2、五線譜と音符たち
親戚との楽しいお泊り会は楽しく終わり、家族2組の日常生活に戻った。
悠のパパが新しい動画を作ると言い、庭の奥のテラスで作業をしている。
「パパ、わたしも手伝うよ」
「悠ちゃんパパ、しゅさも手伝うよ」
「助かるな、じゃあ、一緒に手伝ってくれるかい? 」
「ぐぐ……粘土硬いね」
粘土をこね終えると、悠パパがみんなでこねて柔らかくなった粘土で、器用に仔犬を5匹作った。
「パパ、すごーい」
「かわいい」
粘土の仔犬をテーブルの隅の方乾かすと、今度は悠パパはノコギリでベニア板を数枚カットした。
カットしたベニア板を、3人で紙ヤスリで削った。
「今度は下地ジェッソをベニア板に塗るよ。乾くのが速いし、塗る面が広いからハケで塗るよ」
新聞紙の上にベニア板を載せて、白い下地を塗った。
「これは白い……絵の具?」
どう見ても白い絵の具を塗っているだけのように見えたので、悠ちゃんパパに尋ねた。
「白い色だけど、アクリル絵の具を塗る前に塗る下地だよ」
「下地って何? これって塗る必要あるの?」
「木に直接絵の具を塗ったら染み込んで綺麗にならないんだ。この下地を塗ったら、まるで紙に塗るみたいに木に絵の具が塗ることができるんだよ」
「ふ~ん」
「下地を塗ったベニア板は、ここのテーブルにそのまま置いて乾かそうか」
塗り終えたベニア板を重ならないように、しゅさと悠は並べて置いた。
「悠ちゃんもしゅさちゃんも、手伝ってくれてありがとう。さぁ、いつものぷぷっぴぴ番組撮ろうか」
「この塗った板は使わないの?」
「これはまだ作ってる途中だから、また今度に使うよ」
悠パパがテーブルの下に置いてある、ショップの紙袋を2個テーブルに置いた。
ショップの紙袋にはそれぞれマジックで、悠ちゃんの衣装、しゅさちゃんの衣装と書かれている。
「この紙袋に入っている、夏バージョンの衣装に着替えて来てね」
「わかった」
着替えて戻ってくると、悠パパが大きな照明とミラーを組み立てていた。
「今日はこのテラスで、サマーぷぷっぴぴダンスを踊るよ。最初の挨拶はこの紙に書いたよ。覚えたら、練習はじめるから教えてね」
「はぁーーい」
悠パパの書いた台本を読んで、悠と一緒に演技の練習をした。
ーーーーーーーーー台本の内容ーーーーーーーーーーー
しゅさ「はぁ~い、みんな元気してた?」ーカメラに向かって手を振るー
悠「今年もソフトクリームが美味しい季節がやって来ました」ーカッコよくポーズを考えて演じるー
しゅさ「今年の夏休み、どこに行くか決めた?」ーほっぺたに片手を置いて、カメラ視線で言うー
悠「ピピは今年の夏、海に行きます」ーくるっと1回、回ってからカッコよくキメポーズー
しゅさ「ププも一緒に行きます」ースキップしてカメラに近づいてから、両手をほっぺたに置いて言うー
悠「みんなは今年の夏休み、どこに遊びに行くのか、コメント欄に書いてね」ー両手の人さし指と親指立てて、人さし指を下に向けるー
悠&しゅさ「今日はぷぷっぴぴダンス夏バージョンを踊ります。ミュージックスタート」ーカメラから数歩下がり、片手を上に上げて、指を3本だけ立てて言うー
ーーーーーーーー台本終わりーーーーーーーーーーーー
「のど渇いた、麦茶飲んでくる」
「私も」
冷房のよくきいたキッチンで、悠ちゃんと2人で麦茶を飲んで休憩した。
「暑くて、もう衣装が汗でびっしょりだよ。冷房のきいたここで撮影するのはダメなのかな?」
「パパに聞いてみよう」
麦茶を飲み終えたしゅさは、涼しいリビングでぷぷっぴぴダンスの夏バージョンのダンスの練習をした。
「はーーい、みんな元気してた? ププはもう暑くてもうバテてます。今年の夏、しゅさは冷房のよく効いた部屋に籠りますぅ」
「あはは」
しゅさのおふざけ演技を悠が笑って見ている。
「ププも一緒に行きますのところ、かわいいキメポーズが思い浮かばないの。どうしよう」
「こういうのはどう?」
悠がぴょんと飛び跳ねてから、手を後ろに回し、上目遣いでしゅさの言うセリフを言った。
この演技を、しゅさが演じるの?
