間層 金荊地獄《橘カノン》
「【顕現】【解放】」
星剣を構える。
その瞬間、髪色が切り替わると同時に心すら塗り変えられていくのを感じた。
日頃持ち合わせていないはずの勇気が、恐怖や怪我に対する忌避感を上書きしていった。
目の前の相手にこれほどの殺意が湧くなら、やはりモンスターで間違いないらしい。
「我こそは、三獄将がひとり。金荊地獄の長——クラムタム」
「……星剣の担い手、橘カノン」
「そうか、貴様が今代の勇者か。それなら王のために、ここで串刺しになるがよい!」
とてつもない速度で黄金の茨が無数に伸びてきた。
動いての回避と星剣での防御でかろうじてさばく。
しかし速度が増している。
打ち合えば打ち合うほど、より鋭く速く、防ぎづらいところを攻められる。
「ふっ!」
体重移動から膝を抜いて数歩分詰める。
敵は遠距離が得意だ。わざわざその間合いで戦ってやる義理は無い。
かすり傷を浴びながら、茨の攻撃を凌ぎ、ジリジリと距離が近づく。
ピシッと音がした。来る。
足元から来る茨を先読みし、一気に加速した。
「はぁっ!」
この近距離は、私の間合い。
一閃。
腹部を横一文字に斬り裂いた。
はらわたの中から黄金の茨が飛び出す。
「まさか、体が茨で……!」
「察しが良いな」
防ぎきれず、所々に傷を負ってしまった。
一度体勢を立て直すために大きく後退。そこで私は自分のミスに気付いた。
「【黄金大樹海】」
「っ!」
荒波のように茨が猛々しく迫った。
剣を振って斬る、斬る、斬る。
剣を振る度に茨は追加され、処理速度が追いつかない。
後退したせいで攻撃に転じようにも遠い。
「【光煌龍】六連!」
前方へ六匹の光の龍を放ち、負傷覚悟で走った。
体に茨が突き刺さり、【星剣】の力で痛覚は鈍くなっているはずなのに痛いそれを必死に堪えて突き進む。
「無駄だ、【神縛り】」
四肢が茨に絡め取られる。
しまった、なんて言う暇もなく。
巨大な茨に貫かれそうになった。
本来なら心臓を潰されていたのだが、謎の光がそれを阻んだ。それは私の内側から出た光で、小さなぬいぐるみの形となった。
「めーふめふめふ! メーフィめふ!」
クマとも犬ともとれるぬいぐるみは、アイロンで貼り付けるタイプのシールてひっついたようなペラッペラのコウモリの羽で浮かんでいた。
いや、それ以上に——
「しゃべった。気持ち悪っ」
「ひどいめふ!?」
「メーフィは、カノンの勇者としての役割をサポートするために生まれた、サポート妖精めふ!」
「女児の趣味は無いんだけど……」
とはいえ、さっきの防御スキル? が無ければ死んでいただろう。自分の中にこんなのが居たと思うだけでゾッとするが、命には代えられない。
それに、
「チビが増えたところで変わりはしない!」
「っ!」
茨は止まない。
距離もとられたのでかなり厳しい状況である。
必死にさばいていると、メーフィなる喋るぬいぐるみが金属製の手甲に変化した。顔は律儀についているが。
「メーフィを装備するめふ!」
「これで何も無かったら許さない!」
右手用だったので剣を一瞬手放して装備した。
「【英雄変身】めふ!」
直後、頭に機械的な声が響く。
『——承認。勇者レコード』
メルヘンな空間に突然投げ出された。
ふわふわと落下し、透明なガラスを通過。
シャンッと音を鳴らして足に鎧が生じた。
女児アニメを彷彿とさせる変身の流れ。
そのまま順番にガラスを通過して、リボンやらフリルのついたスカートタイプの鎧を着せられた。
そして夕日が差し込む丘に着地した。演出なのか痛みは無い。
——丘には、一振りの剣がある。
気が付くとそれに手を伸ばしていた。
「我が使命、勇者の本懐はここに成る」
自然と発した言葉と同時に剣を握り、鎧の数箇所に青い花が咲いた。
そして変身バンクの終了と言わんばかりに通常の空間にて戻っていた。
手を数回握り、外見のクールでありながら可愛らしい鎧以外にも変化があったのを確認。
「凄い……負ける気がしない」
膝を抜いて距離を詰める。
そしてそのまま防御の茨ごと敵を斬りつきけた。
致命傷とまではいかないが、深手だったようでクラムタムは後ずさった。
更に踏み込む。
そのまま返しの太刀で切り上げて、最後の攻撃に繋げる。
「【解放】【光煌龍】!」
「【金色庭園】!」
勇者の剣に星の力を織り交ぜ、十体の龍を纏わせた上段斬りを放つ。
無数に伸びる黄金の茨を消滅させ——
「はああああ!」
途中まで歯の立たなかった相手を押し切ることができた。真っ二つにするというよりは、膨大なエネルギーによって吹き飛ばした形である。
吹き飛ばしたことで弱ったのか、地獄は解除されていく。
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——吹き飛ばされたクラムタムというと。
「っ……はあ、まだ、人間なんかに、勇者などという——かはっ!?」
クラムタムの胸を、鳩が貫いた。
小さいながらも威力は高く、傷を負っていなくとも致命傷だっただろう。
「どこから——」
そこで悟った。
ひとつの地獄を管理する主すら届かぬ怪物が、地上にはいるのだと。
自身の得意とする遠距離攻撃、射程、威力、速度、どれをとっても光の鳩に負けていた。
自身の死を自覚したと同時に、クラムタムは蜂の巣となって薄黒い霧になって消滅したのであった——。
パタン。
白髪の恰幅のいい青年が、喫茶店のテラス席から本を閉じて立ち上がった。四角い黒縁メガネをクイッと上げ、首元に赤い紋章を浮かべて。




