3,海と遊びと音符たち
この小説は現実の地名が出てきますが、フィクション小説です。
7月下旬頃、しゅさと悠の通う小学校は夏休みに入った。
悠の家族だけでなく、両親が工房職人のモン兄とマミの家族や、しゅさの母のピアノ教室に通うミナとイツキの家族も誘って、下関の海へ1泊2日の旅行に行くことになった。
天気は快晴。海水浴場の砂浜は老若男女さまざまな人たちが来ており、海水浴シーズン真っ只中の賑わいだ。
しゅさと悠は、船底が透明になっているボートの上で、浅瀬の海中を覗いていた。
そのすぐそばには、大きな鳥型のフロートに乗ったマミとスノーケリング用のフロートに乗ったモン兄がいて、彼らもまた両親に付き添われながら一緒に海の上を散歩していた。
「おーい、しゅさちゃーん!」
名前を呼ぶ声に振り向くと、小さい板型のフロートにそれぞれ乗ったミナとイツキの姿が見えた。
「みんなで鬼ごっこしようよ。ぼくが最初に鬼役するから」
モン兄が提案し追っかけてくるので、しゅさたちは必死に逃げた。
しゅさは乗っていたボートをしゅさの母に渡し、悠と一緒に浅瀬の海を走った。
「ひゃ……」
波の引き際にしゅさはこけてしまい、起き上がるのが遅れて押し波で溺れそうになる。
「う、ゴボゴボ……」
誰かが溺れそうなしゅさを持ち上げ、砂浜にかついで運んでくれた。
鼻に水入ったのかツーンとしてきた、水も飲んだせいか、しゅさは咳ごんだ。
「大丈夫か?」
運んでくれただけでなく背中まで優しく叩いてくれた。
重たくて抱っこもおんぶも無理と両親から拒否られるしゅさを軽々と持ち上げ運ぶことができるなんて、悠ちゃんすごいなと言おうと思って顔を見た。
目と眉が鋭く吊り上がっていて迫力があり、髪がめちゃくちゃ長くなければ男性にも見えるくらい身長の高い女性だった。
「ありがとうございます」
砂浜を歩いている時にしゅさがこけたのを見て、服が濡れるのを気にせず助けてくれたらしい。
助けてくれた女性は、服も髪もビショビショに濡れており、水揚げしたワカメみたいになっている。
「どういたしまして。波に足がすくわれたり、離岸流に沖に流されて危険だから、鬼ごっこは砂浜でした方がいい」
声は男性……、髪の長いお兄さんか。
「しゅさちゃん、大丈夫?」
悠や、モン兄やミナやイツキがしゅさのいる砂浜まで集まってきた。
「うん、お兄さんが助けてくれて……」
助けてくれたお兄さんを見たら、いなくなっていた。
「お兄さんが助けてくれたって……しゅさちゃん、1人で立ち上がって砂浜まで歩いていたじゃない」
「髪の長いお兄さんが助けてくれたんだよ」
「私、しゅさちゃんがこけたところから見てたけど、お兄さんなんて見てないよ」
「大丈夫?」
「どうしたの?」
「しゅさちゃんが浅瀬でこけて1人で起き上がって砂浜に向かっていったから、追いかけたら髪の長い男の人に助けてもらったって言ってるの」
髪の長い男の人に助けてもらったのに、悠ちゃんは何故1人で起き上がって砂浜に向かったと言ってるんだろう。
私が言ったことを信じてもらおうにも、助けてくれたお兄さんはいなくなっているし……
「どっちが本当なの?」
「よくわかんない」
「しゅさちゃんは助けてもらったって言ってるんでしょ?」
「どっちでもよくない? 浅瀬でこけて溺れなくて良かったということで」
「そうだね、この間、救急車に運ばれて入院したってしゅさちゃんのママから聞いたし、しゅさちゃんが無事で本当に良かった、良かった」
「しゅさちゃん、大丈夫? 頭がズキズキ痛くなったりしない?」
「うん……」
しゅさが救急車に運ばれて入院したことがあるから、変なことを言い出したと思われているんだ。
悠ちゃんと少し離れて歩いていると、モン兄ちゃんが近づいて来て、小声で話しかけて来た。
「もしかして、助けてくれた人って、髪の長い男の人だった……?」
「うん」
「ボクも幼稚園の頃、その人に海で助けてもらったことがあるよ」
「え?」
