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デバッグ・アウト! 〜自作乙女ゲーの悪役令嬢に転生したけど、クソバグだらけでセルフ尻ぬぐいしてる件〜  作者: 上園 千紗


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第8話 汗とバグの商品開発(後編)

 放課後、再び三人で裏庭に集まった。

 実験用に廃材置き場から適当な木材を持ってきた。


「よし、やるわよ」


 腕をまくり、木材をウサギに触れさせた。

 途端に、木材がブルブルと震え始めた。

 二人に見守られる中、木材の上に乗ってみる。


「あがががが」

「エルザさん! 大丈夫ですか!」

「だいじょあがぁっ!」


 思ったより振動が強い。

 舌を噛んだ。


 ずっと乗っていると酔いそうだ。

 カイルに支えてもらい、台を降りた。


「ちょっと振動が強すぎるわ。これじゃダメね」

「下に何か敷いてみるのはどうだ? 革とか、柔らかいもので振動を吸収させるんだ」

「いい案だけど、革はコストがかさむわ」


 ニーナも腕を組んで、うんうんと頭を悩ませている。


「台そのものを、もっと柔らかいものにするのはどうですか?」

「そうね。低コストで人が乗れそうなもの……」


 その日から、放課後になるとすぐに裏庭に集まった。

 毎日毎日、乗れそうなサイズ感のものを片っ端から振動させていく。


 体育用のマット、跳び箱、段ボール、便座。

 廃材置き場にある全てを使った。


 トライ・アンド・エラーを繰り返すこと一週間。

 私たちはついに、究極のプルプルマシンにたどり着いた。

 

「で、できた……」


 プルプルマシン初号機を両手で持って、天に掲げた。

 最終的に、木板に硬めのクッションを乗せて、クッションをプルプルさせる仕様でフィックス(確定)した。


 ニーナは刺繍が得意というので、真ん中にはモントシュタイン家の家紋を入れてもらった。

 コストがかさむので、初号機だけの特別仕様だ。


 金色に輝く家紋を、ほくほく顔で見つめた。


「エルザさん、これ絶対売れますよ!」

「振動は悪くないが、本当に痩せるのか?」


 二人とも、プルプル具合は気に入っているらしい。

 痩せるかは知らないが、気持ちいいなら良しとしよう。

 作り方を除けば、製品のクオリティは上々だ。


 あとはこれを、どう売るかだ。


「細かい調整は二人に任せるわ。私は、ちょっとデバッガーを呼んでくる」


 カイルとニーナにそう伝えて、校舎に入った。

 途中、ドアに挟まっていたモブを助けてから、私はある場所に向かった。


「さて、どうしようかしら」


 特別室の扉の前で、私は呟いた。

 そろそろこいつを巻き込まなければ、婚約破棄が進まない。

 

