0層 エルフに詳しい専門家(痴女)
学校も終わり、予定通りある場所——半ライスさんのいかつい事務所へやってきた。どうやら顔パスらしく、「教祖様のご友人様! どうぞこちらへ」とスムーズに案内された。
そういえば珍妙な宗教団体やってたなーと思い出しながらも、最上階の、こないだ突入した場所とは別の豪華な部屋に通された。半ライスさんを呼びに行くらしい。
「おー、悪趣味な成金部屋って感じだ」
金銀絢爛、部屋中がギラギラ輝いていてお世辞にもオシャレとは言い難い。
若干引きながらボーッと部屋を眺めていると、紅茶が出された。懐からたまたま買ったばかりの牛乳を取り出し、ミルクティーにして飲む。
「ミナミー! どうした、今日は何の遊びをするんだ!」
俺が優雅にロイヤルなミルクティーを楽しんでいると、勢いよく扉が吹き飛び、相変わらず無邪気な半ライスさんが登場した。
お高そうな扉なのにもったいない。どうせ捨てるのだろうし、とカバンの中に入れた枕の中にサッと収納。俺の目を凝視していた半ライスさんは気付いていない様子だ。
「今日は遊びに来たんじゃない。そう、仕事に来たんだ。エルフコスプレの痴女さんいる?」
「む、リーフのやつに何か用なのか」
「言ったろ仕事だって」
「ちぇっ……リーフ、聞こえているだろう。来い」
「——は。ここに」
どういう仕掛けか、室内につむじ風が発生。
その中にもう見慣れたコスプレ痴女さんが出現した。
相も変わらずフードを目深に被っている。
「昨日……いや、今日か? ダンジョンでエルフっぽいモンスターと遭遇してさ。コスプレするくらいなエルフスキー卿に、あんたならどう戦うか聞いてみようと思って」
「エルフの、モンスター?」
「そそ、隕石を召喚して叩きつけて、自分たちはバリア張るタイプの陰湿なエルフ」
「隕石だと!」
グイッと顔を近付けられた。
何やら酷く驚愕している様子。
今「飛んだ唾うめー」って言ったらどんな反応するか気にはなったが、俺は我慢して飲み込んだ。言葉のついでに唾も飲み込んだ。
紳士なので。
「そそ、よくアニメとかゲームでボス級のやつがやる、空間の裂け目から星を落とすやつ」
「馬鹿な、それではもう……。待って欲しい。君はそのエルフをどこで見かけたんだ?」
「ダンジョンの29層のここら辺」
俺はマッピングしていたものを見せた。
それを見て、眉間に皺を寄せて考え込む痴女さん。
しばらく悩んだ末、出てきたのは俺に対する質問だった。
「君は過去、私以外でエルフ族と面識があったり、“霧払いの祝詞”を施されたりは……いや、してなさそうか」
よく分からないが、俺が分からないということは感じ取ってくれたらしい。というか私以外のエルフ族って言っていたが、いつまでなりきりするつもりなのだろう。
「あ、そういえば動画回してたから見せるわー。ヤツらのしょぼい集落も写ってるし」
「……ここに、何か見えているのか」
「え? あるじゃん、竪穴式住居」
「私には見えない」
「同じく見えんな、ただ、そこに何かがあって呪いか祝福か何かで隠蔽されているのは分かる」
二人揃って見えない設定か。
あれか、俺にだけ見えてるって言って、そういう遊びに付き合わせるつもりなのだろう。
「わ、わー。俺だけエルフが見える件についてー」
「であれば、スキルか。星の隠蔽を破るとは、流石は我が友なだけはある」
「…………連れて行ってくれるk「じゃあ我も!」
「あー、はいはい」
何やら行きたいらしいが、こいつら探索者の資格持ってるんだろうな?
それとなく聞いてみるも、どちらも持っていないらしい。以前痴女さんが20層に来れたのは、「超スピードで突破した」とのことだ。凄いこと言っているが、彼女ならできてもおかしくない。
「まあいいや、誰にもバラすなよ? 俺の探索者免許が剥奪されるから。ほれ、お手」
「うむ!」
「言い方に悪意が……まあいいか。それどころではない」
それぞれ俺の手に手を乗せた。
細くとも硬く、たゆまぬ鍛錬を積み重ねた手の痴女さんと、コップすらもったこともなさそうなふにふにの半ライスさんの手を触り比べてから。
俺たちは29層へ——
ドカンッ!
ビルが揺れるほどの爆発音が響き、外で悲鳴が聞こえ始めた。
「おー? いうて12月前ってお祭りの時期か? まあいいやいこー」
「ごーごーだぞー!」
「馬鹿な……なぜこの状況で、いや、くっ……。す、少し待って欲しい。どうやら町にモンスターが出現している。先にそちらを制圧して——」
痴女さんは顔を一層しかめながら、窓を開けた。
「えー、じゃあ、ゲームしてるか」
「お、ではこないだ用意させた超巨大人生ゲームをやろうではないか!」
なんだそれ。
面白そうだな。
やってみたい。
ミナミ、魂の字余り。
「君もなのか八百枝南。最低でも中立、善寄りの存在だと思っていたのに……」
「なに急に。勝手に決めんなよ。そんなの後付けだろ? 行きたきゃ行きたいやつが頑張ればいいんだよ」
「そーだそーだー。おこごとリーフに言ってやれミナミ!」
「……冷蔵庫に、ある有名店の数量限定の“絶品ドデカシュークリーム”がある。美味しく食べられるのはあと数時間といったところだろう。エルフの住処を見たあとに三人で食べようと思っていたのだが——」
「よし、俺が南側をやる。ちじ……リーフだっけ、あんたは北。そしてマイフレンドはここの教徒を使って避難誘導を」
「うむ。任されよ。即座に終わらせるんだぞ」
「おう!」
そうして俺たちは、大いなる戦いの渦中に身を投じたのだった——。
「……はぁ。扱いやすいんだか、そうじゃないんだか」