「しゅさちゃんと同じようにボクも浅瀬で、こけて溺れたところを助けてもらったんだ。髪の長い男の人なんて見てないって、近くで見てた親も言うから変だと思ったから憶えてるんだ」
「……神さまなのかな」
「神さま?」
「うん、この間、アポロンって神さまに秋吉台で会ったから、神さまって本当にいるんだと思って」
「……神さまか、幽霊かわからないけど、助けてもらったからこそ、ボクたちは無事生きてるから感謝して楽しく生きていこう」
「うん、そうだね!」
両親たちが座っている砂浜へ行くと、ビーチパラソルの下で、父たちがイビキをかいて寝ていた。
「みんな、こっち、こっち」
母らが手招きしているほうへ行くと、砂の上にスイカが置いてあった。
「スイカを持ってきたから、みんなでスイカ割りしましょうよ」
ミナちゃんママが、細長いプラスチックの玩具の刀を持ちながら言った。
「スイカ割り?」
「おもしろそう」
「やる、やる」
みんなでじゃんけんをし、チョキを出したらしゅさが勝ってしまった。
フェイスタオルで目隠しをされ、プラスチックの刀を握った。
「やったことがないから、どうすればいいのかわからない」
と言ったら、みんなの指示どおりに動いて、プラスチックの刀でスイカを軽く叩くようにとやり方を教えてくれた。
スイカは1つだけしかないので、みんながスイカ割りできるように、柔らかいプラスチックの刀で叩くとのことだ。
「大丈夫。みんながしゅさちゃんに指示を出すから」
「まず、まっすぐ進んで」
「そう、まっすぐ、まっすぐ」
「進め、進め」
目隠しされたので真っ暗で怖かったけど、砂浜の賑やかな声とみんなの声が聴こえるので怖くなってきた。
歩くたびに砂浜の砂がまとわりついてきて、つまづきそうになる。
姿勢よくバランスをとって歩かないと体がふらついて転びそうになるのでゆっくり進もうとした。
「ああ、ちがう、左」
「右に行き過ぎ、戻って」
「今度は行き過ぎ、少し右に戻って」
「そのまま真っすぐ」
あれ?真っすぐ進みたいけど、ふらふらしてバランスがとりづらい。
右に行き過ぎてるとみんな言ったので、しゅさは左足を前に進ませた。
「そう、そのまま進んで」
「このまま、いけーー」
「今、そう、振り下ろして」
「ああ、ズレちゃった。向きを変えなくて良かったのに」
プラスチックの刀を振り下ろしたら、サクッと砂の優しい感触が刀から伝わってきた。
この次は2番目に勝ったイツキだ。
スイカ割りに慣れているのか、みんなの指示どおり素早く動き、スイカを叩いた。
3番目はモン兄だが、しゅさの心はスイカ割りから離れており、周囲をキョロキョロ見回して、母を探していた。
今、さっきまでいたはずなのにいない。
「かなこママ、あのう……わたしの母はどこですか?」
「しゅさちゃん、ママと交代で休憩することになったから、ママが休憩から帰ってくるまで一緒にスイカ割りしようか」
しゅさはトイレに行こうと思ったので、ついでに母を探しに行くことにした。
母がどこにいるのかわからないので、人がたくさんいる砂浜の中を歩き回った。
「あ……」
母を探していて、知らない人とぶつかってしまった。
ぶつかった人が私が倒れないようにと体を支えてくれていたので倒れずに済んだ。
「ありがとう」
「いえ、こちらこそ、ごめん……なさいね。私もよそ見していたから」
「あ」
「あら、この間の紙ヒコーキの子。偶然ね、きょうは海水浴なの?」
あの不思議なマフラーのおねえさんだった。
今日は、私にわかる言葉で話しており、豪華な服やアクセサリーも不思議なマフラーも身に着けておらず、エメラルドグリーンのワンピースを着ていた。
「お母さんを探しているの? 一緒に探してあげるわよ」
おねえさんは、たくさん人がいるなか、母を探すのを一緒に手伝ってくれた。
「あ、いた」
「良かった。たくさん人がいて、1人じゃ危ないからお母さんから絶対離れちゃダメよ」
「あ……あ、ありがとう」