恥ずかしいなぁ、上目遣いとか……鳥肌がでそうだ。
「え~~と……かわいいね。このセリフ、悠ちゃんが言った方が似合うと思うよ」
演技のうまい、悠に任せてしまおう。
「そう? んーー、それだと順番がごちゃごちゃになるから、セリフ全部、交換しようか」
「じゃ、服もウィッグも交換しない?」
悠パパは、しゅさの演じるププを赤髪ウィッグの小悪魔系のかわいいキャラで、悠の演じる青髪ウィッグのお姉系のキャラにすると言った。
……悠パパの書く台本の、ププのセリフがいつもぶりぶり過ぎて、自然体で生きているしゅさにはつらかった。
「いいねぇ」
しゅさと悠は2人でふふふと向かい合い笑いあった。
「あれ?」
悠パパが服装をチェンジしたしゅさたちを見て、大きな口を開けている。
「パパ、セリフなんだけど、しゅさちゃんのセリフ、私が言ってもいい?」
「いいけど……番組的に大丈夫かな」
「悠パパ、汗びっしょりでダンス踊りにくいから、冷房の効いた屋内で撮影して欲しいんだけど……ダメかな?」
「それはダメ。テラスの柱から出て来るシーンも入れたいし、夏バージョンだから青空の下で踊った方が良くない?」
「うう……」
夏の青空と屋内じゃ……そりゃ、青空の方が全然いい。
……暑いけど、がんばって踊るか……
「いくよ! 演技スタート」
よく晴れたテラスで、しゅさと悠は良い動画ができるよう、汗びっしょりになりながらも演技とダンスをがんばった。
早く冷房の部屋に入りたい一心で、がんばったおかげで、いつも間違えで30回以上撮り直しになるところ、今回は16回の撮り直しで済んだ。
「2人ともおつかれさま。休憩したら、機材の片付けの手伝いしに戻ってきてね」
「はーーい」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
週末の土曜日、しゅさと悠は父たちと、再び4人で秋吉台へ遊びに行った。
しゅさと悠は休憩所でアイスクリームを食べていた。
となりの席を見ると、同い年くらいの少女が5才くらいの少年と一緒に、しゅさたちと同じようにアイスクリームを食べている。
ほのぼのとした癒やし系の雰囲気を漂わせた姉弟だった。
「アイスクリームおいしいね」
と、しゅさたちが勇気を出して姉弟に話しかけると人懐っこい性格らしく笑顔で頷いた。
「わたし、しゅさと言うの」
「わたしは悠だよ」
「私の名前はミナ。弟はイツキ。この秋吉台によく来るの?」
「うん、よく散歩に来るよ」
「私もよく遊びに来てるんだ。しゅさちゃんと悠ちゃんは秋之森小学校に通っているよね? いつも運動場でクラスメイトの子らと楽しそうに遊んでるから、私も仲間に入れて欲しいなといつも思ってた」
「ミナちゃん、私たちと同じ秋之森小学校に通ってるの?」
「うん、しゅさちゃんと悠ちゃんは2組だよね」
「ミナちゃんは1組なの?」
「そう、休み時間暇だから遊びに行っていいかな?」
「いつでも遊びにおいでよ」
「嬉しいな」
休憩所から出て、ミナとイツキと4人でかくれんぼをした。
野外の防犯対策として、1人行動は危ないので、2人1組に別れてかくれんぼをした。
「ミナちゃん、イツキくん、僕らも遊びに入れて」
「あ、徹くん。しゅさちゃん、悠ちゃん、親戚の子なんだけど仲間に入れてもいい?」
「いいよ」
全員で12人の賑やかなかくれんぼになった。
とても広ーい秋吉台でのかくれんぼは、しゅさと悠にとって、はじめての体験だった。
鬼役の子から遠く離れて、白い岩の影に隠れていると、全く見つけてもらえず、鬼役が別の子に変わってしまっていることに気づいたので、近くに隠れることにした。
それでも鬼役の子に見つけてもらえないので、少しずつ鬼に近づいていくことにした。
今度は隠れている場所を移動しているうちに近づきすぎてしまい、とうとう鬼に見つかってしまった。
しゅさと悠で2人で鬼の役をする事になったが、みんなは遠くに隠れてしまっているのか、なかなか見つからない。
いろんな所を探していると、ある岩から女の子の肩がはみ出して見えていたので、近づいて行った。
「見つかったぞ、逃げろー」
と声がしたので、しゅさは素早く声がした方向を見た。
