつまみ食いしたのは、婚約破棄をスムーズにするための布石だ。


 モントシュタイン家に、王家との婚約以上の利益をもたらせば、ハンスを説得する材料になる。

 まだ安定した利益とまでは言えない状態だが、今回で大きな一歩が踏み出せた。


 決して、金に目がくらんで忘れていたわけではない。


「うまくいってよかったわ」


 そばにあるフッキン・プルリーン職人ことウサギのオブジェクトを見た。


「君のおかげね」


 言いながら、ウサギの頭を撫でた。


「あっ!」

「え?」


 カイルが珍しく大きな声を上げて、目を見開いた。

 そして次の瞬間――。


「あががががが」


 全身がブルブルと震え始めた。


「かぁいいるぅうう! たぁすけてぇええ!」


 振動のせいで上手くしゃべれない。

 ブレブレの視界の中、カイルが呆れ返っていることだけは、なんとなくわかった。


「そのまましばらく震えてろ」

「あぁあそんなぁああああ!」


 背中を叩かないと止められない。

 膝までしか前屈できない女には、自分の背中なんて叩けない。


 震える足で立ち上がって、カイルの後を追いかけた。

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