3,海と夏祭りと音符たち
この小説は現実の地名が出てきますが、フィクション小説です。
7月下旬頃、しゅさと悠の通う幼稚園は夏休みに入った。
両親が工房職人のモン兄とマミのファミリーや、しゅさの母のピアノ教室に通うミナとイツキのファミリーも誘って、下関の海へ1泊2日の旅行に行くことになった。
天気は快晴。海水浴場の砂浜は老若男女さまざまな人たちが来ており、海水浴シーズン真っ只中といってもいいくらいの賑わいだ。
しゅさと悠は、浮き輪の先についた紐を自分らの母親に引いてもらっている。
そのすぐそばには、大きな白鳥型の乗り物に乗ったマミとモン兄がいて、彼らもまた両親に付き添われながら一緒に海の上を散歩していた。
「おーい、しゅさちゃーん!」
名前を呼ぶ声に振り向くと、小さいイカダ型の浮き輪にそれぞれ乗ったミナとイツキの姿が見えた。
「鬼ごっこしようよ。ぼくが最初に鬼役するから」
イカダ型の浮き輪を手で漕いで、モン兄が追っかけてくるので必死に逃げた。
しゅさを含め全員、まだ上手に泳げないので、それぞれ親たちに手伝ってもらいながら海の上を逃げた。
「ママ、もっと早く引っ張ってつかまっちゃうよぅ!」
「お〜い、みなさ~ん、沖に流されると危ないから、鬼ごっこは砂浜か浅瀬でしましょうよ」
母が砂浜に紐を引っ張って連れて行ってくれたので、しゅさは自分の足で鬼役から逃げる事ができた。
「待てーー……ぇ」
ミナがしゅさにタッチしようと追いかけて来た。
「きゃ~〜」
波で足がもたついて上手に走れずつまずきそうになったところで、ミナに捕まってしまった。
わたしと母が次の鬼役になり、浅瀬でみんなを追っかけていると、ミナとイツキの母親のかなこママがやって来た。
「スイカを持ってきたから、みんなでスイカ割りしましょうよ」
「スイカ割り?」
「おもしろそう」
「やる、やる」
みんなでじゃんけんをし、しゅさはチョキを出したら勝ったので、目隠しをされ、プラスチックの棒を渡された。
「やったことがないから、どうすればいいのかわからない」
と、しゅさが言ったら、みんなの指示どおりに動いて、プラスチックの棒でスイカを軽く叩くようにとやり方を教えてくれた。
スイカは1つだけしかないので、みんながスイカ割りできるように、柔らかいプラスチックの棒で叩くとのことだ。
「大丈夫。みんながしゅさちゃんに指示出すから」
「まず、まっすぐ進んで」
「そう、まっすぐ、まっすぐ」
「進め、進め」
目隠しされたので真っ暗で怖かったけど、砂浜の賑やかな声とみんなの声が聴こえるので怖くなってきた。
歩くたびに砂浜の砂がまとわりついてきて、つまづきそうになる。
姿勢よくバランスとって歩かないと体がふらついて転びそうになるのでゆっくり進もうとした。
「ああ、ちがう、左」
「右に行き過ぎ、戻って」
「右、右だよ」
あれ?まっすぐ進みたいけど、まっすぐってどっちだろう?
右に行き過ぎてるとみんな言ったので、しゅさは左足を前に進ませた。
「そう、そのまま進んで」
「このまま、いけーー」
「今、そう、振り下ろして」
「ああ、向きを変えなくて良かったのに」
プラスチックの棒を振り下ろしたら、ほふっとした砂の優しい感触がした。
この次は2番目に勝ったイツキだ。
スイカ割りに慣れているのか、みんなの指示どおり素早く動き、スイカを叩いた。
3番目はモン兄だが、しゅさの心はスイカ割りから離れていて、周囲をキョロキョロ見回して母親を探していた。
鬼ごっこの時はそばにいたはずなのに、私がスイカ割りしてる時、見てくれていると思っていたのにいない。
「かなこママ、あのう……わたしのママはどこ?」
「しゅさちゃん、ママと交代で休憩することになったから、ママが休憩から帰ってくるまで一緒にスイカ割りしようね」
……みんな、親と一緒にいるのに、何で私だけ?
