0層 ブラリ、地獄巡りin地上
半ライスさんとこのビルから出ると、外は既に地獄絵図そのものだった。炎の狼、漆黒の鷹、地を泳ぐ瑠璃色の宝石鮫、親のゴブリンより見たゴブリン。
その他水中階層以外の20層までのモンスター。
「よーし、皆殺しだぜ☆」
俺はクラウチングスタートでスタートダッシュを切った。そして走りながら素手でシバキ回していった。
幸いにも数が多いだけで大したギミックや特性を持っているわけでもなく、容易に薄黒い霧へ還していった。
ふと、向かう先に崩れ落ちた親子が視界に入った。
炎の狼に襲われているようだった。
「ママ……?」
「大丈夫、大丈夫だから……」
子供を守るように抱きしめる母親、その背には火傷がいくつもついていて、いたぶられているのが見てとれた。
「よっと。奥さん、向こうに子供と一緒に逃げてくださいな。あそこの……うわ、なんかバリア張ってある。とりあえず、あの謎バリアのあるビルは安全っすから」
俺はそれだけ言って——
「おにーちゃん! ありがと! ママを守ってくれて!」
「ありがとうございます!」
「……おうよ」
軽く手を振って応じ、立ち去る。
ガラじゃないんだけどな。
だけど、悪い気はしない。ときたまやる善行、それも感謝のおまけ付きなら殊更に良い。
とはいえ、最終的なゴールは早期決着からのデザート。
「邪魔だ、雑魚ども!」
ひたすらに殲滅しまくっていると、前方の頭上にドラゴンが。
「【割り込み】」
ドラゴンの懐に入ってパンチ。
「かった! 全盛期の俺のエクスカリバーかよ」
鱗が硬くて、少し振動を与える程度で終わってしまった。むしろこっちの手が痛い。
イテテと手を振っていると、ドラゴンの上に誰かがいるのが判明した。連れ去られたとかそういうシチュエーションではなさそうだ。
「あれ、あんた確か、シスコンに追われてるヤングちゃんだっけ」
「……まあ、覚えてくださっていたのですね」
なんかすっごいじっと見られている。
気のせいか少し顔色も悪くなってきている。あんま人の顔みて青ざめないで欲しいものである。
まあいいや。
「これ、起こしてんのアンタだろ?」
「…………そうだと言ったらどうなるのかしら?」
状況的に怪しいと思ってのカマかけだったが事実だったらしい。なかなかのワルだ。嫌いじゃない。だけど、今は報酬が待ってるからな。
「んー。際限なく出てくるならぶっ飛ばして止める。そうじゃないなら追加が来ないようにぶっ飛ばして殲滅する」
「結末は同じですのね。それでは、やってみなさい!」
手をこちらにかざし、人が通れるサイズの門が出現した。中二心をくすぐられてかっこいい。
「【地獄門・裏門】」
炎系の勝気なオーラの爆美女と、氷雪系の繊細美女、そして黄金を纏った褐色美女。
ビジュアル系の路線なのかと思ったが、一挙一動が洗練されていて明らか強者なのが分かった。
動き出してこないうちに終わらせよう。
「隙あり!」
「へ?」
向こうの強そうな三人がこちらを見る前に転移。
そして呼び出した本人のヤングちゃんの腹部に前手で拳を突き刺す。
「がっ……」
「そいや!」
続いて奥手で顎を穿った。
「ぁ……」
ヤングちゃんの妹がノックアウトしたのを確認してすぐさま転移で距離をとる。
「よかったのか? アンタらなら邪魔できただろ」
俺の問いかけに、炎系の美女が答える。
「ああ。おかげで眠りにつかれていた主が目を覚ます」
何を言っているのだと不思議に思ったそのとき、ヤングちゃんの身体が禍々しい光の渦に包まれた。
「【土龍】!」
「【凍結蒼粉】」
変身中にちゃちゃを入れようとしたが大地の龍は凍りつき、砕けてしまった。再び転移で接近。
次は“塵舞”を手に。
「【黄金之詩】」
「【祭豪炎武】」
黄金の茨と炎の塊が迫る。
速度はギリギリ目で追える。
身体が着いてくるかは別だが。
「あいたっ」
左目を茨で貫かれ、剣を握っていた右腕が焦げ落ちた。枕から“ナマクラ”を取り出してから、枕を壊されるのは嫌なので枕のみ自宅に転移させておく。
「らあ!」
右腕が無くなりバランスは悪いが、むりやり体を捻って斬り裂いた。意外なことに斬り裂けたのだ。“ナマクラ”は格上を前にすると真価を発揮するらしいとは知っていたが、まさか錆が落ちて純白の西洋剣になるとは。
ともあれ、肉を切らせて骨を断つことには成功したようで、左目と右腕を引き換えに、金ピカ女の左肘と炎女の右の肩口まで斬り飛ばせた。
攻撃の後隙を見逃されることなく三人による追撃が来る。
どうやら自分たちが傷を負うと思っていなかったのか、ワンテンポ遅れていたので容易に転移で回避。
氷女の背後から逆手で首元目掛けて剣を力いっぱい引いた。
当然向こうも首を守るように氷の棘付き盾を作って剣の軌道上に置いてくる。
「——ぬんっ!」
強引に片膝を抜いて軌道を変更。盾を避けて背中側から左足を切り取った。
すかさず【土龍】を発動。氷漬けにされて防がれたが、目くらましの役目は果たした。
そして俺の思考を先読みしたのか、金ピカ女と炎女は自身の背後を、氷女も二人のどちらかの背後に転移したと思ったのだろう。
——がら空きだ。
氷になった土を突き破って、そのまま氷女を斬り裂いた。
かなりの深手。
このまま押し切る、そう踏み込んだ矢先に。
世界が塗り替えられた。
「【灼煉——」
「【金荊——」
「【凍雪——」
「「「地獄】!」」」