小学高学年の男女があわてて逃げていった。
しゅさはその子たちの名前を知らないので何て声かけようか困った。
「見つけたよ…………えーーとそこのお兄さん?お姉さん? ん〜、何か変だな……」
としばらく考えてから声をかけてみたが、遠くに去った後だったのでどうしようもなかった。
名前を知らない小学生の男女のことはあきらめて、ミナとイツキを探すことにした。
「あ、見つかっちゃった」
2階が展望台になっているところの1階の柱の影にかくれているミナとイツキを見つけた。
この次の鬼役はミナとイツキになった。
この次は絶対に見つからないようにしようと、悠と2人で鬼役が来なさそうな所を探した。
大きな岩を見つけて2人でしゃがみ込んでじっとしていると、だんだん眠くなってきた。
眠りそうになっているしゅさを見て、熱中症かもしれないと心配した悠は、父たちのところに戻ろうとしゅさを揺り起こした。
フラフラしているしゅさをおんぶして悠は歩いた。
休憩所に戻る途中で、ミナとイツキに出会った。
「ああ、やっと見つかって良かった。しゅさちゃんと悠ちゃんのお父さんたちと一緒に探してたんだよ」
「しゅさちゃん、気分悪いの?」
「熱中症かもしれない」
「それは大変。これで冷やした方がいいわ」
ミナの母親が叩くと冷える携帯型氷のうを出し、しゅさの首元に当てた。
「早く病院に連れて行った方が……ああ、でも意識がないなら救急車を呼んだほうがいいわね」
ミナの両親がしゅさの状態を見て、救急車を呼んでくれた。
「しゅさぁ、大丈夫か」
しゅさの父は名前を呼んだが、しゅさはグッタリして反応しない。
「うう……、しゅさぁぁ」
しゅさの父はしゅさを抱きしめ泣いた。
「救急車を呼んだので、安心して下さい」
「すみません、秋吉台の見回り班の者です。救急車が来るまでエアコンの効いた休憩所で横に寝かせて置いた方がいいので、お嬢さんを担架で運びますね」
熱中症の熱失神と意識障害で気を失ったしゅさは、その後救急車に運ばれ、近くの市立病院に入院することになった。
奇跡的にも病院に着いてすぐ意識が戻ったしゅさだが、意識障害という重度の熱中症を起こしたので、精密検査を受ける為、1週間病院生活を送ることになった。
深夜の病棟、しゅさは眠れないので起きていた。
「こんにちは」
どこからかそんな声がした。
深夜なのに「こんにちは」は変だと思った。
しゅさは謎の声の言葉に返事を返してみた。
「こんばんはでしょ?」
「そうですね、すみません」
「誰?」
聞き間違えかと思ったのに、謝ってきたので誰かいるのかと尋ねた。
「ここです」
ベッドの下から、全身を包帯で巻いた子供が出て来た。
「あなたは誰?」
「ミイラ男の子供です」
「へ?」
「外国の博物館から逃げて来ました」
外国の博物館……
「外国の博物館って、どんな所か行ったことがないからわからないんだけど……?」
しゅさと同じくらいの身長に見えた。
自称ミイラの男の子は、テレビの横に畳んで片付けていた病院のパイプ椅子を勝手に出して座った。
「知らないなら、別に知らなくて全然いいんです。家出して来たんで」
「家出?」
「私は遺跡から発掘されたんですけど、展示されるのが嫌で逃げて来ました」
「遺跡って、恐竜の骨とか発掘されたりするところだったけ?」
「いえいえ、遺跡は大昔の人間の家や、宮殿や、神殿や、お墓のことです」
「ん……?」
「わからないなら、それでいいんです。お互い、退屈な者同士、お話しませんか?」
「うん」
入院中、深夜になると、ミイラの男の子はしゅさの病室にやって来た。
しゅさに外国の昔話や神話や童話、日本にやって来るまでの冒険譚など、いろんな話をきかせてくれた。
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「ママ、はやくぅー」
「うう……ちょっと休憩させて」
秋吉台に向かう駐車場からの坂道の途中で、母は立ち止まる。
最近、太り気味な母2人を心配した父たちが、秋吉台の散歩に誘ったのだ。
「あともう少しで、アイスクリーム食べられるぞ」