しゅさは母から離れたつもりはなかったのにと思ったが、それをお姉さんに言っても仕方がないので、お礼を言って母のところへ行った。
母は、砂浜にある喫茶店のベンチで、かき氷を食べていた。
しゅさが遊んでいる間に、ちゃっかり抜けてかき氷を食べてるなんて、ズルいとしゅさはスネた。
「……ママは……もう……鬼ごっこでヘトヘトで倒れそうになったから、他のママと交代で休憩することにしたの。しゅさのぶんも買ってあげるよ」
「ママ、わたし、トイレに行きたい」
トイレから出て、みんながいる場所に戻ろうとしたら、イビキかいて寝てたはずの父グループ3人と遭遇した。
「パパらはみんなの分の食事を調達しに、今から売店行くんだよ。そろそろお昼に近いから、混む前に早めに買っとかないとね」
「しゅさも手伝う」
「助かるな」
「何を買うの?」
「焼きそば12個と、飲み物12個だよ」
「全員焼きそばなの?」
「団体行動の時は会計がややこしくなるから、飲み物以外はみんな同じなの」
「そう……」
しゅさも焼きそばか……あとで母にかき氷買ってもらおうっと。
売店でしゅさは自分で飲みたいジュースを選び、1番軽い焼きそば3個入った袋と一緒に持った。
「お待たせぇ、買って来たよぉ」
父ら3人としゅさと母で、みんなの食事を持っていくと、みんな集まって来た。
「おお、焼きそばだ」
「ジュース、何にしようかな」
子供6人がちょうど座ることが出来るシートが砂の上に敷かれてあり、先に悠ら5人が座ったので、しゅさも両親と別れて彼らと座った。
みんなと同じ焼きそばを仲良く一緒に食べた。
焼きそばを食べ終えて、ジュースを呑んでいると、ミナちゃんママが大きなお皿にスイカを乗せて持って来た。
「はい、1人1個とって」
「わーーい、スイカだ」
「スイカの種は砂浜に捨てないで、焼きそばの容器に捨ててね」
「は〜〜い」
スイカは味が苦手だけど、みんな食べてるし、がんばって食べるか……
「お、美味しい……」
めちゃくちゃ暑いせいか、スイカの水気がスルスルと舌にとけて、ほのかに甘くて、とても美味しかった……
「スイカのおかわり2個だけ残りました、いる人?」
「は〜〜い」
しゅさも手をあげていた。
「残りの2個欲しい人はじゃんけんでね」
子供たち全員手をあげていたので、6人でじゃんけんした。
悠とイツキが勝利した。
しゅさは母のところへ行き、かき氷を買って欲しいと頼みに行った。
「仕方がないわね……かき氷、一緒に食べに行きたい人がいないか、他の子に聞いておいでよ」
「わーい」
残りのスイカが食べられた悠とイツキ以外の子供は全員行くと言ったので、しゅさの母と悠ママとで、かき氷の売っている売店へ向かった。
しゅさは、空の色っぽいブルーハワイのかき氷にした。
かき氷を食べた後は、またみんなで仲良く海で遊んだ。
遊んでいたら、少しずつ浜辺から人が減ってきていることに気づいた。
「そろそろ、ホテルに戻りましょう」
それぞれの親が運転する3台の車は、見えないロープで結ばれているように連なって走行し、あるホテルの玄関前で停車した。
「着いたよ。パパは駐車場に車を停めに行くから。自分の荷物持って、先にホテルに入って座ってていいよ」
しゅさと母は、自分の荷物を後部の荷物入れから出すと、ホテルへ向かった。
ホテルの正面玄関の自動ドアから、エントランスに入り、ロビーを通って奥へ向かうとラウンジがあったのでしゅさはソファに座った。
「あれ?」
母も一緒にソファに座ったと思ったらいなかったので、ソファから立ち、もと来た道を引き返した。
ホテルのロビーの受付近くで、母は立っていた。
「しゅさ、まだチェックインしてないから、勝手に奥に行かないで」
「ごめんなさい」
しゅさが母を振り返らずにどんどん奥に突き進んで走って行ったことを母に怒られてしまった。
駐車場に車を止めた父が他の家族らと一緒にやって来た。
ホテルのフロントで父たちがチェックイン手続きをしている間、他のメンバーは奥のラウンジに座り待った。
「みんな、一緒の部屋?」
