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デバッグ・アウト! 〜自作乙女ゲーの悪役令嬢に転生したけど、クソバグだらけでセルフ尻ぬぐいしてる件〜  作者: 上園 千紗


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第1話 生きるか、バグるか(後編)

「やっ……たぁあ!」


 次に目に映ったのは、廊下の壁と白い天井だった。

 受け身も取れず倒れたせいで背中と頭が少々痛いが、四股は踏んでいない。


 男に押されて扉に接触し、マップチェンジすることでループから抜け出したのだ。

 こういうバグは、大体マップを出入りすると直る。


 最悪、謎空間に飛ばされるリスクもあったが、四股で死ぬよりはマシだ。


 床に倒れ込んだまま、一時間ぶりの自由を噛み締める。


「大丈夫ですか?」


 扉から、先ほどの男が出てくる。

 男は、私のそばにしゃがみ込んだ。


「助かったわ、本当にありがとう。命の恩人だわ」


 起き上がりたかったが、動けなかった。


「あなた、お名前は?」

「カイルです」

「……アメリカンで素敵なお名前ね」

「あめりかん?」


 やはり、こいつは異質だ。

 自分が仕込んだことは間違いないのだが、思い出せない。

 素材の確認のために、テストマップに放り込んだオブジェクトの一つだろうか。


「起きられますか?」

「無理そうだわ」


 力なく答えたその時、扉の前にぬっとレオとニーナが出現した。

 バグの原因物質である私が取り除かれ、二人も正常な動作に戻ったのだろう。


 レオは大の字で倒れている私を見て、険しい顔をした。


「何をしている、エルザ」

「ご機嫌麗しゅう、レオさま。足をつってしまいまして、親切なお方に助けていただいていたのですわ」


 あながち嘘ではない。

 レオは、鼻を鳴らして冷たい声で言う。


「はしたないぞ、早く起き上がれ。行こう、ニーナ」

「で、ですが……」

「いいから」


 レオは困惑するニーナを連れて、スタスタと立ち去ってしまう。

 さっきまでバグってたくせに、エラそうな態度だ。


「ねえ。今、何時かわかる?」

「17時59分です」

「ああ、じゃあこのままでいいか」


 カイルは首を傾げた。


「何がいいのですか? とりあえず、医務室に行きましょう。失礼します」

「は?」


 カイルの手が肩に触れたと思ったら、身体がふわりと浮き上がった。

 しばらくして、抱きかかえられていると気づいた。


「ちょっと、何してんのよ!」

「ですから、医務室に」

「やめて!!!!!! バグるから!!!!!!」


 必死の叫びもむなしく、カイルはズカズカと歩みを進める。


「お願い、おろして! ほら、私婚約者いるし、こんなところ見られたら困っちゃうわ!」

「その婚約者に見捨てられていたようですが」

「あれはほら、ツンデレよツンデレ! 激しめの愛情表現なの!」


 抵抗むなしく、廊下の先に医務室の看板が見えてくる。

 まずい。

 あまり使わないマップは、デバッグが不十分で十中八九バグる。


「お願い、やめ――」


 言いかけた瞬間、チャイムが鳴った。

 鳴り終わるのと同時に視界が暗転して、廊下に出た時と似た奇妙な浮遊感に襲われた。


 そして再び視界が開けると、目の前には豪奢な天蓋があった。

 身体が、ふわふわしたものに沈み込む。


 私は、ベッドに横たわっていた。

 このアングルから見るのは初めてだが、間違いなくここはエルザの自室だ。


「はぁ……助かった……」


 このゲーム、学園パートは8時から18時までなのだ。

 18時になると、強制的に自室へ戻される。


 起き上がろうとしたが、下半身が小鹿のように震えていた。


「筋肉痛は治らないかあ……」


 3時間おきに大きい不具合をチェックする簡単な処理が入るため、18時の処理で治ることをちょっと期待していた。


 しかし、予想通りではある。

 個人制作のゲームなので、不具合の検知性能がザルなのだ。

 大体のバグはすり抜けるので、今後も期待しないでおく。


「帰りたいなあ」


 枕に顔を埋めて呟いた。

 元の世界の私はどうしているんだろう。


 私はゲーム会社でプランナーとして働いていたが、残業が続いて、睡眠不足でぶっ倒れてしまったのだ。

 最後の記憶はそこで終わっている。


 死んで転生したのか、眠っている間の夢なのか、定かではない。


 ブロンドの髪を指にクルクルと絡めながら、思考を続ける。


「エルザなのか、私……」


 このゲームは、私が趣味で作っていたものだ。


 コンセプトは、悪役令嬢体験。

 つまり主役はエルザで、プレイヤーはエルザを操作して様々な選択ができる。

 ちょっと癖ありだが、自信作だ。


「もっとバグを直しておけばよかった」


 私は全知だが、バグに対しては無能だ。

 ここでは、コードを書き換えられない。


「いや、あの男は謎だな……」


 全知は訂正する。

 拳銃が似合いそうな、見知らぬ男がいた。


 あの男も、バグの一種なのだろうか。


「やっぱり書いて整理したいな」


 メモとペンを求めて、上半身の力だけで身体を起こした。

 いまだに震えている足でベッドから降りて、机に向かおうとした。


 その時だった。


「ぎゃっ」


 何かに右足を取られて、顔から転んだ。

 足元を見ても、ベッドの脚以外には何もなかった。

 身体を起こそうとしたが、なぜか右足が動かない。


「え? なんで?」


 わずかに動かせるが、見えない何かに引っかかっている。

 おそらく、ベッドの当たり判定が雑すぎて足が引っかかって抜けなくなっている。


「クソコリジョン! 誰よ、こんな雑に作ったの!」


 特大ブーメランを放って、床に身体を預けた。

 8時になれば学園へ強制送迎されるので、抜け出せるだろう。

 足も痛むし、今日は休もう。


 全てを諦めてふて寝を決め込んで、私は目を閉じた。

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