 大きく息をついて、ドアをノックした。

 中に入ると、レオは机で書類仕事をしていた。


「何の用だ」


 レオは視線だけでこちらを見て、短く言った。


 放課後や昼休みは、いつもこうして仕事をしている。

 恋愛脳なだけで、レオは為政者としては真面目で有能だ。

 特に外交や国外の諸問題に強い。


「少しご相談を」


 入り口近くのソファーに、勝手に座った。

 ソファーの上に、付箋だらけのダリル語とアルパ語のテキストが置いてあった。


「私と、取引しませんか」


 レオはやっと顔を上げた。

 黄金の瞳が、こちらをじっと見た。


「内容は」

「私は王子との婚約を破棄したいと思っています」

「なっ……」


 レオが目を見開く。

 昔からレオ一筋だったエルザが、こんなことを言い出すとは夢にも思わなかっただろう。


「本気か?」

「はい。けれど、知っての通り婚約は家同士の契約です。簡単には破棄できません」

「当然だ。今なら聞かなかったことにしてやる」

「でもニーナが好きなのでしょう?」


 レオは黙ったが、頬が赤くなっている。

 わかりやすいやつだ。

 ちょっとかわいく思えてきた。


「実現性は置いておいて、私もあなたも婚約を破棄したい。その気持ちは同じです」


 立ち上がり、レオの机の前に歩み寄る。

 窓から、夕日が差し込んだ。


「穏当な婚約破棄を目指しませんか?」


 レオは、しばらく何も答えなかった。

 静かにペンを置くと、書類を畳んだ。


「……本当にいいのか、それで」

「妃なんて真っ平ごめんですわ。私は陸軍特殊部隊にいそうな髭面のイケオジがタイプですの」

「誰だ、イケオジとは」


 レオは険しい顔をした。

 余計なことを言ってしまった。

 浮気を疑われたらたまらない。


 私は、ごまかすようにニッコリと笑った。


「早速、婚約破棄に向けて一つ手伝っていただけませんか? ニーナが待ってます」


*    *    *


 レオを連れてベンチに戻ると、ニーナが笑顔で迎えてくれた。


「レオ王子! 私たちの商品を見に来てくださったのですか?」


 レオは耳まで赤くして、ニーナと目を合わせられない様子だ。

 初心すぎる。


「こちらにどうぞ」


 レオを誘導して、プルプルマシンの前に立たせた。


「何だこれは」

「文化祭で売り出す商品です。これに乗ると腹筋が鍛えられます」

「は……?」

「とにかく、乗ってみてください!」


 レオは戸惑いつつも、靴を脱いでマシンに乗った。

 これで王宮御用達を名乗れる。


「レオ王子、いかがでしょうか?」


 ニーナは心配そうにレオの顔を覗き込んだ。


「……悪くない。Na’iyyas asyal……だったか?」

「まあ! アルパ語がわかるのですか!?」

「最近、勉強を始めたんだ」

「すごい……すごいです! 王子はフラゾス語もご堪能でしたよね? アルパ語もきっとすぐマスターできます! 今度ぜひ、フラゾス語を教えてください!」

「あ、ああ……もちろんだ」


 ニーナが早口でまくし立てる。

 いいぞ、その調子だ。


『レオ王子お墨付き』の称号も得られたので、もうこいつに用はない。

 このままニーナと思う存分イチャついてもらおう。


 そう思っていると、奥で作業をしていたカイルが近づいてきた。


「ちょっと改良しておいた」

「改良?」

「叩くと振動の強さが変わる」


 カイルが、レオの乗るマシンの前面をバチンと叩いた。

 その瞬間、振動が激しくなった。


「なんだだだこれれははは」

「頑張ってください、レオ王子! 腹筋にしっかり力を込めるのです!」


 ブルブル震えるレオを、ニーナが懸命に応援している。

 私もマシンを叩いてみた。


「やややめめめろろろ」


 振動がさらに強くなる。

 もう一度叩こうとしたが、レオがすごい顔で睨んでくるのでやめた。


「カイル、これどうやって戻すの?」

「わからん」


*    *    *


 結局、振動の戻し方はわからなかった。

 レオはベンチに座って、疲れた顔をしている。


 振動を止めようと奮闘しているニーナに、声をかける。


「そういえばニーナ、あなたどんな男性がタイプなの?」


 レオに聞こえるよう、大きな声で言った。

 もちろん私は、ニーナのタイプなど知り尽くしている。


「歩く図書館みたいな人が好きです!」

「見た目はどうなの? 濃い顔が好きとか、髭が好きとか」

「えっと……マッチョな人……」


 ニーナは、目を泳がせながら恥ずかしそうに言った。

 その様子を、レオがチラチラと見ている。

 私は、わざとらしく声を張り上げた。


「へえ、ニーナはバキバキに割れた腹筋が好きなのねー! わかるわー!」

「ちょ、エルザさん! 恥ずかしいからやめてください!」


 ぽかぽかと叩いてくるニーナをなだめながら、レオを盗み見た。

 レオは座ったまま、自分の腹を手でさすっていた。


 これでエサ撒きは完璧だ。

 あとは当日まで、製品のブラッシュアップをしながら販売戦略を練る。

 まずはプルプルの制御方法を編み出そう。


 張り切って歩き出し、石ころに躓いて久しぶりに転んだ。


*    *    *


 家に帰って、私は久しぶりに机に向かっていた。

 あらゆる宿題を放棄しているので、考え事をするときぐらいしかこの机を使わない。


 ノートに文字を書きながら、思考を整理する。


『

カイル、ゾンビ=テストマップ出身?

テストマップ=図書室の奥?

』


 そう仮定して、カイルの言う森と湖はなんだろうか?

 テストマップにそんなものを置いただろうか?


 疑問が噴き出してくる。

 あちこちで私のあずかり知らぬことが起きている。


 ここに来て半年以上が過ぎて、段々とそれに慣れてきている自分も怖い。


 しかし腹筋マシンを作って、再び気持ちが突き動かされた。

 帰って、ゲームを作りたいと。


 腹筋マシン開発も楽しいけれど、ほっぽり出してきたゲームを完成させたい。


「帰りたいなあ……」


 背もたれに深く寄りかかって、目を閉じた。


 断罪イベントへの布石は、着実に集まっている。

 カイルやニーナという、心強い味方もいる。

 二人の助けで今までも何とかなってきただろうと、自分に言い聞かせた。


 その時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「はい」

「エルザさま、ご夕食の時間です。今日はご希望のビーフステーキでございます」

「やったぁ! 肉肉にっく~!」


 鼻歌を歌いながら部屋を出る。

 飯を食べねばデバッグできぬと言うやつだ。

 廊下を満たす肉の匂いを吸いながら、小走りでダイニングへ向かった。

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