1、秋吉台と音符たち
何十年何百年後も、秋吉台と秋芳洞に観光客がいますようにという願いを込めて、山口県美祢市の秋吉台と秋芳洞付近をテーマにフィクション要素も入れて書きました。全く違う地域も出して、いろんな人達が出てくる話にできたらいいなと思います。
内容に問題ありと注意を受けた場合、内容を少し変える場合もあります。
ド素人の書く小説なので、わかりにくい部分や誤字もあるかもしれませんが温かい目で見逃して下さい。(誤字脱字などに気づいた場合、修整して話が少し変わる場合もあります)
【本作品に登場する人物・団体・名称・事象は架空のものであったり、実在のものとは異なる部分がありますことご容赦ください】
約三億五千年前ごろ、山口県にある秋吉台と秋芳洞は海底にありました。
長い年月をかけて海底にはサンゴ礁が積み重なり、やがて白い石灰岩へと姿を変え、その後海底は少しずつ陸へ盛り上がり、今の秋吉台の姿になりました。
秋吉台に雨が降ると雨水は石灰岩の地面に染み込み、地下の岩を削っていき、今の秋芳洞が出来ました。
西暦2☓XX年の春、山口県美祢市にある秋吉台と秋芳洞は、人類によって大切に管理されていた。
日本は今よりさらに高齢化が進み、山口県美祢市も過疎化で、天然記念物指定の受ける秋吉台と秋芳洞の維持も難しくなっていました。
月に1回、秋吉台の近くにある秋が丘中高一貫校が地域自治体と協力して、秋芳洞と秋吉台の清掃の手伝いを行うようになりました。
よく晴れた春の暑い日、秋吉台にある休憩所のベンチで40代後半と30代後半の父親2人と4歳の幼稚園児2人がアイスクリームを食べていた。
冬尾しゅさと、冬尾悠4さいがアイスクリームを食べていると、空き缶をトングで掴んでゴミ拾いをしている学生の姿が見えた。
しゅさと悠は何をしているのか、気になったので父に尋ねた。
「あのおねえさんとおにいさんは、何をしているの?」
「ゴミ拾いをしているんだよ」
「しゅさもやる! 」
「悠もやるぅ」
となりで食べていた父が、コーンの最後の一口を口に放り込むと、笑顔で答えた。
「あはは……しゅさ、悠ちゃんも急いで食べないとアイスクリーム溶けちゃうぞ」
「わーー」
食べかけのアイスクリームがコーンから今にもこぼれ落ちそうになってるので、しゅさは慌てて頬張った。
しゅさの父親の仕事は作曲家で、曲づくりに行き詰まったときには気分転換のために、よく秋吉台へ出かけた。
今日は、同居中の親戚の家具職人兼ユーチュバー兼ネットショップの店長の悠ちゃんのパパと悠ちゃんも一緒に秋吉台に遊びに来ていた。
「パパ、みんなにヴァイオリン聴かせてあげたい。今度来るときはヴァイオリン持って来ていい?」
「わたしもここでピアノ弾きたい」
しゅさの母親は元ヴァイオリニストで、現役ピアノとヴァイオリン教室の先生として働いているので、しゅさも悠も3さいの頃からヴァイオリンとピアノを習っていた。
秋吉台はいつも観光客で賑わっているので、毎日練習している曲をたくさんの人たちに聴いてもらえるとしゅさらは思ったのだ。
「この秋吉台には静かな場所を求めてやって来ている人も多いんだ。だからここではみんな静かに過ごすという暗黙のルールを守ってるんだよ」
ここではヴァイオリン弾けないんだ、こんなにたくさん人がいるのにと納得がいかない様子のしゅさらを見て、父は提案した。
「ゴールデンウィークに親戚がいっぱい家にやってくるから、みんなの前で演奏してみるか?」
「えーー」
「恥ずかしいからやだ」
父と一緒に秋吉台の散策コースを歩いていると、小学生くらいのおねえちゃんが白い岩にしがみついていた。
「このおねえちゃんは、何をしているの?岩ゴツゴツしてて痛くないのかな?」
父に尋ねた悠を見て、父は困った表情をしたので本人に尋ねてみることにした。
「何してるの?」
「何の遊びしているの?」
