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デバッグ・アウト! 〜自作乙女ゲーの悪役令嬢に転生したけど、クソバグだらけでセルフ尻ぬぐいしてる件〜  作者: 上園 千紗


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第8話 汗とバグの商品開発(前編)

 暑さが和らぎ、秋の涼しい風が吹き始めた。

 私はいつも通り、お弁当を持って裏庭に来ていた。


「さっそくチャンスが来てしまった……」


 目の前の光景を見ながら呟いた。

 先に来ていたカイルが、ベンチに座ってうたた寝している。


 そしてその横には、例の黒い本が開いた状態で伏せられていた。


 お弁当をテーブルに置いてから、カイルの顔をまじまじと見る。

 起きる気配はない。

 私は静かに本へと手を伸ばした。


「……」


 本に触れる直前に、手を止めた。

 あれだけ嫌がっていたのに、勝手に見ていいのだろうか。

 いや、しかしこれが帰還のヒントになる可能性もある。


 頭の中で悪魔と天使がせめぎ合った結果、まずは横から覗いてみることにした。

 しゃがみ込んで、がんばって下から本を覗く。


 何も見えなかった。


「おい、何してる」


 頭上から冷ややかな声が聞こえた。

 恐る恐る顔を上げると、カイルと視線がかち合った。


「見たのか?」

「見てないわよ! ……まだ」


 カイルはいぶかしげな顔をして、本を閉じた。

 警戒するような視線が痛い。

 私は向かいのベンチに座って、首をすくめた。


「エルザさん、カイルさん、お待たせしました!」


 沈黙を破ったのは、ニーナの声だった。

 私はほっと息をついて、ニーナに手を振った。


「相談って何ですか?」


 お弁当を広げて、ニーナが言った。

 カイルはその横で黙々とリンゴを齧っている。


「そろそろ、文化祭のことを考えようと思って」


 ニーナは手を止めて、私の言葉に目を輝かせた。


「文化祭、ダリル人もいっぱい来るんですよね!?」

「ええ」


 この学園の文化祭は、ダリルにある提携校との文化交流を目的に行われる。

 提携校の生徒や教師、保護者など、たくさんの関係者がやってくる。

 かなり大規模な催しだ。


「エルザさんは、個人出展するんですか?」

「そのつもりよ。セト皇太子も宣伝してくれるし」


 文化祭では、個人かクラスで出し物ができる。

 何かを作って展示するもよし、露店をやるもよし。

 比較的自由度が高い。


「ニーナは?」

「私はクラス出展をお手伝いします! お化け屋敷をやるんです!」

「お化け屋敷……?」


 不意に、開発初期の記憶が蘇った。

 文化祭のお化け屋敷用に、ゾンビを量産した。

 あまりに怖かったので、没にしてテストマップに放り込んだ。


「あいつかぁああああ!」


 図書館にいたバーコードハゲのゾンビ。

 間違いなくあいつだ。

 あの特徴的な頭を、今の今まで忘れていたとは。


 私は、芝生に座るカイルをチラリと見た。


「なんだ?」


 カイルは、リンゴを齧りながら言った。


 やはり、テストマップとこの学園がどこかで繋がっている。

 おそらくカイルも、テストマップから漏れ出した異物の一つだ。


 そしてテストマップには、失敗作がたんまりと詰め込まれている。


 恐ろしいので、今は考えないでおこう。

 まずは文化祭だ。


 ゾンビの住処から取ってきた、ダリルの本を鞄から取り出す。

 ニーナがすごい勢いで迫ってきた。


「な、ななななんですかそれは!」


 鼻息がすごい。


「ダリルの情報誌よ。文化祭のヒントがないかと思って」

「見たことない本です!」

「あ、ちょっとニーナ」


 ニーナが、無遠慮に本をひったくった。

 これでもかと顔を本に近づけて読み始めた。

 その近さで読めているのだろうか。


「ダリルでは貴族の肥満が問題になってきてるそうですよ! 原因はファストフードの流行……ファストフードってなんですかね?」

「さあ」


 テストマップに投げ込んだ、赤と黄色のお店がダリルに流出していないことを願う。


「私の商品のターゲットは、保護者たち……つまり中年貴族よ。肥満問題は、ヒントになりそうね」


 ノートを広げて、ペンを握った。


 文化祭まで、ちょうど一か月だ。

 残り時間も考慮して、アイデアをまとめなければいけない。


「ダイエット用品とか売れるんじゃねえか?」

「私も欲しいです!」

「良い案ね」


 ダンベル、トランポリン、バランスボール。

 思い浮かぶものを書いてみたが、どれもピンとこない。


 ターゲットに訴求しなさそう、というのもあるが、単純に作るのが厳しい。


 この世界に便利な魔法はない。

 おまけに私は化学も物理もサッパリだ。


 もっと簡単に量産できて、中年貴族が食いつきそうなものはないだろうか。


「楽して簡単に痩せられる何か……」

「無理だろ」

「そんな商品あったら、私も欲しいです……」


 カイルとニーナが口々に言った。


「そうよねえ……」


 ベンチにもたれかかって、天を仰いだ。

 ペンを回しながら考えていると、手が滑って飛んでいった。


 ペンは地面を転がり、ベンチ脇のウサギのオブジェにぶつかった。


 その瞬間、ペンが小刻みに震え始めた。


「バグった……」

「また奇病か? ペンって病気になるのか?」


 そろそろ奇病と言い張るのも限界がきている気がする。


 立ち上がって、ウサギに近づく。

 距離を取りつつ、じっと観察した。


「触るとダメなのかしら」


 試しに石ころを投げてみた。

 すると、ウサギに触れた瞬間、ペンと同じように震え始めた。


 カイルが横にしゃがんで、ペンに向かって別の小石を投げた。

 石はペンにぶつかって、そのまま静止した。


「伝染はしないみたいだ」


 カイルはそう言って、ペンを手に取った。

 勇気あるやつだ。


 ペンはカイルの手の中で、ブルブルと震えている。

 その動きを見ていて、ふと脳裏にある案が浮かんだ。


「閃いてしまった」

「嫌な予感がする」

「何ですか!?」


 眉間にシワを寄せるカイルと、ワクワクした顔のニーナ。

 私は腕を組んでふんぞり返り、声高に宣言した。


「腹筋プルプルマシンを作るわ!」

「腹筋プルプルマシン?」


 ニーナがキョトンとしている。


「ええ。横長の台を用意して、それを振動させるの。人が乗ると、腹筋がプルプルされて痩せるのよ」

「それだけで!?」

「絶対痩せねえだろ」

「うるさいな、痩せるのよ」


 我ながら天才だ。

 これなら中年貴族にも訴求する。


 私も元の世界で使ったことがある。

 今は部屋の隅で、素敵な置物になっている。


「おい、どうやって作るつもりだ?」

「木の台を作って、このウサギに触れさせるだけよ」

「奇病を治すんじゃなかったのか。増えちまうぞ」


 カイルが険しい顔で言った。

 痛いところを突かれた。


「ぐっ……確かに、バグを使って金儲けしようなんて制作者としてあるまじき――」

「すごいです! 原材料と人件費がほとんどかからないので丸儲けです!」

「よっし、放課後から試作よ!」


 ニーナの言葉に、私は即答した。

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