しゅさは母を探しに行くことにした。(※この小説はフィクションです)
母がどこにいるのかわからないので、人がたくさんいる砂浜の中を歩き回った。
「あ……」
母を探していて、知らない人とぶつかってしまった。
ぶつかった人が私が倒れないようにと体を支えてくれていたので倒れずに済んだ。
「ありがとう」
「いえ、こちらこそ、ごめん……なさいね。私もよそ見していたから」
「あ」
「あら、この間の紙ヒコーキの子。偶然ね、きょうは海水浴なの?」
あの不思議なマフラーのおねえさんだった。
今日は、私にわかる言葉で話しており、豪華な服やアクセサリーも不思議なマフラーも身に着けておらず、エメラルドグリーンのワンピースを着ていた。
「お母さんを探しているの? 一緒に探してあげるわよ」
おねえさんは、たくさん人がいるなか、母を探すのを一緒に手伝ってくれた。
「あ、いた」
「良かった。たくさん人がいて、1人じゃ危ないからお母さんから絶対離れちゃダメよ」
「あ……あ、ありがとう」
しゅさは母から離れたつもりはなかったのにと思ったが、それをお姉さんに言っても仕方がないので、お礼を言って母のところへ行った。
母は、砂浜にある喫茶店のベンチで、かき氷を食べていた。
しゅさが遊んでいる間に、ちゃっかり抜けてかき氷を食べてるなんて、ズルいとしゅさはスネた。
「……ママは……もう……鬼ごっこでヘトヘトで倒れそうになったから、他のママと交代で休憩することにしたの。しゅさのぶんも買ってあげるよ」
「ママ、わたし、トイレに行きたい」
トイレから出て、みんながいる場所に戻ろうとしたら、ホテルの部屋で仕事していたはずの父と会った。
父は水着を着ずに、黒い日傘をさし、サングラスをかけて立っていた。
「こ〜〜んなに長く海にいたら、日焼けで皮がめくれて大変だぞ……。目にもよくないし」
「パパ、ママの日傘さしてる」
「これは紳士用のパパの日傘だよ」
「ええーー」
しゅさの冷たい視線を無視して、父は喋り続けた。
「ああ~〜お腹すいたなぁ。いい眺めのレストランを見つけておいたから、今からみんなで食べに行かないか? 」
砂浜でスイカ割りしているみんなは、砂浜にある喫茶店でランチするとのことで、家族3人だけで父の行きたいレストランに行くことになった。
車で40分もかかったが、海の景色が見渡せ、散歩道のある広い庭のレストランに着いた。
人気のレストランの駐車場は混んでおり、すぐに車を停められないので、母と先にレストランへ歩いて行き、待つことにした。
「予約してても、車を停められないんじゃ……予約時間が来るまでにパパは車を停められるかなぁ……」
「ねえ、ママ。庭で遊んでていい?」
「はじめて来た場所だし、散歩は食事の後にしましょうね」
駐車場に車が停められない限り、父はレストランに来られないからどうしようと母はそわそわしている。
20分後、父がやっと車を停めることができたのか、レストランに入ってきた。
「10組待ってるから、予約してて良かったんだけど、まさか予約してても待つことになるとは……はは」
「時間制限ないみたいだし、しょうがないよ」
「ここのランチコースがおいしいと職場の佐藤さんから聞いたんだ。みんなと食べたかっただろうに……本当にごめんな」
「ううん、こんなオシャレなレストランでお食事したいなと思ってたから嬉しいわ。あ、お子さまメニューもあるのね。しゅさ、ドリンクどれにする?」
「りんごジュースがいい」
待っている間、店員さんが渡してくれたメニュー表を一緒に見ていたが、なかなか名前を呼ばれないので、しゅさは窓の外を眺めた。
レストランの待合い場所の窓から、遊具のある庭が見えた。
「パパ、待っている間、レストランの庭にママと行ってきていい?」
「ああ、いいよ。順番来たら呼びに行くから。ママと行っといで」
レストランの外に出るとブランコと滑り台の遊具があった。
しゅさは滑り台で遊んだ。
ブランコにも乗りたいけどずーっと乗り続ける子がいて無理だった。
「ねぇ、さっきからずーっとブランコ乗っているよね? 代わってよ?」
「しゅさ、こら」
ブランコに乗りたいしゅさは、母の制止を無視し、乗り続ける女の子に声をかけた。
知らない女の子はしゅさの顔を睨みつけくるだけで、ゆずってくれる気はない様子だったので、あきらめて広い庭を母と散歩することにした。