「そうだよ、ママ。アイスクリームが待ってるよ! 一緒に食べよう」
「うう……食べたい」
「アイスクリーム食べるぞ……」
足に重りを背負っているかのような歩みの遅い母たちを元気づけて、坂の頂上の秋吉台へ一緒に登る。
両親らと向かい合わせにアイスクリームを食べていると、となりのベンチにミナとイツキの両親が座っていた。
「こんにちは! ミナちゃんとイツキくんは? 」
「ああ、しゅさちゃん。救急車運ばれた後、意識なかったから心配してたのよ。大丈夫だったみたいで本当に良かった。今日はお母さんも一緒で良かったわね、ミナとイツキは外で遊んでるわよ」
「救急車で運ばれた後、病院で目覚まして、1週間入院してました」
「そう大変だったわね。このペットボトルよく冷えてるからのど渇いたらすぐ飲むといいわ。はい」
「え、悪いので、いいです」
親戚以外の他人から物を貰うとお返しが大変だから貰わないようにと言われているので断らなくちゃ……
「いいのよ。また救急車に運ばれないためにも。どうぞ。イツキとミナにも渡してるの」
どうしよう、断りづらい……
しゅさの肩に誰かの手が置かれた。
置かれた手の主を見ると、しゅさの母だった。
「かなこちゃんじゃない! 偶然、私、まおり、秋が丘中学と高校のとき同級生だった、覚えてない?」
しゅさの母は、ミナちゃんのママに話しかけている。
「え、えーと、ま、おり? えー、うそ、え、ええー、本当にまおりなの?」
自分の母親が、知らないはずのミナとイツキのママと向かい合って話し始めたので、しゅさは驚いた。
ミナとイツキのママとなぜそんなに仲良さそうに喋っているのか?
「ミナちゃんとイツキくんのお母さんは、ママが中学と高校の頃の同じクラスだったらしいね。何十年後に再会なんてびっくりだね。」
と、しゅさが尋ねる前に、父が先読みして説明してくれた。
ミナとイツキのママとしゅさのママは、昔のクラスメイトだったのか。
私も大きくなったら、ママみたいに中学や高校で友だちや知り合いをたくさん作りたいな……
しゅさと悠は、それぞれ自分の親からお金をもらい、休憩所の外の自動販売機で飲み物を購入して飲んだ。
「ここで、こっそりぷぷっぴぴダンスの練習しない?」
購入したペットボトルの麦茶を飲んでいると、悠ちゃんが衝撃発言をした。
「ここで?」
「自動販売機の前でという意味ではなくて、誰も来ない場所を探して練習しようよ」
秋吉台の景色の中で踊れたら楽しそうだけど、ここは観光地だし、他の観光客も来てるし……怒られないかな。
「パパに怒られないかな……」
「動画撮影しないし、みんなの邪魔にならないところで練習するの」
練習するだけなら、家でもいいような気がするけど……
ダンスの練習より、ミナちゃん達と遊びたいな。
「ミナちゃん達がここに来てるみたいだし、探して一緒に遊ぼうよ」
「……じゃ、ちょっとだけ、練習しようよ」
悠ちゃん、真面目だな……仕方ない練習付き合うか。
誰もいないところを探して、2人で練習した。
「おお、これは素晴らしぃ」
しゅさと悠が踊ってる最中に、そんな声がした。
声がした方向を見ると、金髪の背の高い外国人が宙に浮いていた。
悠ちゃんは気づいておらず、ダンスを踊り続けている。
「こんな所で踊ってすみません」
しゅさは観光客として日本にやって来た海外の人につたないダンスを見せたと思い謝った。
空を飛ぶ発明道具の研究をしている、世界的に有名な発明家の人かもしれない。
テレビや映画に出てきそうなほど凄く美形で、図書館で読んだギリシャ神話に出てくるような衣装を着てて……似合っているけど、これはコスプレじゃないのか?
何故、秋吉台にコスプレしている外国人がいるのか?
「続けてくれたまえ、君たちの踊りに合わせて、私がハープを弾こう」
「しゅさちゃん、この人……」
悠ちゃんもやっとこのギリシャ神コスプレ男性の存在に気付いたらしい。
「実に素晴らしい。君たちの素敵な踊りを見て、素敵な曲を思いついたよ。さっき踊っていた踊りをもう一度踊ってくれないかな?」
「はい」
悠ちゃんは、この男性の不思議な点に気づかず、ダンスを踊りだした。
何故、悠ちゃんは変だと気づかないのか?
