0層 死に体スリーマンセル
「っと、ヤング(妹)ちゃん起きたんだな……なんか髪伸びてるけどイメチェン?」
氷の領域が解除され、最初に出迎えてくれたのは、宙に浮かぶ成長後のヤング(妹)ちゃん。
表情もすっかり変わっていて表情筋がお亡くなりになられたようだった。
「我、地獄の王なり。名を——」
「【土龍】!」
そして転移で背後へ。
頭と気持ちは元気だが体がついてこず、若干発動がいつもより遅れ気味であった。光り輝く“ナマクラ”は難なく素手で受け止められ、【土龍】に関してはそよ風でも浴びたような感じであった。
「承認欲求強いのな。最近の若者かよ」
転移はできない。剣が掴まれているので、したところで引っ付いてくるだけだ。
腕力に関してはビクともしないので無理。
となると最早仕方ないな。
俺は剣を手放し、左手で掴みの動作で迫る。
大して効かないと思っているのか、微動だにしていない。
「名を、ジ——」
「そいや!」
掴み投げなんて効くとも思えないので、一旦強引に服を剥いだ。一糸まとわぬすっぽんぽん、大人な感じに成長しちゃってるのでR指定であーる。なんつって。
「???」
あれ、恥ずかしいというより困惑しかないようで、何も隠そうとしない。
俺が紳士でよかったな。さもなくば今頃インターネットの大海に放り投げられていたぞ。
「眼福眼福」
「お待たせ————え? は?」
毒舌メガネっ娘も倒してきたのか、黄色の地獄が解除されて出てきた。謎に魔法少女……いや、魔法戦士? ともかく珍妙な格好をして髪色まで変わっているメガネちゃん。彼女は野生に還ったヤングちゃんと、俺の手にある服を数回見てから、非難の眼差しを向けてきた。
「今暴走中的なノリだから、ほら服も防具だし。デバフ奥義~剥ぎ剥ぎ~しただけみたいな?」
「よくもまあらつらつらと……まあ、倒せばいいだけね」
「お、調子乗りだ。高校デビューならぬ魔法戦士デビュー?」
「勇者デビューってとこかしら」
あいてててて、パワーアップハイになってるなー。
説明しよう!
やっぱやめた。ともかく彼女は全能感に支配されているらしい。あの様子なら、囮としては最高の逸材だろう。
というかどっかで見た事あると思ったら、超バフ盛りゴブのジェネで共闘していた主人公みたいな人だ。メガネのせいで全然気が付かなかった。
「【獄雷】」
「【光煌龍】!」
ヤングちゃんが極太の紫電を枝のように放ち、それに応じてメガネちゃんが光の龍を解き放つ。
光の龍は押されていたが、意に介することなく剣を両手で握りしめて跳んだ。
紫電が迫る。
「【土龍】」
完全に防ぎ切れずとも、少しでも遅らせれば刃は届く。
上段に構えた星の光を宿した剣は更に輝きを増した。
「——【解放】!」
「【脅威不可通】【獄王剣】」
光の剣は目に見えない障壁か何かに防がれていた。
そして返しに浮遊する小ぶりの剣が迫る。
「っ!」
「【割り込み】」
メガネちゃんの背後に転移。背中を左手で触れて連続転移。メガネちゃんを連れてヤングちゃんの背後に。
何が起きたかを瞬時に理解したメガネちゃんは、一層力込めて剣を振り下ろした。
「無駄なことを」
しかし、全方位を守っているらしくまたもや防がれる。
そしてヤングちゃんはこちらに振り返り、キッと睨みつけてきた。
「【王の圧】」
瞬間、不可視の波に攫われたように二人仲良く吹き飛ばされる。特に気圧されたとかそういうのではなく、空中というのもあり単純に圧(物理)に耐えられなかっただけだ。吹き飛ばされた先で壁に衝突、メガネちゃんを抱える形でクッションになった。
「いてぇ、重いからどいてくれ」
「そんなに重くないと思——」
「いいから止まんな!」
メガネちゃんごと転移。
俺たちが居た場所には剣が突き刺さっていた。
うだうだ言っている暇は無いと理解したようで、メガネちゃんも再び剣を構えた。それに合わせて俺も転移で“ナマクラ”を回収、そのままジャンプで肉薄した。
最善手である掴みにいくも、ヤングちゃんとて身動きを封じられるのは避けたいようで回避と反撃が飛ぶ。
転移。再度掴みにいく。
「おっと、ナイスキャッチ?」
しかし、しつこい悪質タックルさえ悠々と回避し、俺の一本しかない腕の手首を掴んできた。
そしてそのまま地面に投げられた。
地面とごっつんこする前に剣を投擲。
正面に投げた剣はあえなく不可視のバリアによって防がれた。その隙に攻撃を仕掛けたメガネちゃんの剣も同時に。
