29層 強襲
リアリーの生存確認で僅かに気の抜けた俺は、29層に踏み入って、その自然の美しさを堪能していた。
青々しい緑に、澄みきった青空、時折見つかる美味しい水が流れている川。
とてもここがダンジョンの中とは信じ難いほどに、生き生きとした自然があったのだ。
「ここでスローライフできる説」
丸太で別荘を建てるのもありかもしれない。幸い、枕の四次元収納があれば建材の確保・運搬は容易だろう。ホームレスになったらここに住もう。
マイナスイオンがドバドバ出てそうな別荘候補を求めて探索を続ける。
前の階層でやったように空に転移して全貌を把握するやり方が手っ取り早いのは明白だが、そこまで生き急いじゃいない。急がば回れ、徒歩でしか気付けない仕掛けで、我が聖剣が復活する可能性だってある。
空から一望するのなんていつでもできる。区切りのいい30層を攻略してサイトを更新する前にちゃちゃっとすればいいだけ。
嫌いなものから先に食べる主義なんでね。
「この階はどんなヘルシーなモンスターが出るやら」
水源を辿りって川上の方へ進む。
そろそろキャベツとか出てきてもいいと思うんだが——っと?
前方、少し開けた場所があった。
モンスターの巣かと思って忍び足で近づいてみる。
「なんだあれ、竪穴住居?」
そこには、土でできたカマクラが複数建てられていた。数枚写真におさめ、考古学者が世紀の大発見をした際の気分で、ウキウキで歩み寄——かすかに音がした。背後。
飛来した何かを視認し、掴めそうな形状であると判断して手で側面を捕らえてキャッチした。
掴んだそれを見てみると、不格好な矢だった。
「木製な分は筋力でゴリ押しっでわけか——あ?」
斉射が迫る。
先の一撃は様子見だったらしく、俺の視界180度以上が矢の色に染まった。位置取りが最悪過ぎる。
俺は無防備に開けた場所、向こうの姿は木に埋もれて見えていない。樹上からの狙撃手が複数いるのは非常に面倒だ。
「【土龍】」
目くらまし兼防御として、遮蔽物を出した。
そして回り込む。
転移を使わなかったのは、単純に防御した方が速かったからである。転移にはピン刺しというワンアクションを挟む必要があるため、咄嗟の防御手段としてはやや劣る。あらかじめピン刺ししておけば転移でいいのだが、今回みたいな奇襲にはこれが最適解だろう。
別の座標に飛んで戻ってくるにしても現在地にピンを刺すか、近くのピンからここまで走ってくる必要が出てくるし。
「この木、いるだろ!」
どさくさに紛れて樹上へ飛び込んだ。
右手に握った“ナマクラ”を振りかざし、敵に叩きつけようとした。
「人間……?」
敵の姿を見て動きを止めてしまった。
あまりに人と変わりない見た目、金髪碧眼の美少女だったのである。人間と違う点は、耳の先が尖っていることくらいだろうか。
「【◎★‐●△ヾ】」
「なるほーね。人語を介さないってことはモンスターだな! 外国人だったらごめん!」
手の甲が青く光っていたが、攻撃ではなかったようだったのでさっさと倒す——。その意志を込めて振りかぶり、空の異変に気付いて大慌てでそれなりに離れた場所に転移した。
空はもちろん天井がある。
だというのに。
「ちょっと鬼畜過ぎやしないか?」
空が割れ、異空間から隕石が一つ、瞬きの間に地に落ちた。エルフのモンスターの方を目をすぼめて見てみると、バリアのようなものが張られていて隕石の衝撃から身を守っているようだった。
自爆特攻で隕石落とし、自分は身を守れる……面倒だな。それも矢の数からしてかなりの数居たはずだ。
暗殺スタイルで転移で殺して回るにしてもかなり大変だ。
「一旦この件は持ち帰らせてもらいますわ」
俺の天才的な頭脳を持ってしても、隕石落としの高火力攻撃を封殺する方法はパッと思いつかない。
こういう時こそ、強者の攻略方法をヒントにするべきだ。俺がそれを出来ずとも、突破口は見えてくる、はず。
一度帰宅し、俺は学校終わりにある場所に寄ることにしたのだった。