「君も踊ってくれると嬉しいな」
そのコスプレ男性は踊らないしゅさを見て、悲しそうな表情をした。
「げ、体が勝手に……」
しゅさの体は自分の意思とは関係なく、ぷぷっぴぴダンスを踊りはじめた。
ギリシャ神コスプレ男性が、しゅさ達のダンスに合わせてハープを弾いている。
ハープの音はダンスにすごく合ってていいが、強制的に踊らされているのでつらい。
ダンスが終わり、ハープの演奏も終わった。
終わるまでの間がとても長く感じた。
「無理させたみたいでごめんね。付き合ってくれたお礼に、今回特別に太陽の馬車に乗せてあげよう」
ギリシャ神のコスプレ男性の前に、黄金の馬車が現れた。
「乗って」
「お礼はいいです」
しゅさは気味が悪いので断った。
「遠慮しなくていい」
しゅさと悠の体が、何故か突然宙に浮いて、馬車に乗った。
「きゃーー」
しゅさと悠は悲鳴をあげた。
ギリシャ神コスプレ男性だと思っていたのに……この人は本当の神さまなのかもしれないとしゅさは思った。
馬と馬車に翼が生えていて、空を飛んでるだもの。
「神さまなんですか?」
悠が、ギリシャ神のコスプレ男性に話しかけた。
しゅさは揺れる馬車に落ちないように掴まるのに必死だというのに、悠は呑気に質問している。
「そうだよ。私の名前はアポロン。今、この国でオリンピックしてるから観に来たんだ」
「オリンピックを観に来た神さまが、何故、秋吉台に来てるんですか?」
しゅさは早く降ろして欲しいので、ちょっと意地悪な質問をした。
「この地に友だちが住んでるから、時々遊びに来るんだよ」
「友だちって、神さまのですか?」
「そうだよ」
「すごーーい、会ってみたい」
好奇心旺盛な悠ちゃんが嬉しそうに目を輝かせていることが、しゅさは見なくてもわかった。
もしかしたら、このままこの神さまの住んでいる世界に行きたいとか言い出して帰れなくなる可能性もあるのだろうかとしゅさは怖くなった。
「人間の目では耐えきれないくらい、神々しい方々だから、会わない方がいいと思う」
「そうなんだ、残念」
悠ちゃん、降ろしてと神さまに頼んで……
空飛ぶ馬車は、秋吉台だけでなく、いろんな所を飛んで走行した。
「神さま、素敵な景色を見せてくれてありがとう御座いました」
「こちらこそ、一緒に過ごせて楽しかったよ。ありがとう」
もといた秋吉台の誰もいない所に空飛ぶ馬車は降り、しゅさと悠を降ろしてくれた。
「しゅさちゃん、無理に馬車に乗せてごめんね。これからいろいろ大変かもしれないけど、君たちの人生が輝きに満ちたものであるように願うよ。バイバイ」
「さよなら」
しゅさと悠は、馬車で去っていく神さまに手を振った。
休憩所に戻ると、しゅさの父と悠パパはベンチに座り、2人ともノートパソコンを出して仕事をしていた。
「あれ、ミナちゃんのママともう喋ってないの?」
「帰ったわよ」
「ええーー」
まだミナのママと休憩所で喋っているだろうと思っていたしゅさはガッカリした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから1週間後、なんと家にミナとイツキがやって来た。
しゅさの母は、車で家に通ってくれる生徒がなかなか集まらないので、ヴァイオリンだけでなくピアノ教室も頑張って経営している。
ミナはピアノの体験教室にやって来たのだった。
イツキのほうは、ピアノもヴァイオリンにも興味がないようなので、悠含め3人で庭から少し離れた場所にある、屋根のあるテラスで遊ぶことにした。
テラスのテーブルで、学校の図書室で借りたおりがみの本を見ながら、一緒に折った。
「ここ、どうやって折るんだろう? 簡単そうに見えたのに何かこれ、難しいのかな?」
「難しいから辞めて、紙ヒコーキにするよ」
しゅさが折り紙の本で苦戦しているのを見て、イツキは折ってる途中で紙ヒコーキに変更し、折りなおしている。
「ウ~〜ン、何か違うな……」
しゅさは、難易度を下げ、別のものにチャレンジしていたが、それでも苦戦していた。
ズレるたびに折り直して、折り紙がヨレヨレになってしまっている。
イツキはレベル1の星マークの紙ヒコーキを折りあげ、飛ばして遊んでいる。
悠はレベル2の腕時計を、折り紙の色を変えてたくさん折っている。