「しゅさ、ひまわりがいっぱい咲いてるよ」
「わ~~、写真撮って」
海の景色とひまわりを背景に、近くの大きな岩に一眼レフデジカメを置いて、母と写真を撮った。
ーーコッコッコッコケ、コッコッコッーー
ニワトリのような鳴き声が聴こえた。
動物の鳴き声がする方へ向かうと庭の奥に飼育小屋があった。
「ニワトリだーー! 」
「ここのレストランの卵は、このニワトリさんたちの卵かもしれないね」
「早く食べたーーい」
「……そろそろ呼ばれるかもしれない、まだだったら順番待ってくれているパパと交代してあげたいから戻ろうか」
「うん」
来た道を引き返していたら、迎えに来た父と会ったので、一緒にレストランに戻り、案内されたテーブルに座った。
「窓側が良かったけど、混んでるから仕方ないね……」
「そうね……」
「……」
トイレ前のテーブル席しか空いてなくて、家族全員とてもお腹が空いてたので、そのまま座ることにした。
「何にしようか、やっぱり魚介類コースかな?」
「私もそれにするわ」
「しゅさは、エビ……と魚のコースと、野菜と肉のコース、どっちがいい?」
「エビがある方がいい」
「じゃ、エビと……のコースね」
注文して10分後、しゅさのお子様メニューのエビのコースがやって来た。
「わ~~、おいしそう、いただきまーーす」
グラタンの中に白身魚の切り身が入っていたのは残念だったけど、エビフライとオムライスがすごくおいしかった。
デザートにチーズケーキとフルーツまでついているので、最高だった。
食べ終わってレストランからホテルに着く頃には16時になっていた。
悠、ミナ、モン兄、マミと両親たちと合流し、ホテルの和食レストランのお子さまランチを食べた。
しゅさは両親が食べている食事の刺身がとても美味しそうなので欲しくなった。
「パパとママのサーモンおいしそう。ちょ~だい」
両親も刺身のサーモンが大好物なので、困った表情をした。
サーモンの刺身は二切れしかないので、両親は一切れずつ、小皿にのせてしゅさにくれた。
両親は一切れで我慢し、しゅさは二切れもらって嬉しそうに食べている。
食後、ホテルにある卓球のある部屋にみんなで行き、親子ペアになり、卓球をした。
親子ペアなのには理由がある。
子供全員まだ卓球が上手ではないので、ほぼ親同士の対決となるのだ。
最初は子供がサーブをし、何回か失敗するがいづれ慣れてきて、上手がサーブできた時に、親同士のラリーが続く。
卓球で汗をかいた後は、みんなで大浴場へ行き、それぞれ自分の予約した部屋に泊まり、楽しい週末1泊旅行を終えた。
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次の日の月曜日、しゅさと悠の通っている幼稚園と近隣の小学校の合同夏祭りイベントがあった。
しゅさと悠は浴衣に着替え、しゅさの両親に車で送ってもらい幼稚園へ行った。
前もって幼稚園から渡されていたひも付きのチケットを首から下げ、幼稚園の門をくぐると自分たちと同じ組の子らがいたので、駆けていく。
同じ組の子がたくさんいる中から、2人組の女の子に、しゅさと悠は話しかけた。
「ハネちゃん、カノンちゃん、おはよう」
「しゅさちゃん、悠ちゃん、おはよう」
「しゅさちゃん、悠ちゃんのオレンジのお揃いの浴衣かわいい」
「うん、かわいい、きょうは2人とも髪型ツインテイルにしたんだね」
「ありがと。ハネちゃんも浴衣ドレスひらひらでかわいい」
「カノンちゃんも水色の浴衣もネコちゃん柄でいいな〜〜」
ハネは髪を2つ分けのお団子にしてて黄緑の浴衣ドレスを着ている。
カノンはサイドの髪を三つ編みにして、ネコ柄の浴衣を着ている。
ハネもカノンも2人ともいつもと違う髪型で、花の髪飾りをつけており、とても華やかだ。
2人はいつもおしゃれだから、しゅさも悠もいつも気合いを入れて、幼稚園に行っている。
いつも早く起きて、親に手伝ってもらって、三つ編みやポニーテールやサイドアップにしたり工夫している。
今日はラメ入りの整髪料をつけたブラシで自分の髪をとかし、2つに分け、かわいいひまわりの飾りの付いたゴムでくくって来た。
「いらっしゃ~い」
チケットを渡すと鹿のお面をつけた小学生のお兄さんが鈴を渡してくれた。
「ここの屋敷の妖怪は鈴の音でやっつけることができるんだ。妖怪が近づいて来たら鳴らして追い払ってね」