悠が目を輝かせて、自分の母に尋ねた。
「あはは、まさか、1家族につき1つの部屋だよ」
ホテルの部屋のキーをフロントで受け取った家族は、それぞれ自分たちの部屋へ向かい、夕食の予約時間が訪れるまで各自くつろいだ。
しゅさは持ってきた手提げバッグから、学校の宿題の絵日記ノートを取り出し、今日の想い出の1日を絵に書いた。
しゅさは6人の子供が海の中に入っている絵を書き、色鉛筆を取り出し塗った。
まだ空白があったので、その空白に髪の長い男性とエメラルドグリーンのワンピースの女性も書いてみた。
ーーーーしゅさの絵日記の文章ーーーーーーーーーーー
みんなで海水浴に行ったよ。海で遊んだり、お昼ごはんをみんなで仲良く食べたり、ステキなお兄さんやお姉さんに助けてもらったり、いろんなことがたくさんあった1日でした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
と、絵日記の文章スペースに鉛筆で書いて、しゅさは絵日記ノートをとじた。
夕食の予約時間は近づいてきたので、しゅさの父は他の家族とラインで連絡を取り合い、レストランの前で待ち合わせをした。
レストランの前でみんな合流すると受付を済まし、バイキング形式の食事を楽しんだ。
食後、ホテルにある卓球場にみんなで行き、卓球をした。
「卓球台は2台あるから、大人と子供で別れてしようか」
ミナとイツキの両親が提案し、大人は夫婦でペアになり夫婦対決しているので、しゅさたちもペアですることにした。
「じゃんけんで、どうペア組むか、決めようよ」
「6人いるから、ちょうど2人ペアで出来るね」
しゅさとマミ、悠とイツキ、モン兄とミナで、ペアを組む事になった。
「マミちゃん、卓球したことある?」
「家族でよく遊んでるよ。卓球大好き」
「へぇ、いいなぁ。わたし……1度もしたことがないんだ」
「簡単だから大丈夫だよ」
「簡単なんだ、良かった」
しゅさたちはじゃんけんで負けたので、他の2組が先に闘うことになった。
2組が先に闘っている間、ラケットの持ち方をマミから教えてもらう。
「マミは、このペンホルダーの持ち方しか知らないんだ」
マミにラケットの持ち方の見本を見せてもらい、しゅさはラケットを構えた。
「こう?」
「あ、ラケットの面が逆だよ」
「表とか、裏とかあるんだ」
「うん、プロの人は裏使うみたいだけど、どう使うか知らないし」
しゅさはラケットを持ち直した。
「ボールが飛んできたら、ラケットの面の向きを上にしないで、斜め下の角度にしてうつといいよ」
「こう?」
「そう」
「で、勢いよく腕をふらない、テーブルに入らないから。それと試合じゃないから、2人のどっちがボールを打ち返してもOKだよ」
「マミちゃん、卓球の先生になれるんじゃ?」
「え? お兄ちゃんに教えてもらったこと、そのまま、しゅさちゃんに教えてるだけだよ?」
「マミちゃん教えるの、上手だからよくわかったよ。ありがとう」
「えへへ」
マミに卓球の基本的な仕方を教えてもらった後は、子供チームの試合の応援をした。
イツキがボールをサーブした。
ミナはバウンドした打球ボールを素早く打ち返し、ボールは悠のいるほうへ飛んでいった。
悠もしゅさと同様、卓球したことがないので、ボールはテーブルの角に当たった後、壁の方へ飛んでいった。
「ミナちゃんもイツキくんも上手いね」
「すごい」
モン兄と悠が、2人のプレーを見て感心している。
となりの親たちの対戦を見ると、ちょうどしゅさの両親が卓球をしていた。
対戦相手は、ミナとイツキの両親だ。
しゅさは1度も卓球をしたことがないので、両親も卓球をしたことがないと思っていたが、ミナとイツキの両親と対等に闘っている。
パパもママも、卓球ができるなら、しゅさに教えて欲しかった……
「うう……」
テーブルに突っ伏し、イツキくんがグッタリしている。
「お姉ちゃんとモン兄ちゃんのチームが強すぎる。あと2点入れられたら負けか……」
「イツキくん、ごめん」