岩にしがみついている8、9さいくらいに見える少女にしゅさと悠が話しかけた。
「地球とおしゃべりしているの」
とおねえちゃんが答えたが、悠もしゅさも何を言っているのか理解できなかった。
岩がおねえちゃんに話しかけてくるのかと思い、マネをしてみることにした。
「おーーい、もしもし……?」
「何も話しかけてこないよ?」
ゴツゴツの岩に声をかけて耳を近づけてみたが、声どころか何の音すらも聞こえてこなかった。
「心を静めて岩と風と台地と心を1つにすると声が聴こえてくるの」
「……」
秋吉台は春の夕暮れどきで暗くなりかけていた。
知らないおねえちゃんの顔が夕暮れで暗いせいか、とても不気味に見えた。
しゅさも悠もこわくなり、父にしがみついた。
「お父さん……こわいよ」
「パパこわーーい」
「あのおねえちゃんは……しゅさも悠ちゃんも、もう17時過ぎてるし、そろそろ帰ろうか」
「……うん」
もう一度あのおねえちゃんのほうをおそるおそる振り返ると、まだ岩にしがみついていた。
しゅさと悠は、自分の父親と手を繋ぎ、秋吉台を後にした。
「海〜〜」
20代後半くらいの女性が大慌てでやって来たという様子で、秋吉台に現れ、誰かを探している。
海、海と叫びながら、秋吉台を歩き回っている。
岩にしがみつき幼児らに気味悪がられた少女は、海、海と叫びながら歩き回っている女性の声に気づくと岩から離れ、その女性に近づいた。
「お母さん、どうしたの?」
「ああ、良かった。一緒に来てたこと忘れてて、途中で気づいて引き返して来たの」
「わたしは大丈夫よ。家に帰ろう」
「海、ごめんね、ダメなお母さんで……うう」
「ううん、お母さんいつもありがとう」
海は少女の名前らしい。
海と呼ばれた少女は、泣いている母親と手を繋ぎ、家に帰って行った。
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よく通る数十人の子供の騒がしい声とバタバタと廊下を走る振動がしゅさと悠の共有部屋まで響いてきた。
親戚の子らが家にやって来たのだ。
1ヶ月後のゴールデンウィーク、秋吉台で祖父母らがやって来ると父が教えてくれた日がやってきたのだ。
バタバタ……
親戚の子供の到来に気づいて、しゅさがピアノの楽譜を片付けていると、
バターーーン
部屋の扉が勢いよく開いた。
「しゅさちゃーーん、遊ぼーー」
「キャハハー、ドシーン」
「やめろって」
「くぇー」
「押すなぁー」
「痛ーーーーい」
「ああーん」
「押すからぁ、タっくん泣いちゃったでしょ?」
数分前までとても静かだった部屋が急に騒がしくなった。
3さいから小学6年までの子供12人がしゅさと悠の2人部屋に集結しているのだ。
「ピアノ弾いてたでしょ? 1階まで聴こえてきたよ」
「しゅさちゃん、ピアノじょうずになったね」
「バイエルの上か、わたしのと表紙ちがう。かわいくていいなー」
小学生のユカ姉ちゃん、サキ姉ちゃん、ミスズ姉ちゃんがわたしが持っているピアノの教本を見て言った。
「あれ、悠ちゃんは?」
「パパたちのお手伝いしたいって、食堂に行っちゃった」
「悠ちゃん、えらいね。手伝うの……めんどいよね」
「毎日、掃除手伝うのしんどくない?」
「いっぱい手伝うと欲しい物買って貰えるから頑張ってる」
「いいなぁ、わたしもここに住もうかな」
「オレのほうがもっとじょうずに弾けるぞ」
「ボクのほうがうまいぞぉーー」
2人の男児の大きな声がしたほうを見ると、部屋に置いてあるピアノのところにモサトくんとハヤテくんとヒビキ兄ちゃんがいた。
しゅさより1つ年上の幼稚園年中組のヒビキ兄ちゃんが、しゅさのピアノのイス座って弾いている。
モサトくんとハヤテくんは、ピアノを弾いているヒビキ兄ちゃんを挟んで、自分のほうが上手いと言い合っている。
