29層 狩りの手本
「俺が最後かー」
転移でビルの半ライスさんの部屋に戻ると、既に二人とも待っていた。半ライスさんにいたっては先にシュークリームを食べてやがる。ひと仕事終えたからってことだろうか。
「戻ったかミナミ!」
「私はさっき間引き終えて戻ったばかりだ——ってなんだその怪我は!?」
「ん? 地獄を見てきたって感じ」
「馬鹿な……それほどのモンスターを呼び出したことなんて無かった。知らない筋書きも考慮する必要があるという訳か…………」
なんかブツブツ言ってらぁ。
気にせず半ライスさんにシュークリームを要求して堪能する。このために頑張った。このために片腕と片目……目はもう治ってるな。ならいいや。
シュークリームに祈りを捧げながら食べ、高級そうな紅茶も嗜む。心は立派な貴族様である。
「うむ、美味」
「美味であった!」
俺の真似をして満足そうに無い胸を張っている。
あらあら半ライスちゃん元気ねぇ、と親戚のおばさんみたいな感情も沸いてきた。
「お、食ってる間に治ってる。流石は名店のシュークリーム。片腕くらい余裕ってわけか」
「おお、そうなのか! 治癒効果もあるとは気付かなんだ!」
「そんなわけないっての……はあ、29層、行きましょう」
そう言って転移のためにこちらに手を差し出すコスプレ痴女氏。
そういえばそんな話だったなと思い、パンツを見せてくれたらいいよと言ってみたら差し出した手がグーになったので前言撤回。
「そりじゃあ行くぞー、せーのでジャンプしてくれよ」
「お? 楽しそうだな!」
「いや、何を……」
「転移!」
三人で輪になってジャンプ。
次の瞬間、ダンジョンの29層にて揃って着地した。
「いやー、やって参りました、29層。というわけでね」
ジャンプで着地の瞬間に他の場所にいたらカット編集みたいなもんだろうと、その体で進める。
目の前にエルフどもの住処があると紹介するも、二人とも揃って首を横に振った。
「やはり見えない、か」
「あ、それならミナミに視界を共有してもらえばいいではないか!」
よいか? と問われたのでお好きにどうぞと丸投げした。
「垣間見よ【万視の魔眼】」
半ライスさんの瞳が淡く輝いた。
俺の両目に熱が宿ったような感覚を覚える。
「うむ、確かに見えている景色が違うな」
「ここは確かに……っ!」
まるで禁忌でも犯した者を罰するかのように、空が一面の星で埋め尽くされた。エルフ達は周囲を囲って弓を構えている。どうあっても殲滅する気らしい。
俺と半ライスさんが動こうとしたのを、コスプレエルフが制止する。
「これは、私のケジメだ」
彼女の胸部、そこの紋様らしきものが、布越しでもわかるほど赤く輝いた。
「【落星落とし】」
煌めく箒星。
無数の光が枝分かれしながら空へ昇った。
それぞれは小さな石の断片であるものの、込められた力は桁違いらしく、天を埋める程あった落星が全て砕けて消滅した。
切り札を完封されて驚くエルフ(モンスターの方)に対し、リーフ氏は抜刀で応えた。姿がブレる。今の俺でも辛うじて見えない速度で動いたのだろう。
「さらば、堕ちた同胞」
納刀。
同時に周囲に居たエルフは、漏れなく斬られていた。
全てが薄黒い霧と化したのを眺める。
半ライスさんも、下唇を軽く噛んでいるリーフさんに憐憫の目を向けている。
気持ちは分からないでもない。憧れていた存在が、品位の欠片も無いモンスターだったのだ。解釈違いで暴れたくなるのも仕方ない。
「ま、あれだ。あんま気にすんなよ。ダンジョンが生み出した幻影みたいなもんだから」
「そうだそうだ。器が同じだとしても、そこに意思はなかった。気を病むな」
何だか俺と半ライスさんの励まし方が違うような気もするが、リーフ氏も噛み締めるように目を瞑ったあと、覚悟を決めたように目を開けた。
「ええ。きっと——」
「あ、宝箱。ラッキー」
宝箱を発見したので飛びついて開封。
しかし、俺の期待とは裏腹に、中身は葉っぱが一枚だけだった。持ち帰るにしても無くしそうな大きさなので面倒だから食べた。
うん、草の味。ドレッシング持ち歩いときゃ良かったな。あとで枕に和風ドレッシングを買って入れておこっと。
なんだか不満気なリーフ氏と半ライスさんを連れて、俺達は地上に戻ったのだった。