幼稚園に昔からある倉庫を借りて、毎年小学校の子たちが妖怪屋敷をしてくれている。
しゅさも悠も一昨年も去年も行ってるので、あえて渡された鈴を鳴らさずに楽しんでいる。
布で仕切られた狭い通路を歩いていると奥から、子泣きじじいが出てくる。
「去年は子泣きじじい出てこなかったよね。今年はどんな妖怪出てくるか、知りたくない? 1回目は全部鈴を鳴らして行こうよ」
と、ハネが言ったので、おもしろそうなので3人は同意した。
4人で鈴を鳴らすと、子泣きじじいは両足をバタバタさせてから逃げて行った。
「子泣きじじい、かわいいな」
と、カノンが呟いたが、しゅさと悠はそう思わなかった。
何故、そう思うのか知りたいので、しゅさは尋ねることにした。
「え、なんで?」
「動きがかわいかった」
「そうかな〜〜?」
「かわいいと思ったんだもの」
「ふーーん」
「カノンちゃんって面白いね」
「よく言われる、えへへ」
カノンが怒ってしまい喧嘩になるんじゃないかと成り行きを見ていた悠とハネは、笑っている2人を見て安堵した。
曲がり角を曲がると3段の跳び箱が置いてあり、跳べと書かれた張り紙が跳び箱に貼られてある。
「体操クラブで6段跳べるようになったから、こんなのチョロい」
浴衣ドレスのハネちゃんはそういって跳び箱を跳びこえた。
しゅさとカノンちゃんと悠の3人は浴衣なので、跳ぶと浴衣がめちゃくちゃに着崩れることを知っていたので跳び箱の横を通り進んだ。
「跳び箱を跳ばない奴はだぁ~〜れだ〜〜」
4人のいる後ろから、のっぺらぼうのお面を付けたアフロの髪型の白いワンピースを着た女の子が出て来た。
「きゃーー」
しゅさとカノンはビックリして、鈴を必死で鳴らした。
のっぺらぼうのお面を付けた女の子は鈴の音を聞いて、悲鳴をあげて去っていった。
「いきなり後ろからだったからビックリした」
「心臓止まるかと思った」
「私も」
曲がり角を曲がると今度は平均台が置いてあり、平均台の横の手づくりの板には渡れと書かれた紙が貼られていた。
「浴衣で行けるかな?」
「大丈夫だよ。行こ」
平均台から落ちずにバランスをとって進むと、机が置かれてあった。
その机の上には、紙と鉛筆が置かれていた。
紙には妖怪の絵を書いて、曲がり角の先にいる妖怪に渡すようにと書かれている。
「去年と違うね」
「妖怪、むずかしくて書けないよ」
「ネコの絵でごまかそう」
「そうだね」
「むふふ」
「わ、何」
「ネコじゃなくて、犬になった」
「あ~~、失敗して何か、わからない」
上手に書けずに、4人とも1回目は書くのに失敗して、黒く塗りつぶしている。
「もう仕方ない、このまま出しちゃおう」
「そうしよう」
「うん」
「行こう」
曲がり角を曲がると塗り壁の絵が書かれた大きな布をかぶった人がプラカードを持って立っている。
プラカードには、『ようかいをかいたかみをわたしてほしい。つぎのてんらんかいにしゅっぴんする』と書れている。
鈴を鳴らしたが、塗り壁は動きそうもない。
「塗り壁には鈴が効かないの?」
「逃げたら紙を受け取れないからじゃない?」
「そうだね」
しゅさは次の曲がり角を曲ろうとした、が、急に視界が真っ暗になった。
……あれ?
周りを見回すと、ハネもカノンも悠もいない。
幼稚園の倉庫の妖怪屋敷にいたはずなのに、ここはどこなのだろう。
しゅさは、知らない神社の中にいた。
そして、何故か、夜になっている。
「今日の食事はこの子供か」
上のほうから声がしたので、しゅさは見上げた。
金色の鬼のお面をつけ、黒地に金色の刺繍の入った豪華な着物姿の男性が、大木の高い枝の所に器用に立っていた。
こんな高い所の枝に登って立っていられるなんて、このお兄さんは怖くないのかとしゅさは思った。
「ははは、運が良い子だ。今日はあまりお腹空いてなくてな。お前が芸をして、オレ様が気に入ったら助けてあげよう」
「あのう、ここはどこですか?」
大木の枝に立っているお面をつけたお兄さんに尋ねると、しゅさが驚くよりも速いスピードで、目の前まで飛んできた。
アニメや特撮のヒーローみたいでカッコいいとしゅさはお兄さんを尊敬のまなざしで見つめると、お面の穴から覗く金色の瞳がギョロリと動き、しゅさを見て言った。