しゅさと同じ歳の男児モサトとハヤテとの2人はしゅさのピアノのライバルでもある。
彼ら2人は、ヒビキ兄ちゃんがピアノを弾いているとなりに強引に座ると、連弾をはじめた。
同じ頃にピアノをはじめたので、しゅさも彼らに負けたくないので、彼らの動向はいつも母から聞き出し、チェックしている。
彼らが何を弾いているのか、とても気になるので、しゅさはピアノに近づいた。
モサトくんとハヤテくんが鍵盤に乱暴に叩きつけるように、わざとめちゃくちゃに弾いているので、しゅさは彼らが下手くそだからこんな弾き方しかできないんだ言ってやろうと思った。
「ふ~ん、これだったら、しゅさのほうがもっと上手に弾けるもんね」
「じゃ、弾いてみろよ」
「ボク達より、下手くそだったら、今日のしゅさちゃんのおやつ全部もらうよ」
ピアノの前にみんな集結し、モサトとハヤテとピアノ対決をすることになった。
対決曲は、ベートーヴェンのよろこびの曲だ。
じゃんけんで弾く順番を決め、モサトが1番始め、2番はハヤテ、しゅさは最後になった。
対決に勝ったごほうびとして、負けた人の分のおやつをもらえることになった。
しゅさはライバルに絶対に負けたくなかったので彼らの演奏中に指のストレッチをして気合いを入れていた。
よく知っている親戚の子らの前でも、ミスは絶対にしたくない。
指のストレッチ後にしゅさがスーーハァーーと深呼吸していると、しゅさより1歳年下のマミちゃんが私のマネをしてス〜ハァ~と言った。
マミちゃんがニコニコ笑いながら私のマネをするので面白くなり、私はフザケて両手をぶらぶらさせ足もバタバタしてみせた。
私のした動きをまた上手にマネるので、今度は難易度をあげて、最近ペーフッシェの動画で流行っているカーブッバッレップpopダンスを踊ってみた。
まみちゃんもそのダンスを知っているのか、私よりも上手に踊っている。
「ああ、ごめーん、マミちゃん」
首を1回ぐるりと回し、足を前に踏み出し、最後の決めポーズのはずがふらついてしまい、マミちゃんにぶつかってしまった。
そんな私たちを観て、他の親戚子らも「知ってる」と言い、それぞれ踊りはじめた。
「おーーい、しゅさちゃんの番だよ」
「みんな聴いてないし……」
「あ、それ、オレも知ってる。オレスゲー上手に踊れるぜ」
「何それ、それ今流行ってるの?」
「これだよ、この動画観て」
幼稚園児3人のピアノ対決が、いつの間にか、お気に入りのダンス披露しあいっこ対決に変わっていた。
小学生のミスズお姉ちゃんがポケットから自分のスマホを出し、部屋にあるオーディオのアンプに繋いだ。
リズミカルでカッコいい曲が、部屋内を駆け巡った。
ミスズお姉ちゃんはその音楽にあわせて、リズミカルに体を左右に動かし、膝を曲げて上下にバウンドさせるように踊り出したので、私たちもマネして踊った。
いつの間にか中学生のお兄さんたちが部屋にやって来ており、スマホの曲にあわせて、自ら持参したフルート、バイオリン、チェロ、ユーフォリズム、オーボエ、クラリネットを取り出して弾いていた。
広い洋室が、20人超えの親戚で埋まって悲鳴をあげてるようだが、しゅさはとても幸せな時間を過ごした。
「な、なにあれ?」
「飛んでるぅーー、おばけぇーー」
「ぎゃーーおばけぇぁぁ」
一緒に踊っていた3さいのマミちゃんと、サトくんと、タっくんがいきなり大きな声で騒ぎ出した。
「どうしたの?」
「な、なに、マミちゃん、タっくん、サトくん?」
「虫?やだぁ」
「虫じゃぁなーーい、おばけぇーーー!」
「人だからユウレイだよぉ」
「キラキラな服着たお雛様が飛んでこっち見てた」
「みんなに言ったら、急に消えたんだよぉーー」
「わたしたち見て笑ってたぁーー、こわいよぉーーー!」
「ユウレイと目があったよぉ~、え~~ん」
3人は、天井のほうを指さしてわめいている。
しゅさらは、ゆび指さしたほうをよく見回したが、ただの天井しか見えなかった。
