第9話 フッキーン・プルリーン(前編)
あっという間に三週間が過ぎて、文化祭当日を迎えた。
銀杏の木は黄金色に染まり、学園を美しく彩っていた。
校門から正面玄関までの道筋には、色とりどりの露店が並んでいる。
校舎内には、たくさんのクラス展示も用意されている。
私の店は、校門と正面玄関のちょうど中央辺りを陣取った。
少し開けた場所になっており、店の前には小さなステージもある。
「エルザさん! クラスの手伝いに行ってきます! 終わったらすぐ戻りますね」
店の準備を終えると、ニーナが言った。
クラス展示の方も中心人物として頑張っているのに、こちらのこともよく手伝ってくれた。
「ありがとう。いってらっしゃい」
ニーナを見送って、私は今日の段取り表を取り出した。
メインイベントは、午前・午後にそれぞれ行われるレオとセトの販促だ。
「カイル、受注管理は任せていい? 私は宣伝に注力するわ」
「わかった」
私たちの商品は、受注生産することになった。
三週間では十分に原材料が集められなかったことと、売れ行きが読めないことが大きな理由だ。
「いよいよね、緊張してきたわ」
「準備は万全だ。あとは全力でやり切るだけだ」
「ええ、そうね。がんばりましょう」
まさか自分で作ったゲームより先に、腹筋マシンの発売を見届けることになるとは。
文化祭開始を告げる花火の音とともに、私たちの自信作――『フッキーン・プルリーン』は発売を迎えた。
* * *
店は盛況だった。
狙い通り、保護者受けが抜群だ。
男性だけでなく、女性も興味津々だ。
「本当にこれに乗ってるだけで痩せるのかい!」
「ええ! 三週間で腹囲マイナス五センチですわ!」
現実世界ではなんとか表示法とか、色々違反している気がするが、構わない。
ここでは私がルールだ。唯一神だ。
「エルザ、そろそろ王子がくる時間だ」
「わかったわ」
接客中の私に、カイルが耳打ちした。
ほどなくして、レオが店に現れた。
周りの客は道を開けて、レオに一礼する。
「レオさま、打ち合わせ通りにお願いしますね。ニーナも見にくるそうですよ」
「……わかった」
私はレオを連れて、店の前にある小さなステージに上がった。
「皆さま、ご注目ください! モントシュタイン商会の新商品、フッキーン・プルリーンをご紹介いたします!」
手を大きく振りながら、声を張った。
商品の概要を簡単に説明してから、ステージ裾のレオに目配せした。
「それではここで、フッキーン・プルリーンを三週間使った、レオポルト第一王子のご登場です!」
全力で拍手すると、周囲からも拍手が巻き起こった。
ちょうど、ニーナが戻ってきたのも見えた。
ナイスタイミングだ。
「ではレオ王子に、このマシンの効果をお見せいただきましょう! お願いします!」
レオが一歩前に出る。
そしてバッとシャツを捲り上げると、見事に六つに割れた腹筋が現れた。
女子生徒が、キャッと声を上げて顔を手で覆った。
ニーナも同じような反応をしたが、指の隙間からひっそり見ている。
いいぞ、シックスパックに釘付けだ。
「どうでしょう、この見事な腹筋! 王子のような腹筋を手に入れたい方は、ぜひ後方のモントシュタイン商店でご注文ください! それでは、王子に改めて大きな拍手をお願いします」
盛大な拍手に見送られながら、レオはステージを下りた。
私は知っている。
三週間前、レオが腹筋専門のトレーナーを秘密裏に雇ったことを。
フッキーン・プルリーンも多大な貢献をしただろう。
スキップで階段を下りて、私は店に戻った。
* * *
カイルに店番を任せて、店の隅でニーナと一緒に昼食を取った。
ニーナは巨大な骨付き肉を豪快に食べている。
譲渡会でカイルが食べていたやつだ。
私は棒付ききゅうりを食べながら、午前中の受注表を見る。
コルセットをギチギチに締め上げているので、ろくなものが食べられない。
これも宣伝のためだ。
「すごいわ、もう百を超えてる」
「百!?」
ニーナが手元を覗き込んでくる。
レオの宣伝イベント後から、急速に注文が入っている。
王族の宣伝効果は絶大だ。
午後はダリルからの客が増える。
そこにセト皇太子の実演をぶつければ、ダリル客もしっかり掴める可能性が高い。
「よし、この調子でどんどん売るわよ」
「がんばりまふ!」
口をモゴモゴしながら、ニーナは元気に言った。
* * *
13時を過ぎたころ、セトが店にやってきた。
「エルザさん」
「セト皇太子、ようこそおいでくださいました」
スカートの裾をつまみ、一礼する。
こういった仕草の一つ一つは、エルザの身体に染み付いている。
「事前に手紙で聞いていましたが、何やら面白い商品ですね」
「ええ、自信作ですわ」
「父も興味を持っていましたよ」
「まあ、嬉しいですわ。少しここでお待ちください」
セトを店の奥で待たせ、私はニーナを連れてステージに上がった。
大きく息を吸い込み、声を張り上げる。
「皆さま! まもなくダリル帝国のセト皇太子にフッキーン・プルリーンを実演いただきます! どうぞ前の方へお集まりください!」
続いてニーナが、ダリル語とアルパ語に翻訳して叫んでくれた。
歩いていた人々が足を止めて、ステージ前に集まってくる。
褐色肌の人が多い。ダリル人だろう。
ステージの準備を整えて戻ると、店の前にレオがいた。
その視線の先には、先に戻っていたニーナとセトがいた。
「ニーナ、君は一体いくつの言葉を話せるのだい? ダリル語もアルパ語も、とても美しい発音だ」
「えっ!? そ、そんな、恐れ多いです……」
「我が国では、女性も職を得て働く人が多い。君は、外交の仕事なんかに興味はないかい?」
「が、外交ですか!?」
なんだか、セトとニーナのフラグが立ちそうだ。
そんなフラグ用意していないのだが。
様子を見ていると、レオがわざとらしく咳払いをした。
「ご無沙汰しています、セト皇太子」
「ああ、レオ王子ではないですか。お久しぶりです」
セトが立ち上がって、優雅に挨拶をした。
「そちらのニーナは、我が国にとっても貴重な逸材です。将来は我が国の外交官になる道を薦めようと考えておりました」
「「えっ!?」」
ニーナと声がハモった。
初耳だ。