「オレ様の大好物は人間だ。お前をいま食べてもいいが、オレ様は才能がある人間は食わない。笑い話でも歌でも踊りでも楽器を奏でてもいいぞ。命乞いして芸をするなら食べないでやる。楽器ならほれ、そこにあるのを使え」
「きゃぁああーーーー! 」
お兄さんは怖い鬼のお面をつけているけど空を飛べるカッコいいヒーローなんだと思ったのに、悪役の化け物だったんだ。
人間が大好物、わたし食べられちゃうの……
「食べられるなんてやだ、悪役になんて会いたくなーーい」
しゅさはそう大きなで叫ぶと逃げた。
なんでわたしだけこんな目に遭ってるのかと思うと、涙がどんどんあふれ出てきて止まらない。
声が出るだけ叫び泣きながら必死で逃げた。
急に辺りが明るくなり、木や灯籠がある方向から着物姿のたくさんの人々が踊りながら出て来た。
着物姿の人たちは、ひょっとこやお多福のお面を付け歌を歌い踊リながら、逃げようとするしゅさを阻むように動いている。
踊っている人達の隙間を見つけて通ろうとすると持っているうちわで通せんぼするので、足元に落ちている小石を拾い、その人達めがけて投げた。
周りで踊っていた人たちは、しゅさが小石を投げてくるので、当たらないように散り散りに逃げ始めた。
知らない神社の境内の森の奥へしゅさは逃げ込んだ。
誰もいない静かな神社の森の中、しゅさの息と下駄の音だけが響いている。
しばらく走りづらい下駄で走っていると、足の親指と人さし指の間が痛くなってきたので、座れそうな側石を見つけ座ることにした。
〜〜♫〜〜♪
神社のお祭りの時に聴いたことがある、笛の音色が聴こえてきた。
ジャリジャリと小石を踏んで誰かが近づいてくる音がするので、近くの木の裏に隠れて様子を伺うことにした。
巫女さんのような白い服に赤い袴の服装で、かわいいオメメのリスのお面をつけた女性が赤い横笛を吹きながら歩いている。
この女性もお面をつけてるから、さっきの悪役のお兄さんの仲間かもしれない。
気づかれないようにもっと見つかりにくい場所を探そうとその場から立ち上がり進もうとしたら、思いっきり何かにぶち当たった。
「ははは……、活きの良い奴め、見つけたぞ」
さっきの悪役のお兄さんが神社内に響くような不気味な大声で笑い、私の前に立ちはだかっている。
しゅさは落ちている砂利を拾い、悪役のお兄さんめがけてたくさん投げるが、お兄さんは全部上手に避けるので、砂利は全く当たらない。
「ガハハ……ヘタッピぃだなぁ。全然当たってないじゃないか」
投げた砂利が全然当たらないのを見て、お兄さんは大笑いしている。
大きな石もたくさん投げてみたが、すべて上手に避けられてしまうのだった。
「こら、兄上、また幼き子で遊んでおるのか」
「芸をするどころか、砂利や小石投げつけてくるとは、なかなか勇ましい子供じゃ」
「可哀想に、早く返してやるのじゃ」
「こやつがどんな芸をするか、気にならないか?」
「……そうじゃなぁ、いくさが大好きな鬼門からやって来た魑魅魍魎に唆され、狂ったかのようによその国と戦った者たちもだいぶん減り、新しい時代の幼き子がどんな芸をするか気にならないかと言えば気になるが……」
リスのお面をつけた巫女姿の女性が高速でしゅさに近づいてきた。
しゅさのほっぺたをそっと撫でると、顔をのぞき込んで言った。
「私たちはしゅさちゃんに、楽器を弾いて欲しいのじゃ。食べたりしないから安心おし」
何故、このおねえさんはしゅさの名前を知っているのだろうと思った。
「そうだ。なにか曲を弾いて聴かせよ。すれば元の世界に戻してやるぞ」
砂利や小石を投げつけてもかわされ、これ以上逃げても追いつかれるような気がした。
楽器を弾けば元の所に戻してくれるというので、弾くことにした。
いつの間にか、地面には畳が敷かれており、畳の上にはいろんな楽器が置かれてあった。
畳の上に置かれた楽器からヴァイオリンを拾い上げ、しゅさは弾いた。
「おお……こやつはヴァイオリン弾くのか」
「琵琶とは全く違った趣きね、これは胸にキュンとくるわね」
あれだけ怖いと思ったお兄さんが、しゅさの演奏を聞いて、笑顔になっている。
しゅさはヴァイオリンを弾きながら、周りを見渡して驚いた。
ひょっとこやお多福のお面を付けた着物姿の人たちがいつの間にかしゅさを囲むように座っていたからだ。
たくさんの人の前で演奏するのは、ピアノとヴァイオリンの発表会の時ぐらいだ。
そのピアノとヴァイオリンの発表会の時よりも、たくさんの人たちにしゅさは囲まれている。