「幽霊が見えたって、写真撮ったら写るかな?」
「心霊写真、撮れるかな?」
「……幽霊なんて、怖い。今日からもう1人で寝られないよぉ……こわいよぅ、ええーん」
この部屋に幽霊が出たなんて、もう怖すぎてにいたくなくなってきた。
しゅさは怖くてたまらずに、泣いた。
部屋の持ち主であるしゅさが泣き出したので、親戚の子供たちは大慌てでしゅさをなぐさめはじめた。
「見間違えだよ。ね? タっくんたち、車の中で寝てたから寝ぼけちゃったんだよね、ね?」
「うん、ごめん、しゅさ姉ちゃん、見間違えたかも」
「……う、うん、ボクたちすごく寝ぼけてた、ごめんなさい。しゅさ姉ちゃん」
「わたし、今日、しゅさちゃんと一緒に寝てあげるから、大丈夫だよ」
「わたしも今日一緒に寝てあげるから……ユーレイ出て来たらみんなでやっつけよ。だったら、こわくないでしょ?」
「……うん」
ーーピンポンパンポーン
「おーい、もう肉焼いてるぞーー!食べたい人は庭に集合ぉ〜〜!」
「この声、悠ちゃんパパじゃない?」
部屋のスピーカーから、悠ちゃんのパパの声で館内アナウンスが入った。
部屋から出て一階の庭が見える窓から下を覗くと、バーベキューで焼いた食材を丸太で造ったベンチに座って、もう既に大人たちが食べていた。
しばらく、しゅさ達が庭の様子を眺めていると、さっきまで一緒に部屋にいた数人の子供が姿を現し、大学生のナオキ兄さんからお皿を受け取っている。
「ああ、ナツ兄ちゃんたち、いつの間にぃ、ズル〜い」
「わたしたちも庭に行こか」
「行こ、行こ」
ナオキお兄さんが網にのっている野菜を焼いてくれ、トングで装ってくれた。
肉が網にへばりつてしまってるのか、じょうずにとれず、お兄さんが苦戦している。
「ごめんな。牛脂塗るの少しだったから焦げてしまった。これはもう真っ黒だから、つぎに焼けるまで待ってて欲しい」
「うう……」
「ナオキ。ほらよ。牛脂」
ナオキ兄さんの持っている皿を見ると真っ黒に焦げていた。
背後から彼のパパがヒョイと現れ、牛脂を手渡した。
「油塗るのやってみたい」
「しゅさちゃんは小学生になってからね。焼けたら持って行ってあげるから、空いている椅子に座って待ってて」
ナオキ兄さんのパパが、庭の空席の丸太のベンチを指さし言った。
「ここで見てていい?」
「……うーーん、じゃあ、もう少し離れたところでおじちゃんと一緒に見てようか? 」
ナオキお兄さんが網の焦げを落として、牛脂をトングでつかみ、網に塗っているのを見ていた。
しゅさもお兄さんと同じようにやってみたくてたまらなかったけどガマンした。
牛脂が網に触れるたびにジュージューと良い音が鳴る。
牛脂の溶けた脂のしずくが網から落ちて、炎が激しさを増す。
「あっつ~」
ナオキ兄さんが熱さに耐えきれず、網から離れたので、見ていたナオキ兄さんのパパが代わりに手慣れた動きで素早く牛脂を塗り、野菜や肉を次々と焼き始めた。
よい焼き加減になった頃合いになると、お代わり組がたくさんやって来ていた。
「野菜入れんといて、肉もっと入れて」
「好き嫌いしちゃダメ、いっぱい入れるからな」
「ええええーーーー」
「やめてくれぇ」
「うわー」
「いやー」
「捨てるぅーー!」
「捨てたら、デザート抜き」
「ええええーーーー」
お代わりした子供は全員、次は野菜大盛りで食べる事になった。
肉を食べたくても、皿に盛られた野菜をぜんぶ食べないことにはおかわりができないのだ。
しゅさは野菜も大好きなので、5回もおかわりできてしまった。
お腹がいっぱいになったので、しゅさは食べ終わったお皿を家のキッチンまで持って行った。
キッチンでは両親含め大人らが分担し、手際よく包丁でカットしたり、煮物を茹でたり、皿を洗っていた。
それらを見ていて、しゅさも一緒にやりたくなってきたので、近くでじゃがいもの皮を剥いてた父に声をかけた。