「ううん、お姉ちゃんたちが強すぎるんだよ」
はじめて卓球する悠は一球も打ち返せないので、ほぼイツキくんが1人で闘っていた。
2人とも年上で体格差のある2人と、リタイアせずに闘えるイツキくんはすごいとしゅさは思った。
「イツキくん、悠ちゃん頑張れ〜」
悠ちゃんの両親が、悠とイツキの2人を見て、声援をおくっているので、しゅさも応援することにした。
「2人とも頑張れ〜〜! 」
「よーーし、悠もがんばって打ち返すよ! 」
ミナがサーブしたボールを悠は打ち返そうとするが、速すぎてかすりもしない。
「ごめん」
「ううん」
ミナが再びサーブをし、センターライン近くでバウンドしたボールが悠のラケット当たり、勢いよく跳ね返って下に落ちた。
ミナは、今度は勢いよく腕を振り、ボールをサーブした。
テーブルにバウンドすることもなく、ボールは悠の横をすり抜けて行った。
「今のはミナちゃんがサーブをミスしたから、今度はイツキチームがサーブする番だよ」
イツキがサーブすると、モン兄が腕を振らずに、ラケットの面に軽く当てるようにレシーブした。
ボールはゆっくりカーブをえがき、イツキのほうへ向かった。
「チャンスだ」
イツキは素早くテーブルのサイドライン側へ移動し、敵陣のネット近くにボールを打ち返した。
イツキの返球はモン兄とミナチームのネット付近で2回バウンドし、テーブルサイドラインから出て外に落ちた。
「やった、やっとこれで2点入った」
「イツキと悠チーム、逆点のチャンスだ。よし、がんばれ」
いつの間にか、両親ら全員、子供たちの対戦テーブルに集まってきて観戦している。
「あれ? パパたち、卓球しないの?」
「悠ちゃんの両親は卓球したことがないから、イツキくんとミナちゃんの両親と少しの間だけ卓球してただけだよ?」
「パパもママも、卓球したことあるなら、しゅさに教えてくれたらいいのに」
教えてくれないから、年下のマミちゃんに教えてもらうはめになってしまったじゃないかとしゅさはうらめしそうに両親に愚痴った。
「ごめん、しゅさは卓球に興味なさそうだったから……」
「めちゃくちゃ興味あるよ」
「じゃ、曲がまたたくさん売れることがあったら卓球台買おうかな……」
「やったーー、悠ちゃんと練習して強くなるぞ」
「今のところは、8月に長い旅行するし、冬休みも旅行したいしお金いっぱい使うから、たぶん買えるのは2年後かな……」
「エエエーー」
イツキのサーブをミナがレシーブ、イツキが返球し、モン兄とのラリーが続くかと思えた。
「はぁ、はぁ」
イツキの身長より高くボールが素早くバウンドして跳ね返った為、返球できずミナとモン兄チームが勝利した。
悔し泣きしているイツキを、よくここまでがんばったとみんなで囲み褒めた。
今度はしゅさとマミが闘う番だ。
「負けないからね!」
マミが、ミナとモン兄を前に強気で言った。
「しゅさも、はじめて卓球するけど、負けないからね!」
「がんばれ〜〜、しゅさ〜〜」
両親がしゅさに声援をおくってくれたので、しゅさはカッコつけたくなり、ラケットを数回素振りして見せた。
「いけ〜〜、いけ〜〜」
マミもしゅさのマネをして素振りしている。
しゅさとマミグループの動きに反応し面白がって、ミナとモン兄も素振りをしはじめた。
「ボクたちも、負けないぞぉ、ぷぷ」
モン兄がしゅさを見て笑いながら素振りしている。
「しゅさちゃんがんばって〜」
悠からの大きな声援に、しゅさは嬉しくなり、元気一杯手を振る。
「がんばるよ〜〜」
マミとミナがじゃんけんし、マミが最初にサーブをすることになった。
みんな見ているので緊張しているのか、真剣な表情でサーブをした。
モン兄がレシーブし、ボールはしゅさの方向へやって来た。
うわ、ボールにぶつかる……
ボールに当たると思った瞬間、ラケットを持つ手がしゅさをかばった。
持っていたラケットにボールが当たって、相手チームのテーブルにバウンドした。
ボールに当たらなくてよかった……、あれ?