こんなにたくさんの人に聴いてもらうのは、はじめての経験だった。
お兄さんたちへの怖さも吹き飛んで、ものすごくうれしかった。
もっと弾きたいと思ったが、それどころじゃないことに気づき、弾き終わったので、お兄さんたちのほうを見た。
「良いものを聴かせてもらった。帰してやるぞ。私たちのことは、誰にも話すでないぞ。もし、話したらお前を食べに来るからな」
このことを話したら食べられる……お兄さんたちはやっぱり肉食の化け物なのか。
恐怖のあまり、しゅさはまた大声で泣いた。
「こ、こら、兄上はあほうか。この子供は……きっと兄上に誘拐されたと思っておるじゃろうから、今日会った記憶はぜんぶ消すぞ。元通りにしておかないと面倒くさいことになるぞ」
おねえさんが近づいて来て、しゅさの頭に手をのせた。
しゅさは何をされているのかわからないので、大声で泣き続けた。
「しゅさちゃんの脳みその記憶では……よし、妖怪屋敷の肝試し中に戻せばいいな。ゔぁいおりんを聴かせてもらったお礼に、わたくしの護符を授けておこう。さよなら、しゅさちゃん。素敵な演奏を聴かせてくれて、ありがとうね」
視界が、突然真っ暗になった。
巫女姿の女性の不思議な力で、しゅさは幼稚園の夏祭りのお化け屋敷会場へ戻された。
塗り壁の布をかぶった人に、しゅさは書いた紙を渡した。
紙を渡した後、右手に持っていた鈴を持ち直そうとしたら、持ってなかったので、しゅさは焦った。
みんなに付いていき、曲がり角を曲がると、猫女に扮した小学生のおねえさんが1人立っていた。
鈴を鳴らしたくても、持ってた鈴がないので鳴らすことができない。
「どうしよ、鈴落としちゃった」
「大丈夫、私たちが鳴らしてあげるから」
「しゅさちゃんは私たちのあいだに入って」
「うん」
妖怪屋敷から出て、2度目は全員わざと鈴を鳴らさなかったので、小学生の扮する妖怪たちがたくさん現れ、囲まれてしまった。
妖怪に扮した小学生たちはしゅさたちの腕を優しく掴むと、自分たちと一緒に2階に行くよう誘導した。
2階に行くと5人の小学生のお兄さんたちがしゅさたちを待ち構えていた。
「オレ達のマネをして一緒に踊れ。……ちゃんと踊らないと屋敷から出られないからな」
と、鬼のお面をカブった小学生の1人が、新聞紙で丸めて作った金棒をぐるぐる回し、棒読みでたどたどしく言い放った。
こわい鬼のはずなんだけど、この小学生のお兄さんが全然怖く感じなかったのは、なんでだろうとしゅさは思った。
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妖怪屋敷を出た後、しゅさたちはヨーヨーすくいをした。
「ああ、こより千切れちゃた」
店員係の悠ちゃんのママにチケットを渡した。
こよりを付けた針金で、ヨーヨーを吊り上げようとして、水に浸してしまい千切れてしまった。
「1個も釣れてない人も1個だけもらえるよ? どれがいい?」
「1個も釣れてないのにもらえるの?」
去年の夏祭りでは、お化け屋敷と輪投げした後、教室へ行き悠ちゃんとお絵かきしていたので、ヨーヨーすくいのやり方を全く知らなかった。
「そうよ。全然釣れなくて、何ももらえないと悲しいでしょう? ヨーヨーすくいはじめて?」
「うん」
「去年、神社の夏祭りに一緒に行った時に、悠はヨーヨーすくいしてたけど、しゅさちゃんはしてなかったね」
「パパがたくさんとってくれたから」
「じゃ、もう1回してみる? こよりが濡れないように注意してするといっぱいとることができるよ。はい、どうぞ」
悠ちゃんのママが私だけに聴こえるような小さな声で言い、こよりを5個もくれた。
「いいの?」
「今、悠やしゅさちゃん達だけしかいないから、練習していいよ。他の子にはヒミツにしててね」
「うん、悠ちゃんママ、ありがとう」
「ママがくれたこより、全部千切れちゃった」
「私も」
「また? しょうがないわね。他の子にはヒミツにしててよ。はい」
と、悠ちゃんのママは小声で言い周囲を見回すと3人を手招きして、こっそり5個ずつ手渡した。
「わー、いっぱいヨーヨー釣れたね」
しゅさは3個、悠は5個、ハネとカノンは4個は練習させてもらえたおかげで釣ることができた。
悠ちゃんママは、小声で1枚のチケットでたくさん釣れたことにしといてと言い、釣れたヨーヨーを全部くれた。