「しゅさも手伝う」
「ああ~、助かるなぁ。しゅさ、冷蔵庫から缶を出して、そこにある袋に入れて、みんなのところに持っていって欲しいなぁ」
「うん」
冷蔵庫を開けると、見たことない缶ジュースやお酒の缶がたくさん入っていた。
お店屋さんごっこがしたくなるほどの、たくさんの缶だ。
しゅさは、缶を次々と床に並べてみた。
全部並べてドミノ倒したら、缶同士がぶつかっていい音がするんじゃないかと思った。
缶を並べ終わってから、さぁ、倒そうと後ろを振り返るとしゅさが並べた缶を父がひょいひょいと袋に入れており、これ以上遊ぶことは叶わなかった。
缶のドミノ倒しができず、つまんないとしゅさがふてくされていると、白ぶどうの缶ジュースを父が手渡してくれた。
「のど乾いたでしょ? 白ぶどうのジュース呑んだら、お手伝いしてね」
「は〜~い」
バーベキューの片付けも終わり、40人以上の親戚がリビングに集合した。
40人以上の人間が集えるこの家、しゅさと悠のひいおじいちゃんが元研修施設だった場所を購入し改装工事をして、親戚全員がいつ遊びに来ても住めるようにしてくれたので、とても広いのである。
この巨大な家は住宅街から離れたところにあり、交通の便がとても悪いため、大型連休や長期休暇時くらいしか、他の親戚は遊びに来ない。
しゅさが両親とソファで座って、悠ちゃんと人形を持ちこんで着せ替え遊びしていると、親戚の伯父伯母らが両親らに声をかけてきた。
「ちょっといいかな?」
「しゅさちゃんも悠ちゃんも一緒に聴いて欲しいんだ」
話しかけてきた親戚は、ハヤテくんのパパママと、ナツ兄ちゃんのパパママがいる。
悠ちゃん家族もマミちゃんとモン兄ちゃんの家族も、いつの間にかやって来ている。
ハヤテくんのパパが先に話を切り出した。
「祐一さん、真織さん、突然改まった話ですみません。少しご相談させてください。実は秋が丘中高一貫校に採用が決まったんです。自分は教員寮に入らなきゃいけなくて。学校の周りに幼稚園が1個もないんです。本当に勝手なお願いなのは百も承知なんですけど、妻とハヤテだけこちらに住まわせてもらうわけにはいかないでしょうか? 」
「ここの管理、掃除やゴミ出しや料理、当番制で分担してるんだ。それでいいなら大歓迎だよ。なんなら今日からでも全然構わないよ。あと、細かいことは後で話そうか」
しゅさの父親は、しゅさとハヤテくんの方をちらっと見、それからハヤテくんの両親の顔をそれぞれ見て微笑んだ。
ハヤテくんの両親も、視線だけの会話を理解したのか、同意の返事としてうなづいた。
「秋が丘中高って言ったら、わたしの母校じゃない。寮制だけど……大丈夫なの?」
と、しゅさの母が驚いて声をあげた。
しゅさの母は、近くにある吹奏楽とスポーツの強豪校で有名な秋が丘中高一貫校に通っていたと母がいつもしゅさに話してくれる。
ハヤテくんの家は東京にあると、そういえばパパが教えてくれたな。
難しい言葉だらけでよくわからないから、あとでパパとママにきこうっと……と思っていると、いきなり誰かに人形をひったくられた。
犯人はハヤテくんだった。
しゅさと悠ちゃんの人形を奪い取るとそれぞれ片手で持ち、人形をぴょんぴょんジャンプさせながら、追いかける2人から逃げた。
「わたしのるるちゃん、返してよ」
「これから、毎日ピアノでしごくからな」
「しごく?」
「何それぇーー」
「オレはぜってー、コンクールに優勝して超1流のピアニストになるから、しゅさちゃんも悠ちゃんもコンクールにでて、ボクのこやしになるんだぞ」
何故、ハヤテくんがいきなりそんなことを言ってきたのか、しゅさにはわからなかった。
東京には、たくさん会社やビルやお店や家や学校がいーっぱいあるってパパとママが言ってたな。