「お、当たったね」
「こういうことってあるんだ」
しゅさのとっさの返球は、ミナにあえなく返球された。
再び、しゅさのところにボールが返ってきた。
絶対、打ち返したい
「わ、わ、あ……」
返球する手を間違えてしまった。
ラケットを持たないほうの手で打ち返してしまうだけでなく、ボールを掴んでしまった。
「しゅさお姉ちゃん……」
「ごめん……」
モン兄が、この次、サーブをした。
今度はマミがレシーブを返し、ボールはミナ側のサイドラインのエッジ近くにあたり1点入った。
「マミちゃん、上手い」
しゅさのところへボールがくると、マミが素早く反応して返球しに来てくれたので、しゅさは後ろに下がって見ていることにした。
「マミちゃん、卓球教えてくれたのに、何もできなくてごめんね……」
「……しゅさお姉ちゃん、卓球はじめてだし、仕方ないよ」
マミの大人びた表情が、しゅさの心を悲しく揺らした。
はじめてするのに素振りしてカッコつけて、わたし、何やってたんだろう。
しゅさはこのまま立ち尽くしているのも申し訳ない気がして、素振りの練習をすることにした。
「しゅさ、何してるの? マミちゃん、1人で闘ってるよ?」
しゅさの様子を見て、母が注意しに来た。
「しゅさがいても足手まといになるから、素振りの練習してるの」
母は娘の頭を撫でた。
「家近くに卓球の練習ができるところがないか、探してみるから時々練習しようか」
「うん」
「今は、マミちゃんの闘いを観て応援しよう」
マミは、ミナやモン兄がサーブや返球するたびに、ミナ側のサイドライン寄りに打ち返した。
ミナがサイドライン寄りにボールが落ちるように打つと返球ミスすることを見抜き徹底的に攻めた。
「……また点数とられた、ごめん」
「変わろうか?」
ミナとモン兄は居場所を交換した。
「見抜かれちゃったか」
2人の配置交換を見て、マミが悔しそうに言った。
配置交換が功を奏したのか、ミナとモン兄グループは対戦の勝者となった。
勝者の2人にはホテルの売店で購入したジュースとお菓子2袋、参加賞として全員に箱入りのお菓子の小分け1個が配られた。
卓球で汗をかいた後、しゅさは悠の家族に誘われてカラオケへ行った。
アニメソングの替え歌を歌ったり、悠の両親の歌に合わせて悠とダンスを躍ったり、楽しい時間を過ごした。
その後、そのまま悠と悠ママ3人で大浴場へ行き、ゲームセンターで遊んだ。
「じゃ、しゅさちゃん、また明日」
「バイバイ、おやすみ」
悠ちゃんとおやすみの挨拶をし、両親の待つホテルの一室のチャイムを鳴らす。
「おかえりなさい」
ホテルの部屋の扉が開き、しゅさの母が笑顔で出迎えてくれた。
「ただいま、ママ」
しゅさは、いろいろ楽しいことや、勉強になることもある楽しい週末1泊旅行を無事終えた。
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