第2話:九紋龍の旅立ち
第2話:九紋龍の旅立ち
華州の華陰県に、史家村という豊かな村があった。そこには史太公という名の長者が住んでおり、彼には史進という独り息子がいた。史進は生まれつき武芸を好み、農耕や商いには目もくれない若者であった。彼は背中に九匹の青龍の刺青を彫っていたため、人々から「九紋龍」という二つ名で呼ばれていた。
史進は若さゆえの血気盛んさで、王進という名の高名な師匠から禁軍の武芸を学び、めきめきと腕を上げた。しかし、史進の心には常に、狭い村の枠組みを超えた「何か」を求める渇望があった。それは、強きを挫き弱きを助けるという、直感的な義侠心であった。
ある時、村の近くにある少華山に、朱武、陳達、楊春という三人の頭目率いる山賊の一団が住み着いた。彼らは近隣を荒らして回っていたが、史進は怯えるどころか、むしろ己の腕を試す好機とばかりに彼らと対峙する。しかし、山賊たちの情に厚い態度と、史進自身の率直さが響き合い、あろうことか史進は彼らと義兄弟の契りを結ぶことになる。
しかし、この交流は官憲の知るところとなった。史進の正義感は、村を巻き込む大事件へと発展していく。史進は自身の愛する史家村に火を放ち、守るべき故郷を失うという悲劇的な選択を強いられる。すべてを焼き尽くし、煙に包まれる村を背に、史進はただ一人、あてのない旅へと足を踏み出した。
背中の九匹の龍が、荒ぶる運命を予感させるかのように月明かりに照らされる。彼は己の剣一本を頼りに、より広大な世界へ、そしてやがて百八星たちが集う運命の地へと歩みを進めることになる。彼が目指すのは、名声でも富でもない。己の魂が真に安らぐ場所、すなわち「義」のありかであった。
旅の途上、彼は数多の武芸者と出会い、あるいは衝突するだろう。まだ見ぬ好漢たちとの邂逅を期待しつつ、九紋龍の旅は始まったばかりである。