ハヤテくんはいろんなものが沢山ある東京に住んでいるから、しゅさの知らない単語をいーっぱい知っているのかもしれない。
しゅさも負けてられない、ハヤテくんに負けないよう、わたしも頑張ってみんなの話を聞くんだ。
親戚の伯父伯母さんらに体の向きを変え、真面目な顔をし、さも今まで話を聴いてましたという素振りで、しゅさはイスに座った。
ナツ兄ちゃんの父親が話しだしていた。
「去年、私が芸樹祭で出品した作品が最優秀賞とれただろ?」
「ああ、樹兄さんの作品、すごかったなぁ。なぁ、しゅさも家族で観に行ったよな? ほら、すごく大きくてザラッとしたトゲトゲとした彫刻だよ」
「ザラッとしたトゲトゲ、ああ……うん、すごい大きなちょーこくだった」
ナツ兄ちゃんのパパは、父の従兄弟で彫刻家をしている。
ナツ兄ちゃんのママのほうは、コンクール入選の常連画家の芸術家ファミリーだ。
「それからずっと行き詰まってて……ここに来る前に秋芳洞の黄金柱と百枚皿観てから来たんだけど、いい作品がたくさん作れそうな気がするんだ。2ヶ月後にここに引っ越してきていいかな? ……ここの管理、家族2組だけじゃ大変だろ? りさちゃんの工房の手伝いもしたいし」
「ここの管理すごく大変だよね、兄さん。私たち家族も工房の手が空いた時にでも手伝うよ」
と、言ったマミちゃんとモン兄ちゃんのママのりさちゃんは、しゅさの父の妹で、秋芳洞近くに工房を持ち夫婦で働く陶器職人さんだ。
伯父伯母らの言葉を聴いて、しゅさの両親がすごく嬉しそうにしている。
しゅさは、よく知っている名称が出てきたので、伯父伯母らの視線が自分へ向かうよう、両親らの前に身を乗り出し興奮気味に言った。
「秋芳洞! おじさん、わたし、秋芳洞行きたいんだ! まだ行くの早いとか言って、全然なかなか連れってくれないのぉ、おじさんが秋芳洞に行く時はしゅさも誘って! 」
「……しゅさ、しっ、パパたち、まだ喋ってるでしょ?」
伯父伯母さん達が私の顔を見て、ニコニコ笑っているので私は引き続き喋ろうとしたら、ママに静止されてしまった。
「え、しゅさちゃん、まだ秋芳洞行ったことないの?」
「こんなに近くに住んでるのに?」
「そりゃ、去年のしゅさちゃんの大暴走ぶりは、すごかったけど、秋芳洞行ってももう大丈夫じゃない?」
秋芳洞の近くに住んでいるのに、まだ一度も秋芳洞に行ったことがないしゅさの存在を知って、みんなびっくりしている。
「私も一人っ子の親だから気持ちはわかるけど、もういいでしょ?」
「しゅさちゃん、9月にしゅさちゃんの家に引っ越してくるから、いつでも秋芳洞に行けるよ」
ナツ兄ちゃんのママとナツ兄ちゃんが私に近づいてきて笑った。
9月からナツ兄ちゃんたち家族と一緒に住むんだ、秋芳洞やいろんな所へ遊びに行けるかもしれない。
「やったーー!」
「ああ、ダメだーー! 目を離した隙に、秋芳洞の濡れた床にしゅさが足を滑らせて、洞窟の川に落っちゃうじゃないかと思うと怖いんだぁーー」
私が喜んでいると、しゅさの父親が立ち上がり叫んだので、びっくりして後ろのめりに倒れそうになった。
ナツ兄ちゃんのママがしゅさが倒れないよう手を添えてくれた。
「しゅさが足を滑らせて、秋芳洞の川に落っちゃうじゃないかと思うと怖いんだぁーー」
「あーー、はいはい……ちゃんと私とナツが、しゅさちゃんが川に落ちないようにガシッとガードしてあげるから、大丈夫だってぇ」
他の親戚たちは全員、自前の楽器を所持してリビングに集まっており、私たち以外の家族はそれぞれ演奏している。
広いリビングを見渡せる一段高いステージ台に、しゅさの祖母がマイクを持って立つと、みんな注目した。
「今日は良い天気に恵まれ、みんなでおいしくバーベキュー食べましたね。おいしいバーベキューを食べることが出来たのは手伝ってくれた皆さまとナオキくんのおかげです。本当にありがとう」