しゅさは紙ヒコーキを飛ばして遊んでいるイツキが羨ましくなってきたので、レベルを下げ紙ヒコーキを折ることにした。
おりがみの本に、いろんなデザインの紙ヒコーキが乗っているので、全部折ってみることにした。
「できた。どの飛行機が長く飛ぶかな? えい、やっと」
「あー」
風が勢いよく吹いて、私とイツキの紙ヒコーキは一緒に、家の敷地の外へ飛ばされてしまった。
家の裏門を出て紙ヒコーキを取りに行くと、たまたま外を歩いていたおねえさんが紙ヒコーキを拾って渡してくれた。
「あなにやし。空にまがふ、青丹と桃花の鳥二つ。ゆめ失したまふなよ。いざ、受け取れ」
おねえさんはそう言って、私たちに微笑みかけてきた。
何を言っているのか全くわからないので、尋ねようとした。
が、おねえさんの服装、全身、頭から足までを見たら、何て尋ねたらいいのか、わからなくなってしまった。
それくらい、しゅさとイツキは、そのお姉さんの姿に釘付けになってしまった。
頭の上にのせている蛇のティアラはキラキラと宝石がついててキラキラ光って眩しい。
赤、透明、薄緑、薄ピンク、紫のカラフルな宝石にゴールドのネックレスとピアスもキラキラ光っている。
ワンピースは濃い赤紫色合いの生地に、カラフルな鳥やドラゴンや亀や蛇の金の刺繍でギラギラ輝いており、そのワンピースからのぞく白い布が日光に反射して虹色でもっと眩しい。
そして極めつけは腕に巻かれた虹色のマフラー、まるで生き物のようにずっとたなびいて揺れている。
靴も高そうな黄金のサンダルを履いている。
その姿にくぎ付けになっていると、突然、そのおねえさんが私に声をかけてきた。
「子よ。近き比、この屋よりいと優しき楽の聞こゆるを。吾は千年を隠り居れば、この世の琴を知らず。語り聞かせてたぼれ、小さき人よ」
おねえさんが何語をしゃべっているのかわからず、しゅさは呆然と立ちつくした。
イツキが人さし指で、しゅさの腕をつついて小声で言った。
「しゅさちゃん、知らない人に誘われてもついてっちゃダメなんだよ。戻ろうよ」
「うん。あ……、えーと、おねえさん拾ってくれてありがとう。バイバイ」
おねえさんが私たちに話しかけてこようとしていたが、イツキが早く戻ろうと言うので家に戻ることにした。
不思議なマフラーのおねえさんの話を体験教室を終えた母たちにしたら、となりの家まで車で15分もかかるのに作り話じゃないかと信じてもらえなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あれからしゅさは7月の終わり頃、8さいになった。
しゅさは両親と悠の家族と全員で、日課の庭の草むしりをしていた。
あまりにも暑いのでプールに入りたくなってきた。
「パパ、家のプールをみんなで掃除して、入れるようにしようよ」
「プール、藻とかいろいろ浮いてて、掃除大変なんだよな……」
と去年も言い、去年は家のプールに入らなかった。
「みんなで掃除すれば、すぐ掃除終わるよ」
「しゅさ、悪いけどママはプール掃除に参加できない」
「え~~、何で?」
「明日、ピアノのレッスンが2件も入ってるの。その段取りも考えないといけないし、草むしりが終わったら夜ごはんの準備もお風呂掃除もしなきゃいけないし、ごめん、無理」
「そうだ、しゅさ。夏休みに入ったら、みんなで下関の海に行こう」
「わーい、海に連れてってくれるの?やったーーーー♫」
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実際の秋吉台は、眺めを観て楽しむという観光地です。
子供が遊べる遊具のような造りはしていないですし、この小説のように鬼ごっこすると、予想もつかない行動をする子供もいるし、行方不明になる可能性もあるので気をつけて下さい。
何故、じゃあ、こんなマネをするかもしれない内容を書いたのかと言うかというと、マネして欲しい目的ではなく、フィクション作品として楽しく読んで欲しいからです。
あえて書くことで、第三者の視点で読む事で、子供の遊ぶ場所が減っていってる今の日本の現状に気づいて欲しい目的もないわけではないので、気になる方はこれをきっかけになればいいなとも思います。