(※この小説は休符にスタッカートが入ったようなフィクションの世界の話です。こんな不正行為ありえないギャグだと理解してもらえると嬉しいです)
ヨーヨーすくいの後は、ジュースチケットでリンゴの缶ジュースを購入し、園庭の隅にあるベンチに座って飲んだ。
「去年はお化け屋敷と輪投げしかしてなかったから、ヨーヨーすくい楽しかった」
「そうなんだ。去年、ヨーヨーすくいしたけど、1回しかできなかったよ」
「悠ちゃんママのおかげだね」
「ママ怒られちゃうから、みんなにはヒミツね」
「ぜったい言わないよ」
「うん、言わないよぅ」
夏祭りが終わりに近づき、幼稚園の先生がみんなを集合させ、別れの挨拶をし解散した。
「先生、さよなら」
「しゅさちゃん、楽しい夏休みを過ごして、また9月に元気な顔を見せてね」
先生にお辞儀をして門の近くに行くと、幼稚園の駐車場に置いて歩いて来たのか、しゅさの両親が幼稚園の壁側に立って待っているのが見えた。
他の保護者の人達と会話していて、しゅさに気づいてない。
「ママ、パパ、夏祭り終わったよ〜〜」
しゅさが声かけると、両親は一緒に会話していた保護者の人に会釈してから、しゅさのほうを見た。
「おかえり。ここで終わるまで待ってたから暑かったよ」
「ママもパパも係すればよかったのに」
「パパとママたちは、家のプールの掃除してたんだよ?」
「わぁ、じゃあ、プール使えるんだ。やったーー」
帰宅途中のクルマの中、しゅさは夏祭りの戦利品のヨーヨーのおひろめをした。
「はじめてのヨーヨーすくいで3個も釣れたなんてすごいな! 」
「しゅさはヨーヨーすくいの天才だわ」
たくさん練習させてくれたことを言ったら、悠ちゃんママが怒られちゃうからぜったい言わないよ。
「そう、しゅさはヨーヨーの天才なの」
夏祭り……とても楽しかったな。
組の子みんな、浴衣や作務衣が似合ってて良かったな。
と、しゅさは後部座席1人座り、今日一日を振り返っていた。
悠は、夏祭りの係をしている両親と一緒に帰りたいから待ってると言い出し、悠ちゃんパパから離れようとしなかった。
しゅさの両親は先に帰宅して夕飯の準備をすることになっているので、先に3人で帰ることになった。
いつも幼稚園の帰りは悠と一緒なのに今日はいない。
後部座席に1人だけで座るのは、とても退屈だ。
みんなに夏休みはどうして過ごしているのかきけば良かったな、どこか旅行に行ったりするのかな……
そういえば、夏休み前にたくさん旅行に行くぞとパパが言ってたな……どこに行くんだっけ……うーーん。
帰宅途中の車内で、夕焼けの美祢市の景色を見ながらしゅさはいろいろ考えていた。
「うわ……何だ」
車の運転をしていた父がいきなり驚いて声を上げた。
道路の端のほうに車をとめると、父は車内に待機するよう、しゅさと母に言った。
車から降りて戻ってきた父が、道路にたくさん紙が落ちているというので、みんなで紙を拾うことになった。
「誰だろうね、道路にゴミを捨てるなんて」
「ひどいね」
拾った紙を見ると、墨で鹿の絵が描かれている。
「水墨画の練習をしたような……」
「虎の絵、上手いな。プロの画家の人かな?」
父が拾った紙を見て、水墨画と言ったので、それは何かと尋ねると、
「黒い墨と水を使って描いた絵のことだよ。大昔の人は墨をつけた筆で絵も字も描いてたんだよ。実物はじめて見たよ」
しゅさは、幼稚園の絵画の時間を思い出した。
鉛筆で書いたイラストに絵の具で塗ると、しゅさはいつもはみ出して塗ってしまう。
昔の人は字も絵も筆で描いていたなんてすごいなと思った。
「ご迷惑おかけしてすみません」
森沿いの道路の小道から、縞模様の地味な着物を着た20歳くらいに見える若い男性が出てきた。
その男性は落ちている紙を、尋常でないスピードで拾うと私たちに謝ってきた。
「家で書き物をしてたら、風で飛ばされてしまって」
お兄さんが自分が出て来た道の先のほうを見たので、しゅさも両親も同じように見た。
すると、ポツンと大きな1軒家が建っており、その家の2階の窓が開いたままになっていた。
「あはは……それは災難でしたね。」
さっきまでここに家なんて建ってたかなとしゅさは思った。
気がつかなかっただけかもしれないので黙っておくことにした。
「落とした紙を拾って下さり、本当にありがとうございました。お礼にご馳走させてください」
