間層 灼煉地獄《ガレル・ヤング》
モンスターどもを蹴散らして辿り着いた先で、ようやくカレラに追いついた。しかし着いた時には謎の光に包まれていて、あっという間に地獄へと引き込まれてしまった。
「ふん、一番弱そうな人間だがまあいい。さっさと終わらせてあのイカれた人間を食べるとしよう」
「その口ぶり、人間ではなさそうだ」
人の言葉を介する化け物か。それなら躊躇する必要はない。
「当然、下等生物とはわけが違う。我こそは、三獄将がひとり! 灼煉地獄の長——魁琉!」
「僕は米国の探索者、ガレル・ヤング!」
二丁のハンドガンを構えた。
カイリは手をかざしている。
少しの静寂の後、地面で揺れる炎がゴオッと音を立てた。引き金を引いた。
最初の弾丸は、かざした手から放たれた巨大な火球に呑まれてしまった。
大きく火球を回避しながら、銃を連射モードに切り替えて休む暇なく撃ち込み続ける。弾は常に【錬金術】にて補充、ジャムっても同じく【錬金術】で作り替える。
慣れてきたいつもの戦い方だけど、着弾前にカイリの周囲の熱で弾丸が溶けてしまっている。
不可視の熱鎧といったところだろう。
「どうした! そんなもんか!」
ドスンと力強く一歩踏み込まれ——気付いたら目の前にいた。咄嗟にチェンソーを錬成、力いっぱい振り上げた。
「っ!」
ミナミが片腕にしてくれていたにも関わらず、チェンソーごと焼き斬られこちらも右腕を失ってしまった。
断面は炎の剣で焼かれ、痛みが通常の切り傷の数万倍は痛い。
今すぐのたうち回りたいのを、歯を食いしばって堪えて一歩。前へ踏み込んだ。遠距離ではダメだ。近距離、それも想定外の一撃で仕留めなければ倒せない。
「パイル、バンカー!」
残った左手を動かして気を引いた隙に、右腕に杭打ち機を搭載した義手を生やして杭を土手っ腹に突き刺し、射出。貫通とまではいかず、それなりの傷だけつけた。
「っとと、やるな。ちょっとばかし本気を見せてやるか。来い“熱不止!”」
「ハァ……次で倒す。妹を迎えに行かなきゃいけないんだ。待ってて、カレラ。今お兄ちゃんが——君を叱りに行くから」
チャンスは一度きり、地獄の炎を纏った薙刀を持つカイリではあったが、片腕が無いせいか安定していないように見えた。
ミナミは凄いな。この強さの敵相手に欠損させるほどの立ち回りを一人でやったのだから。
腕を焼き切られた痛みでまとまらない思考を必死に整えて、処理へのたった一つの道筋を反芻した。
はやく動かないと痛みに頭が支配されそうだ。
そんな思いを振り切るかのように、死ぬ気で叫んで走る。
「はああああ!!」
「来い! 【煉獄大車輪】!」
姿勢を低くして走り、カイリが踏み込んだと同時に後ろ足に【錬金術】で鉄の棒を生やす。
姿勢が崩れた——。
「あああああぁぁ!!」
加速、義手をチェンソーにして先程削ぎ落とした腹部に刃を入れた。
周囲の熱だけでチェンソーや義手が溶ける。
しかし【錬金術】で修復し続けて攻撃を止めない。炎がボッと沸き立つも、火傷を気にせず無理やり真っ二つにした。
いや、できていない。苦痛が見せた幻覚だったのだろう。半分までしか切れなかった。
痛みが最高潮に達して意識が遠のく。
地に伏した僕の頭上からただならぬ熱を感じた。
「雑魚の割には良い根性だったぜ。地獄で可愛がってやるよ」
ああ、どうやらここまでらしい。
妹のことは心配だが、ミナミなら何とかしてくれるはずだ。きっとカレラは天国に行くだろうし、僕はもう会えない。最後に、あの頃の穏やかな笑顔が見たかった。
死が迫る。
「は〜い、そこまで。観戦のつもりだったんだけど……若者が頑張ってるの見たら、ねー?」
この声は、日本に来て、ミナミと話す際にカフェに居た眼鏡をかけていない方の女性、か?
「なんだ、ちょっとは骨のありそうなヤツも——」
「うーん、骨より肉の方が求められるよ〜? ま、君の炎じゃー、こんがり焼くのは無理だけどね〜」
「なに?」
「恵の雨、簒奪の海……んー、ここまではいっかー。とりあえずえいっ!」
地面を蹴った音がした。
それはポヨンと音を立て、性質を変えて——
「っぁ!?」
「これがホントの散弾銃〜なんて。それじゃあ、バイバーイ」
大きな水飛沫が聞こえて、世界を焦がす地獄は消えていった。地面から熱が消えたのだ。
そこで僕は安堵によって緊張の糸が切れ、意識を手放すのだった。