マイクを持って話す祖母、その近くでヴァイオリン弾いている祖父の2人様子が、しゅさにはとても素敵に見えた。
今はもうおじいちゃんもおばあちゃんも交通の便の良い都市部に住んでいるけど、昔はみんなでこの大きな家に一緒に住んでいたと父から聴いた。
ああ、私も冷蔵庫から出した缶を並べるのに夢中になったり、ジュース呑んだ後に忘れなければ祖母に褒めて貰えたはずなのに惜しいことしたなとしゅさは思った。
「今日のみんなの合奏のテーマは、幼稚園児の3人がオリジナル版ベートーヴェンのよろこびのうたを弾けるようになったお祝いとして、みんなで合奏しましょう。楽譜をコピーしてきたので、みんな取りに来てね」
おばあちゃんがコピーしてくれた楽譜を見ると、他の楽器の楽譜も載っていて、ごちゃごちゃして見づらかったので丸めてテーブルに置いとくことにした。
しゅさはたくさん練習したので、もう見なくても弾けるのだ。
リビングにあるグランドピアノは1台だけ、親戚で合奏する時はいつも祖母が弾いているが、今回は幼児3人で分担して弾くことになっている。
ピアノを弾かない時は、しゅさとモサトくんはヴァイオリン、ハヤテくんはフルートを弾く。
リビングのテーブルに置いていたヴァイオリンのケースを開け、弦に松脂を塗っていると、ハヤテくんがふざけて私たちの顔をのぞき込んで、変顔でじゃましてくる。
松脂とは何かというと、ヴァイオリンの音を出すために、絶対に必要な弦に塗る透明で明るい茶色のアイテムだ。
「ふぇーー、ふぉぉーー」
「うーー」
「やめてよぉ」
「こら、ハヤテ。しゅさちゃんとモサトくんの邪魔しない」
ハヤテくんのママが気づいて注意してくれたので、しゅさは大切な松脂を無駄にせずに済んだ。
もう少し遅かったら、ハヤテくんのおデコにおもいっきり松脂を塗ってしまうところだった。
演奏会がはじまり、わたしたち幼稚園児組が弾きやすいようにみんなゆっくり弾いてくれたおかげか、交代するパートがくるまでミスなく弾くことができた。
交代するパートに近づいてくると、祖母が手を繋いでピアノ前まで誘導してくれた。
「まちがえてもいいから、みんなで楽しく弾こうね」
そう言って、おばあちゃんがわたしのほっぺたに両手で触れて微笑んだ。
「うん」
ピアノの椅子に座り、さぁ、私の番だと弾こうとして、しまったと思った。
最初から弾くんじゃなかったんだ。
どこから弾けばいいのか、ちゃんと楽譜をチェックしておけば良かった。
よろこびのうた、あれだけ練習したのに頭ん中真っ白で思い出せない……
曲の途中から入ってこられるように、みんなゆっくり演奏してくれているのに、よろこびのうたをド忘れしてしまったため、とりあえず思い出せる曲を弾いてごまかすことにした。
「ふふふ」
「ぷっ」
今の迷子の心境をあらわすように、犬のおまわりさんの曲しか思い出せなかった。
心優しい親戚たちは、誰一人怒らずしゅさに合わせて、一緒に犬のおまわりさんを合わせて弾いてくれたのでした。
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実際の秋吉台は、眺めを観て楽しむという観光地です。
子供が遊べる遊具のような造りはしていないですし、2ページ目に書かれているように鬼ごっこすると、予想もつかない行動をする子供もいるし、行方不明になる可能性もあるので気をつけて下さい。
何故、じゃあ、こんなマネをするかもしれない内容を書いたのかと言うかというと、マネして欲しい目的ではなく、フィクション作品として楽しく読んで欲しいからです。
ちなみにこの
あえて書くことで、第三者の視点で読む事で、子供の遊ぶ場所が減っていってる今の日本の現状に気づいて欲しい目的もないわけではないので、気になる方はこれをきっかけになればいいなとも思います。
公園も遊びづらくなりました。子供はどこで遊ぶのがいいのでしょうか?