——やはりバリアの距離は一定だ。
しかし、掴み攻撃にいったときは弾かれなかった。攻撃とみなされなかったのだろうか。
勇者ちゃんがバリアをジリジリと削っていて気が逸れているうちに、俺は策を巡らせながら走った。
ちょうど赤い地獄の帳が崩れたのだ。
「ヤング(兄)ー!」
唯一の人と気配を頼りに走ると、息も絶え絶えな気を失ったヤング(兄)が横たわっていた。
一旦蹴飛ばして起こす。
「おい何寝てんだ。妹さん反抗期暴走中だぞー。保護者ならしっかりしろよー」
「……ぐ…………」
四、五回強めに蹴ってようやく起きてきた。
「動かなくていい。アンタ物作れんだろ? ピコピコハンマーくれ」
「ぴこ……え?」
「いいからはよ!」
「わ、わかったよ。【錬金術】!」
スキルを発動して力尽きたのか、再度バタリと倒れてしまった。蹴飛ばしたダメージもありそうだが、気にしない気にしない。
そのまま転移で戦線復帰する。
ヤング(妹)ちゃんの後頭部ピコピコハンマーで殴りつけ、軽快な音が響いた。
それは静寂の闇に落ちた線香花火のように、停滞を切り裂いて新たな可能性が生じたような音。
「俺が新進気鋭のピコピコ地獄を見せてやるよ!」
転移してピコピコハンマーを繰り返す。
防御はすり抜け、回避はするほどでもない。
メガネちゃんがバチバチのガチ攻防をしている間に、俺はとにかく鬱陶しい攻撃を繰り返した。
「あんまり害は無くてもいるだけでウザイよなァ! わかるぜ、部屋にちっこい虫いたら意地でも殺したくなる気分!」
「なら去ね!」
「やーだ」
ピコッ!
ピコッ!
戦場にはそぐわない音が響く。
そして本格的に俺の方に殺意を向けた。
「いい加減に……!」
「ほれキャッチ」
何らかのスキルを発動しようとして手を伸ばしたところを捕まえる。
瞬間、遂にメガネちゃんの方でバリアが砕けた。
「はああああ!!」
完全に油断しきっていたところを、ありえないくらい発光している剣がヤングちゃんの背中を斬りつけた。
二撃目を狙ったところ、またもやバリアに阻まれた様子だった。一度叩き割っても即復活らしい。
「何をしようとも人間には——」
「終わりじゃねぇよ」
流石は俺。土壇場で閃いた。
俺はピコピコハンマーで頭を引っぱたいてから、それを手放す。何を考えているのかと落下するおもちゃに視線が行った瞬間、ガシッと手首を掴んだ。
そして俺は認識できる最大距離の空にピンを刺す。
転移、ピン刺し、……。
連続でピンを刺して転移していく。
瞬きの間に俺たちは宇宙空間にやってきた。
「どうだよ、自称地獄の王様。天のその先にやってきた気分は。アンタの地元からだいぶ遠いけどホームシックにでもなったか?」
スキルの暴走なのか、悪霊にでも取り憑かれているのかはよくわからんが、ベースが人間なのは変わりないようで、既に呼吸困難で苦しそうにしていた。
片手しかないし念の為手首を握っているためスマホをいじることもできず、ボーッと宇宙空間で星を数えること数分。
「——521、522、あ、気絶した。帰るか」
姿もオーラも変わっていないので、ちょっと暴力的な帰還といこう。
地球の重力が作用する最高地点へ転移。そしてそのまま垂直落下。
空気を裂く音がゴウゴウとするなか、元に戻らないヤングちゃんを抱えて空気抵抗を削減、速度を気持ち上げる。
「宇宙と地球のコンビネーション技だ! たんまり味わいな!」
長い長い一瞬の末。
二人仲良く地面と激突した。
ダンジョンでの成長は生半可なものではないらしく、二人とも原型を保った大怪我で済んだ。欠損すら無い。
「いってー」
隕石ごっこが出来たのは楽しかったが、やはり痛みはある。まあこれくらいって感じだけど。
ゆっくりと、隣で元の小さい姿に戻っていくのを確認してから俺はのそのそと立ち上がった。
メガネちゃんが普通の黒髪状態に戻って、こちらに近づいてきた。
「あなたは——なぜそこまでできるの?」
「あん? そりゃあ、その先に命を賭ける価値のある|もの《絶品ドデカシュークリーム》があるからだ」
「命を賭ける価値のある、もの——。私はやっぱりちっぽけね。もっと頑張らないと」
「頑張るメフ!」
なんかよくわからんぬいぐるみは居るが、俺には時間が無い。美味しくシュークリームを食べるためにも、後処理は成り行きで押し付けて転移したのだった。