「……え? あ……いやいや、困った時はお互いさまですよ。お礼にお食事なんて大げさな。……さ、みんな、帰ろうか」
しゅさは、両親に急かされて車に乗った。
知らない着物姿のお兄さんが、しゅさたちを見送るように手を振っているので、しゅさも手を振り返した。
夜ご飯にそうめんを食べていたら、さっきの着物姿の男性について話題になった。
「紙を拾っただけなのに、お礼にお食事なんてびっくりしたわ。あんなに若くてイケメンで一人暮らしだとしたら、悪い女の人に騙されないか心配だわ」
「騙されるも何も、怪しすぎる。はじめて会ったのにいきなり家へ食事に誘うなどありえない。食事に毒やら仕込まれて生物実験動物扱いされたらと思うと恐ろしくならないか?」
「毒?……あの男の子が可哀想。そんな風に言うなんて。親が亡くなって一人暮らしをせざるをえなくなったのかもしれないし……」
「着物の柄が年配向けだから、見た目が20代でも結構年食ってるぞ」
「親の形見の着物を着ているのよ」
「そうかな?20代で、着物着て、水墨画描く人がいるのか?」
「20代の今の流行りなのかもしれないじゃない」
「んなわけない」
「決めつけはダメよ」
両親が珍しく口論しているので、しゅさは両親に頼まずに、自分で冷凍庫からアイスクリームを取り出し、食べた。
「しゅさ」
「なに?」
「イケメンに良いものあげるからや、美味しいアイスクリーム一緒に食べようと言われてもついてっちゃダメだよ」
テレビを観ていると、父が私に話しかけてきた。
「パパ、イケメンってなぁに?」
「カッコイイ男の人のことだよ。」
「わかった、きれいな女の人ならついてっていいんだね」
「うう……きれいな女の人でも、優しそうに見えても、普通に見えても、知っている人でもダメだよ。パパか、ママに相談してから行くんだよ? 約束ね」
「うん、わかった」
そういえば、きれいな女の人に紙ヒコーキを拾ってもらったり、砂浜で母を一緒に探してもらったような……?
うーん、助けてもらうのはいいのかな?
ついて行ってるわけじゃないからいいのかな? ……ん、なんだか眠くなってきた。
だんだん眠くなってきて、ソファで眠ってしまったので答えは出せなかった。
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しゅさの父の仕事部屋は、いつも鍵がかかっている。
見せて欲しいと頼んでも、大切な仕事道具がたくさんあるからといつも断られてしまう。
父が仕事している時に部屋の前へ行くと、いつも聴いたことがない不思議な音が聴こえてくる。
この音の正体が何なのか、とても知りたい。
しゅさは悠ちゃんを誘い、父の部屋の前で座り込む事にした。
キキキィーーンキュルルーーーーキキキィーーン
と、不思議な高い音がしたかと思ったら、しばらく後に
タタタタタ、パシパシパシーン、トストス、スパカラトトトトトト……、ドドドドドド……
素早くリズミカルに何かを弾いているのか、叩くような不思議な音が聴こえてくる。
「しゅさちゃんパパ、この部屋でこっそり危険なペット買ってるんじゃないの?」
「こんないろんな声出すペットいるんだ、こっそり飼うなんてずるい」
「毒持ってて、危険な動物かもしれないよ……毒ヘビとか」
「毒……ヘビ……」
「楽器の音に反応するヘビもいるとパパが言ってたよ。楽器の音を聴かせてるんじゃないかな?」
「楽器の音?」
夕食の時間に父に何の楽器を弾いてたのかと尋ねたら、作曲の仕事してたと教えてくれた。
だが、楽器の名称に関しては、たくさんいろんな楽器を使って仕事をしているとしか教えてくれなかった。
「いろんな楽器を見てみたい、部屋に入らせて欲しい」
「だーーめ。パパの、と、て、も大切な仕事道具だから、何かあったらパパ死んじゃうから、見せてあげられない。これだけはごめん、しゅさ、あきらめて」
「……うう、わかったよぅ」
部屋の中の大切な仕事道具をしゅさが見てしまったらパパが死んでしまう。
パパが死ぬなんて嫌だ。
父の部屋に関して触れることすら、いけないことなんじゃないかという歪んだ認識がしゅさの心に芽生え、金輪際、話題に出すこともなくなった。
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